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令和8年8月5日判決言渡
令和8年(行ケ)第10006号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和8年6月8日
判 決
原 告 テックメディカルnano株式会社
被 告 ナノソリューション株式会社
同訴訟代理人弁護士 西 村 嗣 人
岡 直 人
同補佐人弁理士 本 田 史 樹
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2024-890069号事件について令和7年12月5日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがないか、又は当裁判所に顕著である。)
⑴ 被告が商標権を有する登録第6513992号商標(以下「本件商標」という。)は、別紙商標目録記載4のとおりの商標であり、同目録記載4の商品を指定商品として、令和3年6月1日(以下「本件出願日」という。)に登録出願し、令和4年2月7日(以下「本件査定日」という。)に登録査定、同月16日に設定登録されたものである。
⑵ 原告は、令和6年10月18日、特許庁に対し、本件商標について、商標法4条1項7号、15号及び16号(以下、各号を単に「7号」などとい
5 う。)に該当すると主張して、本件商標の商標登録を無効とする審判を請求した(以下「本件審判請求」という。)。特許庁は、本件審判請求を無効2024-890069号事件として審理し(以下、この手続を「本件審判手続」という。)、令和7年12月5日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月19日、原告に送達された。
⑶ 原告は、令和8年1月15日、本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。2 本件審決の理由の要旨本件審決は、以下のとおり判断して、本件商標は7号、15号及び16号に該当しないとした。
⑴ 被告は、設立当初から現在に至るまで、「ナノソリューションAg + 」と称する商品を取り扱っており、当該商品をOEM供給していること及び自己の取扱商品に「ナノディフェンダー」の語を使用していることが推認できるから、被告が本件商標の商標登録を受けるべきでない者ということはできず、本件商標は7号に該当しない。
⑵ 被告が本件商標をその指定商品について使用しても、取引者及び需要者において、その商品が原告又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないから、本件商標は15号に該当しない。
⑶ 本件商標は、その指定商品との関係で商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるということはできないから、16号に該当しない。
第3 取消事由及びこれに関する当事者の主張
1 取消事由1(15号該当性に関する判断遺脱・審理不尽)
(原告の主張)
原告の社名である商標「テックメディカルnano」並びに製品表示であ
5 る商標「ナノソリューションAg+」、「ナノテクトAg+」及び「ナノディ
フェンダー」(以下、これらを併せて「原告表示」という。)は、取引現場における出所認識を形成し得る中核表示である。本件審決は、これらの表示を需要者の認識の形成過程に位置付けて評価することなく、判断過程から落としている。これは判断対象及び当てはめの欠落であり、本件審決には判断遺脱・審理不尽の違法がある。
(被告の主張)
本件出願日及び本件査定日において、原告表示が原告の業務に係る商品等を表示するものとして需要者の間に広く認識されていた事実はない。原告は現在自社HPも存在せず、事業の実態すら乏しい状態であるから、本件出願日及び本件査定日においても周知性があるとは程遠い状態であった。
2 取消事由2(OEM契約認定の証拠評価の誤り)
(原告の主張)
本件審決は、原告が被告による虚偽表示及び誤認誘導(出所表示操作)の立証として提出したWeb表示等を、被告のOEM契約成立推認の材料として逆用した。また、被告に対する通知書において被告とのOEM契約は成立しないと整理済みである上、OEM契約の成否は、本来、契約書等の一次資料で立証されるべきところ、本件審決は、その欠缺を看過したまま外形事情と利害関係の言及によりこれを推認したから、証拠評価の根本的誤りがある。
(被告の主張)
本件審決は、提出された証拠(請求書等の客観的資料)に基づき、取引の実態を適法に推認したものであり、自由心証主義に基づく合理的な証拠評価である。
3 取消事由3(16号該当性に関する判断遺脱・審理不尽)
(原告の主張)
本件商標の指定商品は、実態としては抗菌・抗ウイルス施工薬剤(施工現
5 場・建築役務で用いられる薬剤)であり、医薬品ではない「化学品(第1類)」
として位置付けているにもかかわらず、指定商品として「医薬品(第5類)」との登録外形を掲げることにより、需要者に医薬品同等の品質・効能を連想させ得るものである。しかるに、本件審決は、このことを判断枠組、事実、理由の当てはめに取り込まず、実態判断を欠落させているから、判断遺脱・審理不尽の違法がある。
(被告の主張)
本件商標の客観的構成自体は、商品の品質を誤認させるものではない。
4 取消事由4(7号該当性に関する判断回避)
(原告の主張)
本件商標は、原告表示との誤認を誘導し、原告の信用にフリーライドして商流を奪取するものである上、医薬品区分(第5類)の登録外形を用いて医薬品的効能・品質を連想させ得るものである。これは、取引秩序破壊として社会的害悪性が強く、公序良俗を害するおそれがある。本件審決は、このことを判断過程に取り込んでいないから、判断回避の違法がある。
(被告の主張)
原告には被告がフリーライドして利益を得るような信用はそもそも存在しない。
5 取消事由5(本件審判手続上の違法)
(原告の主張)
本件審判手続では、送達欠落等の手続不備が存在し得ること及び原告の提出書面(上申書(証拠)4通・弁駁書等)が判断過程で評価対象として取り上げられていないことが重畳しているから、対審の前提を損ない、審決の判断過程の適正及び信用性を基礎から揺るがす違法がある。
(被告の主張)
争う。
5 第4 当裁判所の判断
1 認定事実
後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
⑴ 原告は、「テックメディカルnano株式会社」の商号で令和2年7
月7日に設立され、「光触媒、空気触媒に関する製品の販売、施工及びメンテナンス」等を目的とする株式会社である。原告は、別紙原告商標目録記載の各商標権を有している。被告は、「ナノソリューション株式会社」の商号で同月3日に設立され、「光触媒酸化チタンコーティング剤とそれを利用した製品の販売及び施工」等を目的とする株式会社である。被告は、別紙商標目録記載の各商標権を有している。原告は、設立時は現在の代表者であるA を代表取締役社長、被告の現在の代表者であるB (以下「B 」という。)を代表取締役専務としていたが、B は令和3年2月に原告を退任した。
⑵ 被 告は 原 告に 対し 、令 和2 年 8月 から 同年 12 月 にか けて 、「ナ ノ ソ
リューションAg + Sスタンダード」、「ナノソリューションAg + Mマイルド」、「ナノソリューションAg + CRA」、「ナノテクトAg + 」、「ナノソリューションAg + CAR」、「ナノソリューションAg + M」と称する商品等を納入し、その代金を請求した(甲44-5のうち本件審判手続の乙第5号証)。
⑶ 原告は、令和2年10月頃、京都、滋賀、大阪のタクシー及びバスの車
両や、同年12月頃、京都、滋賀、札幌のタクシー車両に対し、抗菌・抗ウイルス効果のあるものとして「ナノソリューションAg + car」のコーティングを施工した。また、原告と被告は、同年12月10日、2社共同で、世界遺産の神社に抗菌・抗ウイルス効果のあるものとして「ナノソリューションAg + 」のコーティングを施工した。これらを担当し、問合せ先になって
5 いたのは原告の当時の代表取締役専務であったB であった。(甲32、3
3)
⑷ 被告は、令和3年3月19日をもって、原告に対する商品の供給を終了
した(甲14)。
⑸ 被告は、同年10月7日頃、銀系光触媒コーティング剤である「ナノ
ディフェンダーAg +」改良版新製品の発売を開始した(甲5、30)。
⑹ 被告は、令和7年1月頃、大阪、京都及び東海地方の事業者に対し、悪
臭・抗菌対策のコーティング剤である「ナノソリューションAg + 」をOEM供給した(甲31)。
2 取消事由1(15号該当性に関する判断遺脱・審理不尽)について
15号の規定は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものである。しかるところ、前記認定事実によれば、原告には、令和2年10月頃から同年12月頃にかけて、一定の範囲で「ナノソリューションAg + 」のコーティングの施工実績は認められるが、その他に、原告表示の使用態様及び使用地域、「ナノディフェンダーAg + 」等を使用したコーティング剤又はそれを使用した施工実績、原告表示の広告宣伝の方法、期間、地域及び規模等が明らかではないから、本件出願日において、原告表示が15号によって保護されるべき周知著名性を有していたと認めるに足りる証拠はないというほかない。そうすると、本件商標をその指定商品に使用したときに、その取引者又は需要者において、その商品が原告の業務に係る商品と広義の混同を生ずるおそれがあるということはできない。これに対し、原告は、原告表示が取引現場における出所認識を形成し得る中核表示であるところ、本件審決は、原告表示を需要者の認識の形成過程に
5 位置付けて評価することなく、判断過程から落としているから、判断遺脱・
審理不尽の違法があると主張する。しかし、原告表示が周知著名性を有していたと認められないことは上記判示のとおりであり、本件審決も同旨の判断をしているのであるから、本件 審決に判断遺脱・審理不尽の違法があるとは認められない。
3 取消事由2(OEM契約認定の証拠評価の誤り)について
前記認定事実によれば、①原告と被告は同時期に同種の事業を目的として設立されたところ、被告の商号は「ナノソリューション株式会社」であり、被告の代表者であるB は原告の代表取締役専務であったこと、②両社の設立当初は、被告が原告に対して「ナノソリューションAg + 」等の商品を納入しており、原告単独又は原告と被告の共同でその施工をしたことがあり、いずれもB がこれを担当したこと、③B が原告を退任した時期頃に被告から原告に対する商品の供給が終了したこと、④その後、被告は大阪等の事業者に対して「ナノソリューションAg + 」のOEM供給をしていることが認められる。そうすると、被告は、設立当初から「ナノソリューションAg + 」等の商品を取り扱っており、その商品を原告及びその他の事業者に供給してきたものと認められる。これに対し、原告は、本件審決には証拠評価の誤りがあると主張するが、本件各証拠に基づく認定は上記のとおりであり、証拠の評価は原告が主張するような立証趣旨や証拠の性質に拘束されるわけではないから、本件審決に証拠評価の誤りはない。
4 取消事由3(16号該当性に関する判断遺脱・審理不尽)について
原告は、本件商標の指定商品として「医薬品(第5類)」との登録外形を掲げることにより、需要者に医薬品同等の品質・効能を連想させ得るものであるなどと主張する。しかし、商標法6条2項、同法施行令2条及び別表並びに同法施行規則6
5 条及び別表によれば、商品及び役務の区分を定めた上記各別表において第5
類は「薬剤」と定められており、「医薬品」以外を含むから、
(原告の主張)
はその前提を欠くものである。そして、本件商標の指定商品は、別紙商標目録記載4の指定商品のとおり、銀を含有する抗菌剤等とされており、需要者に医薬品同等の品質・効能を連想させ得るものということはできない。したがって、これと同旨の本件審決に判断遺脱・審理不尽の違法があるとは認められない。
5 取消事由4(7号該当性に関する判断回避)について
原告は、本件商標は、原告の信用にフリーライドして商流を奪取するものである上、医薬品的効能・品質を連想させ得るものであって、取引秩序破壊として社会的害悪性が強く、公序良俗を害するおそれがあるなどと主張する。しかし、前記認定の「ナノディフェンダーAg + 」及びこれを含む標章の使用状況によれば、被告が本件商標に化体された原告の信用にフリーライドしたとは認められない。また、本件商標が商品の品質の誤認を生じさせるものでないことは前記判示のとおりである。したがって、本件商標が取引秩序破壊として社会的害悪性が強いということはできないから、これと同旨の本件審決に判断回避の違法があるとは認められない。
6 取消事由5(本件審判手続上の違法)について
原告は、本件審判手続では、送達欠落等の手続不備が存在し得ること及び原告の提出書面が判断過程で評価対象として取り上げられていないことから、本件審判手続に違法があると主張する。しかし、本件全証拠によっても、本件審判手続において送達欠落等の手続不備があったと認めるに足りない。また、原告の提出書面(上申書及び弁駁書等)が本件審決において判断資料とされたことは本件審決から明らかであるから、本件審判手続に違法があったとは認められない。
7 結論
5 以上のとおり、本件審決について、原告の取消事由に関する主張は採用でき
ず、原告のその他の様々な主張を考慮しても、本件審決を取り消すべき事由は認められない。よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第4部裁判長裁判官長 谷 川 浩 二裁判官伊 藤 清 隆裁判官諸 岡 慎 介
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