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令和8年6月18日判決言渡


令和7年(行ケ)第10121号 審決取消請求事件


口頭弁論終結日 令和8年4月23日


判 決


原 告 X₁


原 告 X₂


同訴訟代理人弁理士 柴 大 介


原 告 X₃


同訴訟代理人弁護士 三 木 義 一


同訴訟代理人弁理士 柴 大 介


被 告


コミテ アンテルナショナル オリンピック


同訴訟代理人弁護士 辻 居 幸 一


同 佐 竹 勝 一


同 渡 邊 由 水


同訴訟代理人弁理士 藤 倉 大 作


同 竹 下 薫


主 文


1 原告らの請求を棄却する。


2 訴訟費用は原告らの負担とする。


事 実 及 び 理 由


第1 請求


特許庁が取消2024-300058号事件について令和7年11月5日にした審決を取り消す。


第2 事案の概要


1 特許庁における手続の経緯等


⑴ 被告は、次の商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である(甲1の1)。被告は、平成29年12月19日に本件商標を出願し、その後、平成31年2月1日に設定登録がされた。登録番号 第6118624号登録出願日 平成29年12月19日登録査定日 平成30年12月25日設定登録日 平成31年2月1日登録商標五輪(標準文字)商品及び役務の区分、指定商品及び指定役務商標登録原簿記載のとおりの、第41類(別紙のとおり)その他第1類等に属するもの


⑵ 原告らは、令和6年3月1日、本件商標の指定役務中、第41類の全指定役務(以下「本件指定役務」という。)について、商標法50条1項に基づき不使用取消しの審判(取消2024-300058号事件)を請求し、同審判の請求の登録がされた。なお、同条2項に規定する「審判の請求の登録前3年以内」は、令和3年3月1日から令和6年2月29日までの期間(以下「要証期間」という。)であった。


⑶ 特許庁は、令和7年11月5日、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月14日、原告らに送達された。


⑷ 原告らは、令和7年12月9日、本件審決の取消しを求めて、本件訴えを提起した。2 原告らが取消審判請求の手続において主張した、本件商標が要証期間に適法に使用されていないとする理由の要旨


⑴ 理由1被告であるコミテ アンテルナショナル オリンピック(国際オリンピック委員会。以下「IOC」という場合と、「被告」という場合がある。)は、民法上の権利能力を有しないため、権利主体として権利行使をすることができず、契約の当事者になれない(契約の当事者として締結した契約は無効である。)。したがって、IOCによる本件商標の使用は、商標権者としての本件商標の使用とはいえず、IOCによる公益財団法人日本オリンピック委員会(以下「JOC」という。)との本件商標の使用許諾の契約は無効であり、したがって、JOCによる本件商標の使用は使用権原なき者による使用となるため、商標法50条2項の登録商標の適法な使用ということができない。


⑵ 理由2本件商標の使用について、後記本件記事1(乙1の5)につき、IOC自身が使用していることが立証されておらず、また、IOCが委託業者にライセンス契約に基づき使用させていることも立証されていない。後記本件記事2(乙1の6)についても、IOCとのライセンス契約に基づきJOC自身が使用していることが立証されておらず、また、JOCが委託業者にライセンス契約に基づき使用させていることも立証されていない。その他、IOC自身又はJOC自身が本件商標を使用していることは立証されておらず、IOC又はJOCが委託業者にライセンス契約に基づき使用させていることも立証されていない。3 本件審決の理由の要旨本件審決の内容は要するに次のとおりである。すなわち、著名な国際的スポーツ競技大会であるオリンピックにつき、俗称として「五輪」が用いられるこ「https://olympics.com/ja/news/」とは我が国において広く知られているところ、の文字を含む URL が設定されたウェブページに掲載された「【ロジャー・フェデラー】5度目の五輪、テニス男子シングルスで金メダルを目指す」との見出しの2021(令和3年)年4月5日の記事(以下「本件記事1」という。乙1の5)及び「東京五輪・女子テニス総括」との見出しの同年8月5日の記事(以下「本件記事2」といい、本件記事1と併せ「本件各記事」という。乙1の6)の見出しにおいて、「五輪」は、オリンピックを指す語として記載されていることが容易に理解できるところ、各見出しにおける「五輪」の文字と本件商標とは、書体が相違するのみであり、「五輪」の文字が、本件商標と社会通念上同一の商標として使用されている。本件各記事を掲載したウェブページの公開はいずれも商標権者によるものであるから、それぞれの見出しに「五輪」の文字を記載することは、商標権者による商標の使用と認められる。使用時期はいずれも要証期間であり、それぞれが掲載されたウェブページを公開することは、指定役務のうち、「スポーツの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供」、「スポーツ競技結果の情報提供」、「スポーツの結果に関する情報の提供」又は「スポーツの興行及びスポーツイベントの企画・運営又は開催に関する情報の提供」に該当し、これら記事を掲載したウェブページをインターネット上で公開する行為は、商標法2条3項7号にいう電磁的方法により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為に該当する。IOCがスイス国の法律に従って組織されて存続する法人であることは明らかであり、要証期間に日本国内において、商標権者が、本件指定役務に該当する役務について、本件商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。)の使用をしていたことは証明された。


第3 当事者の主張


1 取消事由1(本件審決の理由1についての認定・判断の誤り)について


〔原告らの主張〕被告(IOC)がスイス国の外国法人であることは立証されておらず、被告は民法35条1項によりその成立が認許された外国法人でもないから、被告は日本国において権利能力を有しない。そうすると、被告は本件商標の商標権者となることはできず、被告による本件商標の使用は商標権者による使用には当たらない。それにもかかわらず、その旨の原告らの主張を退け、本件商標について商標権者による使用があったとした本件審決の認定・判断には誤りがある。被告の挙げる2件の知的財産高等裁判所の判決における判断はいずれも誤りである。〔


(被告の主張)


〕パリ条約2条⑴は、「各同盟国の国民は、工業所有権の保護に関し、この条約で特に定める権利を害されることなく、他のすべての同盟国において、当該他の同盟国の法令が内国民に対し現在与えており又は将来与えることがある利益を享受する。すなわち、同盟国の国民は、内国民に課される条件及び手続に従う限り、内国民と同一の保護を受け、かつ、自己の権利の侵害に対し内国民と同一の法律上の救済を与えられる。」として、同盟国の国民に対する内国民待遇について規定しているところ(乙10)、被告が設立されたスイス国は、日本と同じくパリ条約の同盟国であるから、商標法77条3項が準用する特許法25条3号の「条約に別段の定があるとき」に該当し、民法3条2項による権利の享有の禁止は適用されず、被告には権利能力が認められるものである(パリ条約が特許法25条3号における「条約に別段の定があるとき」に該当することについて、乙11の224頁)。したがって、被告が商標権者としての権利能力を有することは明らかであり、本件審決の認定判断には何らの誤りも存しない。被告は権利能力を有しないとの原告らの主張については、原告らが本件商標に対して別途請求した無効審判の審決(不成立審決)に対する審決取消訴訟(知的財産高等裁判所令和4年(行ケ)第10065号)においても同様の主張が原告らからなされていたところ、同審決取消訴訟における判決(原告らからの審決取消を求める請求を棄却した判決。甲3の1)において、被告は商標権その他商標に関する権利を享有することができるものであると認定され、原告らの主張は理由がないと判示されていることから、原告らの主張に理由がないことは明らかである。なお、同一の原告被告間における「TOKYO2020」オリンピックエンブレムに対する無効審判請求に係る別件の審決取消訴訟判決(知的財産高等裁判所令和7年3月12日判決。甲3の2)においても、同様の判断がなされている。以上のとおり、原告らの主張は、過去に2度、知的財産高等裁判所の判決で退けられた同一論点の蒸し返しにすぎず、理由がないことは明らかである。また、本件で提出した Power of Attorney and Corporation NationalityCertificate(訴訟委任状兼法人国籍証明書)(乙12)や前記審決取消訴訟(知的財産高等裁判所令和4年(行ケ)第10065号)で提出された Power ofAttorney and Corporation Nationality Certificate(訴訟委任状兼法人国籍証明書)(乙3)に記載されているとおり、被告がスイス国の法律に従って、正式に組織されて、存続する外国法人であることは明らかであるから、被告(IOC)がスイス国の外国法人であることが立証されていないとの原告らの主張も理由がない。以上のとおり、被告は権利能力を有しないから、被告による本件商標の使用は商標権者による使用には当たらないとの原告らの主張には理由がなく、これを退けた本件審決の認定判断に誤りがないことは明らかである。


2 取消事由2(本件審決の理由2についての認定・判断の誤り)について


〔原告らの主張〕


⑴ 本件審決は、本件各記事内の同見出しにおける「五輪」の使用について、


いずれも、商標権者である被告が、要証期間において、「五輪」の文字を、本件指定役務のうち、「スポーツの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供」、「スポーツ競技結果の情報提供」、「スポーツの結果に関する情報の提供」、又は「スポーツの興行及びスポーツイベントの企画・運営又は開催に関する情報の提供」に当たり、本件商標と社会通念上同一の商標として使用していると認められることから、商標法2条3項7号に該当する行為、すなわち、電磁的方法により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為に該当する行為を行ったことが認められる旨認定・判断したが、本件各記事の見出しでの「五輪」の使用は、単にオリンピックを意味する俗称としての五輪を使用しているにすぎず、識別標識である登録商標「五輪」としての使用ということができない。


⑵ 被告は、IOCがスイス国の法律に基づく法人(外国法人)であることを


証明する「本国の諸官庁又は権限ある機関の発行書面」を提出していない。「https://olympics.com/ja/」なるURLのサイトは、IOCではなく、スペインの企業「OLYMPIC CHANNELSERVICES, S.L.」(以下「オリンピックチャンネル社」という。)が運営・管理しており、さらに、オリンピックチャンネル社はIOCによって管理されていないので、IOCのホームページと一概にいうことはできない。ドメイン「olympics.com」を含むURLのIOCに関する情報は、IOCが運営・管理しておらず、IOCとは全く別異のオリンピックチャンネル社が運営・管理している。本件商標の商標権者であるIOCとオリンピックチャンネル社との間で締結された委託契約は、契約書も証拠として提出されていないが、いずれにしろ公序良俗違反であり無効であるから、本件商標は被告によって使用されていないことになる。したがって、被告が要証期間において本件商標を使用したことを証明したと判断した本件審決は誤りである。


⑶ 本件各記事における「五輪」の文字は、商標法50条2項にいう登録商標


の使用をしていることに当たらない。また、甲12の2の1、甲12の3~4、6~7、9、12、17~18には、登録商標「オリンピック」及び登録図形商標「五輪マーク」が大見出しの中で、ロゴ単独又は併記して商標として使用されているのに対し、甲12の1、甲12の2の2、甲12の5、8、10~11、13~16、19では、俗称としての「五輪」が、中見出しの中で「オリンピック」を特定する語として使用されるにとどまり、商標として使用されていないから、これらの使用態様は区別されるべきである。


⑷ その他、IOC自身又はJOC自身が本件商標を使用していることは立証


されておらず、IOC又はJOCが委託業者にライセンス契約に基づき使用させていることも立証されていない。〔


(被告の主張)



⑴ 商標法2条3項7号規定の商標の使用行為が認められること


本件記事1は、テニスのロジャー・フェデラー選手の過去の五輪の結果を伝える内容の記事であり、本件商標「五輪」がオリンピックシンボル(いわゆる五輪マーク)(乙1の5の1頁の左上枠外)とともに使用されている。また、本件記事2は、「東京五輪」(東京オリンピック)の女子テニスの結果を伝える内容の記事であり、本件商標「五輪」がオリンピックシンボル(いわゆる五輪マーク)(乙1の6の1頁の左上枠外)とともに使用されている。本件各記事は、いずれも、東京五輪(東京オリンピック)の競技種目(スポーツ)であるテニスの運営又は開催に関する情報や、その結果を伝える内容の記事であることから、本件商標の指定役務のうち、「スポーツの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供」、「スポーツ競技結果の情報提供」、「スポーツの結果に関する情報の提供」、及び「スポーツの興行及びスポーツイベントの企画・運営又は開催に関する情報の提供」を目的とする記事であることは明らかであって、これら記事を掲載したウェブページを公開する行為は、「スポーツの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供」、「スポーツ競技結果の情報提供」、「スポーツの結果に関する情報の提供」、及び「スポーツの興行及びスポーツイベントの企画・運営又は開催に関する情報の提供」に該当するものである。ここで、商標法2条3項7号は、「電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法をいう。以下同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為」を商標法における商標の「使用」の一態様として定めているところ、同号の使用行為とは、ネットワークを通じた役務提供の場合を対象とするものであり、モニター、ディスプレー等の「映像面」に標章を表示して役務を提供する行為である(乙13)。オリンピックシンボル(いわゆる五輪マーク)とともに、「五輪」の標章を見出しに含む本件各記事をウェブページで公開する行為は、モニターやディスプレーといった「映像面」に、本件商標「五輪」を表示して、インターネットを通じて東京オリンピックに関する情報を提供する行為であり、「スポーツの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供」、「スポーツ競技結果の情報提供」、「スポーツの結果に関する情報の提供」、及び「スポーツの興行及びスポーツイベントの企画・運営又は開催に関する情報の提供」の役務を提供する行為に該当する。したがって、上記行為は、まさに商標法2条3項7号が想定する商標の使用行為そのもの、言い換えれば、識別標識としての商標の使用行為であることは明らかである。以上のとおり、本件各記事を掲載したウェブページを公開した行為を、商標法2条3項7号にいう、電磁的方法により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為に該当するとして、被告が要証期間において本件商標を使用したことを証明したと判断した本件審決に誤りがないことは明らかである。


⑵ 本件商標は被告によって使用されていること


ア 被告のデジタル・エンゲージメント&マーケティング部部長のAの陳述書(乙4)から明らかなとおり、本件各記事が掲載されているウェブサイト(https://olympics.com/ja/)は被告のウェブサイトであるから、同記事が公開されたウェブページにおける本件商標「五輪」の使用は被告によるものであることは明らかである。また、本件各記事には「オリンピックチャンネル編集部」や個人の氏名が記載されているが、これらは本件記事の執筆者として記載されているにすぎず、本件記事を掲載したウェブページを公開しているのは被告であるから、被告が本件商標「五輪」を使用していることは明らかである。イ 原告らは、本件各記事が掲載されているウェブサイトは、オリンピックチャンネル社によって運営・管理されているところ、オリンピックチャンネル社は被告によって管理されていないことから、本件各記事における本件商標の使用は、被告による使用ではない旨主張している。しかし、本件各記事を含む乙1で提出したニュース記事には、執筆者として「オリンピックチャンネル編集部」、又は、同編集部に所属する編集者個人の名前が記載されているところ、「オリンピックチャンネル編集部」とは、被告の要請を受けて、その直接の管理の下で、乙1の各ニュース記事が掲載されている被告のウェブサイト Olympics.com の管理、運営等を行っているオリンピックチャンネルサービス社(オリンピックチャンネル社)のことを意味するのであり、被告はオリンピックチャンネル社(オリンピックチャンネル編集部)に各ニュース記事の作成を委託したにすぎない(したがって、乙1の各ニュース記事には、著作者として「オリンピックチャンネル編集部」(あるいは、同編集部に所属する編集者個人)の名称・氏名が記載されている。乙4参照。)。すなわち、同ニュース記事の著作者はオリンピックチャンネル編集部(オリンピックチャンネル社)であるが、同ニュース記事に関する権利は被告が保有しており、同ニュース記事は被告(国際オリンピック委員会)によって、被告(国際オリンピック委員会)のホームページ(https://olympics.com/ja/)で公開されたものである(乙4参照。)。なお、乙1の1(https://olympics.com/ja/search/all/五輪)は、乙1の5~1の17といった各ニュース記事の検索結果を示すページであるところ、同ページの末尾に著作権表示の記載があり、その中に「国際オリンピック委員会」の文字が含まれているのは、「https://olympics.com/ja/」で特定されるホームページがまさに被告(国際オリンピック委員会)の管理運営するウェブページであるからに他ならず、したがって、各ニュース記事が掲載されている乙1の5~1の17の各ウェブページ(いずれも「https://olympics.com/ja/」の URL を含むウェブページ。)も被告のウェブページであることは自明である。この被告のウェブページにおいて、被告から記事の作成の委託を受けたオリンピックチャンネル社(オリンピックチャンネル編集部)が執筆した記事(乙1の5~1の17に、執筆者として「オリンピックチャンネル編集部」(あるいは、同編集部に所属する編集者個人の氏名)が記載されているのはそのような理由である。)について、被告がその権利を取得して、被告のウェブページで公開したというのが事実である。以上から、本件各記事が掲載されたウェブページが被告により、要証期間に公開されたことは明らかである。したがって、本件各記事が掲載されたウェブページの実質的な公開者は商標権者である被告であると認定した本件審決の認定に誤りがないことは明らかであり、これを争う原告らの主張は理由がない。ウ また、原告らは、被告がスイス国の法律に基づく法人(外国法人)であることを証明する本国の諸官庁又は権限ある機関の発行書面を提出していないとするが、既に述べたとおり、被告がスイス国の法律に従って、正式に組織されて、存続する外国法人であることは明らかであるから、原告らの主張には理由がなく、被告が本件商標の使用の主体たり得ることは疑う余地がない。エ さらに、原告らは、本件商標の商標権者であるIOCとオリンピックチャンネル社との間で締結された委託契約は、公序良俗違反であり無効であると主張する。原告らが公序良俗違反と主張する根拠は、被告が権利能力を有しないにもかかわらず、本件商標は被告を商標権者として登録原簿に過誤登録された商標登録であり、かかる過誤登録された商標権に基づく契約は、公序良俗に反する法律行為(民法90条)であり、無効である、という主張と思われる。しかしながら、既に述べたとおり、被告が商標権者としての権利能力を有することは明らかであるから、被告とオリンピックチャンネル社との間の契約が公序良俗違反との原告らの主張は根拠を欠いており、失当である。


第4 当裁判所の判断


1 取消事由1(本件審決の理由1についての認定・判断の誤り)について原告らは、被告(IOC)がスイス国の外国法人であることは立証されておらず、被告は民法35条1項によりその成立が認許された外国法人でもないから、日本国において権利能力を有さず、そうすると、被告は本件商標の商標権者となることはできず、被告による本件商標の使用は商標権者による使用には当たらないとし、それにもかかわらず、その旨の原告らの主張を退け、本件商標について商標権者による使用があったとした本件審決の認定・判断には誤りがある旨を主張する。この点につき、民法3条2項は、「外国人は、法令又は条約の規定により禁止される場合を除き、私権を享有する。」と規定し、同項の「法令の規定により禁止される場合」として、特許法25条は、「日本国内に住所又は居所(法人にあっては、営業所)を有しない外国人は、次の各号の一に該当する場合を除き、特許権その他特許に関する権利を享有することはできない。」と、同条3号は「条約に別段の定があるとき」と規定し、商標法77条3項は、特許法25条の規定を準用している。そして、特許法25条柱書きの「外国人」には、外国法人が含まれ、また、同条には、外国法人について、民法35条の認許された外国法人に限定する文言はないから、認許されていない外国法人も、特許法25条柱書きの「外国人」に該当するものと解される。しかるところ、パリ条約2条1項は、「各同盟国の国民は、工業所有権の保護に関し、この条約で特に定める権利を害されることなく、他のすべての同盟国において、当該他の同盟国の法令が内国民に対し現在与えており又は将来与えることがある利益を享受する。すなわち、同盟国の国民は、内国民に課される条件及び手続に従う限り、内国民と同一の保護を受け、かつ、自己の権利の侵害に対し内国民と同一の法律上の救済を与えられる。」と規定しており、この規定は、商標法77条3項が準用する特許法25条3号の「条約に別段の定があるとき」に該当するものと解される。そして、被告は、スイス国の法律に従って組織されて存続する法人であり(ス


イス国の公証人による法人国籍証明書(訳文)。当裁判所に顕著。乙3及び12


についても同じ。)、日本国及びスイス国は、いずれもパリ条約に加盟しており、


「同盟国の国民」であることからすると、被告については、上記「条約に別段


の定があるとき」に該当し、民法3条2項による権利の享有の禁止は適用され


ないと解すべきである。


以上によれば、被告は、商標権その他商標に関する権利を享有することがで


きるものと認められるから、原告らの上記主張は、その前提において採用する


ことができない。


原告らは、上記と同旨の知的財産高等裁判所の判断は誤りである旨を主張す


るが、独自の見解であり採用できない。


上記のとおりであり、原告らの主張する取消事由1は理由がない。


取消事由2(本件審決の理由2についての認定・判断の誤り)について


⑴ 原告らは、要証期間において本件商標を使用したことを証明したと判断し


た本件審決は誤りである旨を主張する。


しかし、本件記事1は、テニスのロジャー・フェデラー選手の過去の五輪


の結果を伝える内容の2021年(令和3年)4月5日の記事であるところ、


本件商標である「五輪」が、オリンピックのシンボルであるいわゆる五輪マ


ーク(乙1の5の1頁の左上枠外)とともに使用されている。また、本件記


事2は、東京五輪(東京オリンピック)の女子テニスの結果を伝える内容の


同年8月5日の記事であり、本件商標「五輪」が、オリンピックのシンボル


であるいわゆる五輪マーク(乙1の6の1頁の左上枠外)とともに使用され


ている。本件各記事は、いずれも、東京オリンピックの競技種目の一つであ


るテニスの運営又は開催に関する情報や、その結果を伝える内容の記事であ


ることから、本件指定役務のうち、


「スポーツの興行の企画・運営又は開催に


関する情報の提供」、「スポーツ競技結果の情報提供」、「スポーツの結果に関


する情報の提供」、及び「スポーツの興行及びスポーツイベントの企画・運営


又は開催に関する情報の提供」を目的とする記事ということができる。そう


すると、これら記事を掲載したウェブページを公開する行為は、


「スポーツの


興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供」、「スポーツ競技結果の情報


提供」、「スポーツの結果に関する情報の提供」及び「スポーツの興行及びス


ポーツイベントの企画・運営又は開催に関する情報の提供」に該当する。


被告のデジタル・エンゲージメント&マーケティング部の部長であるA


の陳述書(乙4)によれば、本件各記事(乙1の5及び1


の6)が掲載されたウェブサイト(https://olympics.com/ja/)は被告のウ


ェブサイトであり、A が同ウェブサイトに関する活動を


監督しており、本件各記事(乙1の5及び1の6)はそこに掲載されたもの


であること、被告のウェブサイトはオリンピックチャンネルサービス社(オ


リンピックチャンネル社)に管理・運営を委託しており、オリンピックチャ


ンネル社はこれに基づき本件各記事を作成したものであって、本件各記事に


は「執筆者 オリンピックチャンネル編集部」


(乙1の5)又は個人名(乙1


の6)が記載されているが、これら執筆者には被告が記事の作成を委託した


ものであり、本件各記事は、被告が自らそのウェブページで公開したもので


あることが認められる。被告とオリンピックチャンネル社との間の契約に関


する契約書が証拠として提出されていないことは、上記の認定を左右するも


のではない。


そうすると、本件各記事を掲載したウェブページを公開しているのは被告


であり、その行為はネットワークを通じた役務の提供を対象とするものであ


り、モニター、ディスプレー等の「映像面」に標章を表示して役務を提供す


る行為であるから、商標法2条3項7号にいう「電磁的方法(電子的方法、


磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法をいう。


以下同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標


章を表示して役務を提供する行為」に当たる。


したがって、本件商標は、本件指定役務について、要証期間に、被告によ


り商標法2条3項7号に定める行為によって使用がされたものと認められる。


以上によれば、原告らの主張する取消事由2についても理由がない。


⑵ア 原告らは、本件各記事が掲載されているウェブサイトは、オリンピック


チャンネル社によって運営・管理されているところ、オリンピックチャン


ネル社は被告によって管理されていることが証明されていないから、本件


各記事における本件商標の使用は、被告による使用ではない旨主張する。


しかし、既に述べたとおり、オリンピックチャンネル社は被告の要請を


受けて、その管理の下で被告のウェブサイトの管理、運営等を行っている


ものと認められるから、本件各記事は被告のウェブページにより要証期間


に公開され、そこにおいて本件商標が使用されたことは明らかである。本


件各記事が掲載されたウェブページの実質的な公開者は商標権者である


被告であると認定した本件審決の認定に誤りはない。


したがって、原告らの上記主張は採用することができない。


イ 原告らは、被告がスイス国の法律に基づく法人(外国法人)であること


を証明する本国の諸官庁又は権限ある機関の発行書面を提出していないと


主張する。


しかし、既に述べたとおり、被告がスイス国の法律に従って、正式に組


織されて存続する外国法人であることは明らかであるから、被告が本件商


標の使用の主体と認められる。


したがって、原告らの上記主張は採用することができない。


ウ さらに、原告らは、本件商標の商標権者であるIOCとオリンピックチ


ャンネル社との間で締結された委託契約は公序良俗違反であり無効である


と主張する。


しかし、既に述べたとおり、被告が商標権者としての権利能力を有する


ことは明らかであるから、被告とオリンピックチャンネル社との間の契約


が公序良俗違反との原告らの主張は前提を欠くものである。


したがって、原告らの上記主張は採用することができない。


エ 原告らは、本件各記事の「五輪」の記載は商標法50条2項にいう登録


商標の使用に当たらず、また、甲12の2の1、甲12の3~4、6~7、


、12、17~18を挙げて「登録商標『オリンピック』及び登録図形


商標『五輪マーク』は、大見出しの中で、ロゴ単独又は併記して商標とし


て使用されている」のに対し、甲12の1、甲12の2の2、甲12の5、


、10~11、13~16、19を挙げて「『五輪』は、中見出しの中で


『オリンピック』を特定する語として使用され」「商標として使用されて」


いない旨を主張する。


しかし、商標法50条の趣旨は、登録された商標には排他独占的な権利


が発生することから、長期間にわたり全く使用されていない登録商標を存


続させることは、当該商標に係る権利者以外の者の商標選択の余地を狭め、


国民一般の利益を不当に侵害するという弊害を招くおそれがあるので、一


定期間使用されていない登録商標の商標登録を取り消すことを認めたも


のである。そうすると、商標法50条所定の「使用」は、当該商標がその


指定商品又は指定役務について商標として使用されていれば足り、その商


標としての使用が商標権者を商品の出所として表示する場合に限定され


るものではないというべきである。


そして、本件各記事における「五輪」は、被告のウェブページに、オリ


ンピック(五輪)と関連する記事としてオリンピックのシンボルである五


輪マークと共に掲載されたものであるから、本件商標を、本件指定役務で


ある「スポーツの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供」等につ


いて、前記のとおり商標法2条3項7号にいう使用として、商標法50条


所定の「登録商標の使用」をしたものというべきである。


一方、甲12の1~19は、1964年(昭和39年)及び2021年


(令和3年)東京オリンピック又は1972年(昭和47年)札幌オリン


ピックに関する新聞記事であって、新聞社が、オリンピックを紹介する記


事の中で「五輪」を記事の見出しとして使用しているにすぎないものであ


るから、本件各記事における「五輪」の使用とは意味が異なるものである。


本件各記事については、被告自らが、自らのウェブサイトにおいて、自ら


提供する役務である「スポーツの興行の企画・運営又は開催に関する情報


の提供」、「スポーツ競技結果の情報提供」、「スポーツの結果に関する情報


の提供」、及び「スポーツの興行及びスポーツイベントの企画・運営又は開


催に関する情報の提供」に当たって「五輪」を使用しているのであり、そ


の使用態様は、商標法2条3項7号に該当するものであるから、商標法5


条2項にいう登録商標の使用の事実が認められるというべきである。


したがって、原告らの上記主張は採用することができない。


結論


以上のとおり、


「五輪」の標章を見出しに含む本件各記事をウェブページで公


開する行為は、商標法2条3項7号に規定する商標の使用行為であり、また、


本件各記事が掲載されたウェブページの公開者は被告であるから、本件商標を


使用したのは被告である。


したがって、本件商標は被告によって使用されていないとの原告らの主張は


理由がなく、被告が要証期間において本件商標を使用したことを証明したと判


断した本件審決に誤りはなく、既に述べたとおり原告ら主張の取消事由はいず


れも理由がない。


その他原告らは、縷々主張するが、それらはいずれも理由がなく、本件審決


に、その結論に影響する違法があるとは認められない。


よって、原告らの請求は、理由がないからこれを棄却することとして、主文


のとおり判決する。


知的財産高等裁判所第3部


裁判長裁判官


中 平 健


裁判官


今 井 弘 晃


裁判官


柵 木 澄 子

 
 
 

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