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令和8年6月16日判決言渡


令和7年(行ケ)第10118号 審決取消請求事件


口頭弁論終結日 令和8年4月21日


判 決


原 告 HANASUI株式会社


同訴訟代理人弁護士 溝 田 宗 司


同 郡 佑 太


同 平 山 尋 規


被 告 特 許 庁 長 官


同 指 定 代 理 人 石 塚 文 子


同 山 田 啓 之


同 阿 曾 裕 樹


主 文


1 原告の請求を棄却する。


2 訴訟費用は、原告の負担とする。


事 実 及 び 理 由


第1 請求


1 特許庁が不服2024-4080号事件について令和7年10月16日にした審決を取り消す。2 訴訟費用は被告の負担とする。


第2 事案の概要


1 特許庁における手続の経緯等


⑴ 原告は、令和5年2月22日、以下の構成からなり、指定商品を第10類「鼻水吸引器」とする商標(以下、その出願を「本願」と、その商標を「本願商標」という。)について、商標登録出願をした(商願2023-18341号。乙1)。(本願商標)


⑵ 原告は、令和5年7月27日付けの拒絶理由通知書(甲55)を受け、同年10月17日、意見書(甲56)を提出したが、同年11月29日付け拒絶査定(甲57)を受け、令和6年3月7日、拒絶査定不服審判請求をした(不服2024-4080号。甲54)。


⑶ 原告は、令和7年6月3日付けで手続補正書を提出し、本願の指定商品は


第10類「家庭用鼻水吸引器」と補正された(乙2)。


⑷ その後、特許庁は、令和7年10月16日、「本件審判の請求は、成り立たない。」とする審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月30日に原告に送達された。


⑸ 原告は、令和7年11月27日、本件審決の取消しを求めて、本件訴えを提起した。2 本件審決の理由の要旨本件審決の理由は、要旨以下のとおりである。


⑴ 商標法3条1項3号該当性本願商標は、ややデザイン化された書体で「HANASUI」の欧文字を横書きしてなるところ、本願商標の構成全体として「HANASUI」の文字を書したものと容易に認識できるものであり、格別特異なものとはいい得ないから、本願商標は普通に用いられる方法の範囲内で表してなるものである。そして、本願商標からは、「ハナスイ」の称呼を生じるところ、「ハナスイ」の読みを漢字及び平仮名で表した「鼻吸い」の文字(語)は、「鼻水を吸引すること」を表す文字(語)として広く一般に使用されており、「鼻水吸引器」を表す文字(語)として、「鼻吸い器」や「鼻吸い」の文字(語)が使用されている実情も認められる。さらに、日本語(漢字、仮名)の読みを欧文字つづりにより表記することはごく普通に行われており、本願の指定商品に関連する分野においても、商品を表す日本語の名称が欧文字つづりにより表記されている実情がある。そうすると、本願商標を本願の指定商品である「家庭用鼻水吸引器」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、「鼻吸い」の文字(語)を欧文字つづりにより表記したものと理解し、当該商品が「鼻水を吸引するための商品」であることを認識するにとどまるというのが相当である。このことは、「家庭用鼻水吸引器」においても、「鼻吸い」の文字(語)が商品の説明等に使用されている実情が認められることからも裏付けられる。以上によれば、本願商標は、単に商品の品質及び用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり、商標法3条1項3号に該当する。


⑵ 商標法3条2項該当性原告は、令和5年7月頃から本願商標と同一の標章が付された家庭用鼻水吸引器(以下「原告商品」という。)を製造、販売しているところ、原告商品の売上金額は必ずしも多いとはいえず、Amazon(以下「アマゾン」という。)における「家庭用鼻水吸引器」の市場に占める原告商品の占有率も約7.5%にすぎない。また、原告商品についての広告宣伝は、アマゾン及び楽天市場に限られたものであり、本願商標の使用期間も僅か2年程度と長期にわたるものとはいえない。そして、「鼻水吸引器」を表す文字(語)として「鼻吸い器」や「鼻吸い」の文字(語)が使用されている実情があり、商品を表す日本語の名称が欧文字つづりにより表記されていることからすると、本願商標が、その指定商品に使用された結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至っていると認めることはできないから、本願商標は、商標法3条2項の要件を具備するものとはいえない。3 原告の主張する本件審決の取消事由


⑴ 取消事由1商標法3条1項3号該当性についての判断の誤り


⑵ 取消事由2商標法3条2項該当性についての判断の誤り


第3 当事者の主張


1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性についての判断の誤り)について



(原告の主張)



⑴ 本願商標が自他商品識別力欠如商標に該当しないこと


ア 本件審決は、本願商標は、その構成全体として「HANASUI」の文字を書したものと容易に認識できるものであり、格別特異なものとはいい得ないから、普通に用いられる方法の範囲内で表してなるものであるとする。商標審査基準によれば、取引者において一般的に使用する範囲にとどまらない特殊なレタリングを施して表示するもの又は特殊な構成で表示するものは、商標法3条1項3号にいう普通に用いられる方法で表示する標章に該当しないとされているところ、レタリングとは、「視覚的効果を考えて文字をデザインすること。そのような文字を書くこと。」を意味する(広辞苑第7版)。これを本願商標についてみると、本願商標は「鼻吸い」の語を欧文字で「HANASUI」と表示したものであるところ、用いられているフォントは一般に販売ないし使用されているものではなく、原告がデザイナーにデザインを依頼して納品されたものである。本願商標は、単に欧文字を並べたものではなく、デザイナーにより納品された角を丸めた柔らかい書体を採用し、文字間隔を調整することで、鼻水吸引器という商品の堅さ・無機質さを緩和し、親和的で柔らかなイメージを付与する図形的特徴(創作性)を備えたものとなっている。したがって、本願商標は、取引者において一般的に使用する範囲にとどまらない特殊なレタリングを施して表示するものであり、普通に用いられる方法で表示する標章に該当しない。イ 本件審決は、本願商標を指定商品である「家庭用鼻水吸引器」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、「鼻吸い」の文字(語)を欧文字つづりにより表記したものと理解し、当該商品が「鼻水を吸引するための商品」であること、すなわち商品の品質及び用途を表示したものと認識するにとどまるとする。しかし、本願商標は、鼻水という一種の汚物としてのイメージや医療器具である堅いイメージを払拭すべく、前記アのとおり、多少丸みを帯びたやや手書き風の優しい書体を用いることで、その称呼から「鼻吸い」の文字(語)を連想させるとともに、「花水」や「花吸い」のような文字(語)をも連想させ、商品のイメージを上品で柔らかいものとしている。このように、本願商標は、「鼻吸い」のみならず、「花水」や「花吸い」をも連想させるものである。また、本願商標が「鼻吸い」の文字(語)を欧文字つづりにより表記したものと理解されるとしても、取引者において「鼻水を吸引すること」を説明するときに、デザイン性を有する欧文字で「HANASUI」と表記することはおよそあり得ない。したがって、本願商標は、家庭用鼻水吸引器の品質や用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標に該当しない。ウ 本件審決は、「別掲2」(本件審決6頁ないし7頁)や「別掲4」(本件審決8頁ないし9頁)記載の例の存在を理由に、「鼻水吸引器」を表す文字(語)として、「鼻吸い器」や「鼻吸い」の文字(語)が使用されている実情や「家庭用鼻水吸引器」においても、「鼻吸い」の文字(語)が商品の説明等に使用されている実情が認められるとする。しかし、被告は、「HANASUI」という欧文字表記が家庭用鼻水吸引器の品質等表示として一般に使用されている例を示しておらず、「HANASUI」が、取引者、需要者において、家庭用鼻水吸引器の品質又は用途を表示する標章として一般に認識されていることを立証し得ていない。また、被告が示す例の多くは、「鼻吸い器」、「鼻すい器」、「はな吸い器」など、「器」を伴う表示であり、器具一般のカテゴリー又は用途を示す表現として理解されるにとどまるから、これらの例から、「鼻吸い」単独又は「HANASUI」が、品質又は用途を表示するものとして普通に用いられているという取引の実情を認めることはできない。さらに、被告は、日本語の語を欧文字で表記することが一般に行われているという事情を示すにとどまり、取引者、需要者において、「HANASUI」を家庭用鼻水吸引器の品質又は用途の表示として理解することまで裏付けるものではない。上記の点を措いても、本件審決が根拠とするのはウェブサイト等の記載であるところ、ウェブサイトやブログの多くは、記載者個人の認識や思惑を記載したものにすぎず、内容の公平性や正確性が担保されているものではない。このように真偽も不明なウェブサイト等の記載に基づいて商標法3条1項3号該当性を判断するのは相当性を欠く。また、何件のウェブサイト等に記載があれば上記のような実情を認定するのかについても画一的な基準はなく、もっぱら審査官の裁量に委ねられていることからすれば、ウェブサイト等の記載を根拠に同号該当性を認定するのは恣意的な判断であり、出願人間の公平性を欠く。さらに、本件訴訟において被告が示す証拠の相当部分は、本件審決がされた時点より後の令和7年12月又は令和8年1月に収集、印刷されたものであり、本件審決時点における取引の実情を直ちに示すものではない。したがって、本件審決が認定した上記実情なるものを根拠として、本願商標の同号該当性を判断することはできないというべきである。エ 本願商標は、商品の品質及び用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標ではないから、自他商品識別力欠如商標に該当しない。


⑵ 本願商標が独占不適商標に該当しないこと


原告は、令和5年7月に家庭用鼻水吸引器に「HANASUI」という標章を付して販売を開始して以来、長年にわたり本願商標を独占的に使用してきた。他方で、原告以外に家庭用鼻水吸引器の商品名として「HANASUI」という標章を使用する例は確認されておらず、家庭用鼻水吸引器を「鼻吸い」と略称すること自体が取引者において一般的ではない。また、原告は、本願商標を構成の一部に含む商標につき別紙商標公報記載の商標権(商標登録番号第6977853号。以下「原告商標権」という。)を有するところ、競合メーカーが鼻水吸引器に「HANASUI」という標章を使用する場合、当該行為は原告商標権の侵害に当たる可能性が高く、原告の商号と同一であることからすれば、不正競争防止法2条1項1号の混同惹起行為にも該当し得る。そうすると、原告以外の者が「HANASUI」という標章を鼻水吸引器に使用することは事実上不可能であるから、競合メーカーにおいて、現在又は将来において、「HANASUI」との名称の使用を欲するとは考えられず、本願商標は独占不適商標に該当しない。


⑶ 以上のとおり、本願商標は、自他商品識別力欠如商標にも独占不適商標に


も該当しないから、商標法3条1項3号に該当しない。したがって、本願商標が同号に該当するとした本件審決の判断は誤りである。〔


(被告の主張)



⑴ 本願商標の構成及び取引の実情


本願商標は、「HANASUI」の欧文字を、縦長にややデザイン化された書体で横書きしてなるところ、その指定商品「家庭用鼻水吸引器」は、「鼻吸い」を用途とする器具であり、以下の当該器具の流通及び文字種の相互変更に関する取引の実情も踏まえると、当該欧文字は、「家庭用鼻水吸引器」の用途である「鼻吸い」の表音をローマ字表記したものと看取できる。ア 医療や育児の現場において、鼻をかめない乳幼児のために鼻水を吸ってあげることを「鼻吸い」と称しており、市販の鼻吸い器(鼻水吸引器)や病院の吸引器を利用して行うことが推奨されている。そして、「鼻吸い」は、鼻水に対処するための治療法や診療内容(鼻吸い外来を含む。)として掲げる病院も多数あるなど、鼻水に対処する治療行為や予防行為として、広く親しまれている語である。また、本願商標の指定商品「家庭用鼻水吸引器」に係る現実の商取引において、「鼻吸い器」、「鼻すい器」、「はな吸い器」などと、「鼻吸い」(鼻すい、はな吸い)を用途とうたい、表示する器具が、広く流通している取引の実情がある。イ 商取引全般において、商品名や品質表示などの種々の表記を、異なる文字種(漢字、平仮名、片仮名、欧文字など)に相互変更することは、取引上極めて一般的に行われていることである。


⑵ 本願商標の指定商品の需要者


本願商標の指定商品「家庭用鼻水吸引器」は、一般向けに販売されている鼻水を吸引するための器具であり、2ないし3才までの子供のほか、花粉症で悩む大人まで広く利用されているから、その需要者は主に花粉症や鼻炎に悩む患者のほか、幼児を育てる世帯にいる一般消費者である。


⑶ 以上を踏まえると、本願商標は、その指定商品である「家庭用鼻水吸引器」


に使用されるときは、その需要者、取引者をして、医療や育児の現場において親しまれた語である「鼻吸い」(鼻水を吸うこと)の表音をローマ字表記したものと認識、理解させるものであるから、その指定商品との関係で商品の品質又は用途を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、本願商標が指定商品に使用された場合に、需要者、取引者によって、将来を含め、商品の品質又は用途を表示したものと一般に認識されるものであるといえる。したがって、本願商標は、その指定商品との関係において、商品の品質又は用途を普通に用いられる方法で表示するものであり、商標法3条1項3号に該当するから、本件審決の判断に誤りはない。


2 取消事由2(商標法3条2項該当性についての判断の誤り)について



(原告の主張)



⑴ 本願商標の使用実績等


ア 原告は、本願商標と同一の標章が付された原告商品を令和5年7月頃から製造、販売しているところ、令和6年7月には、「ベビー&キッズExpo」に原告商品を出展した。原告商品は、令和5年度にキッズデザイン賞の特別賞を受賞し、家庭用鼻水吸引器のランキングサイトや商品の比較サイト等のウェブサイトにおいて、第三者により紹介されてもいる。インターネット検索エンジンのGoogleで「HANASUI」の欧文字を検索すると、検索結果の上位29件中17件は、原告商品に関連するウェブサイトである。イ 原告商品は、アマゾンにおける家庭用鼻水吸引器の売れ筋ランキングにおいて、販売開始から約1年後の「Amazonプライムデー」という期間中にランキング1位を獲得する実績を残し、令和7年12月1日時点においても第5位と安定的に売上個数を伸ばしており、その売上金額は、令和5年度で約3,029万円、令和6年度で約7,956万円、令和7年度(11月まで)で約5,527万円に上る。国内において、家庭用鼻水吸引器をインターネットのウェブサイト等で販売する主な企業は6社であるところ、原告はその4位程度に位置し、アマゾンの機能を用いて調査した情報に基づき原告が試算したところによれば、「家庭用鼻水吸引器」における原告の市場占有率は約7.5%であった。ウ 原告商品については、アマゾンでは約800件、楽天市場では約1,000件のレビュー実績が存在する上、原告は、アマゾン及び楽天市場のウェブサイトに広告出稿しており、楽天市場においては、「鼻水吸引器」と検索した際にトップにヒットするように多額の広告費を投じている。原告が投じた広告費用の概算額は、令和5年度で約565万円、令和6年度で約1538万円、令和7年度(11月まで)で約1147万円に上る。


⑵ 使用による自他識別力の獲得


ア 原告商品は「日本製の家庭用鼻水吸引器」であることを最大の訴求点とし、幼少期の子どもを持つ家庭を主たるターゲットとして製造・販売されていることからすれば、本願商標の使用による識別性獲得の有無を判断するについては、日本製家庭用鼻水吸引器であることを重視する国内の子育て層を需要者として設定すべきである。イ そして、前記⑴のとおり、原告はいわゆるベンチャー企業として広告宣伝等に投入可能なコストに制約があるにもかかわらず、原告商品は、販売開始以来、売上げを継続的に増加させていること、販売開始から約2年という短期間で約7.5%の市場シェアを獲得したことからすると、需要者は、単に価格や機能のみを理由として原告商品を選択しているのではなく、原告商品に付された本願商標を手掛かりとして、その出所が原告であることを識別しているといえる。また、原告商品の市場への浸透を実現し得たのは、原告がその広告や販売戦略を工夫し、その実施過程において一貫して本願商標を使用してきたことによるのであり、需要者は、本願商標を手掛かりとして、原告商品を他の商品と識別し、想起しているといえる。したがって、本願商標は、使用をされた結果、原告の商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されるに至っており、商標法3条2項にいう自他商品識別力を取得した商標に該当する。


⑶ 以上によれば、本件審決における商標法3条2項該当性についての判断は


誤りである。〔


(被告の主張)



⑴ 本願商標の使用実績等


ア 原告は、令和5年7月に手動ポンプ式鼻水吸引器(原告商品)の販売を開始した。原告商品は、その包装に本願商標に相当する構成文字及び書体よりなる「HANASUI」の文字が表示されてはいるが、当該商品は「鼻吸い」を用途とする「鼻水吸引器」であり、「すぐ吸える、すごく吸える」などの表示を伴うことから、それが商品名であるとしても、同時に「鼻吸い」という用途や機能を強調する表示又は用途表示そのままの名称との印象も与え、独創性が極めて低い。ランキングサイトや比較サイトなどにおける第三者による紹介記事は、メディア等を通じた宣伝広告と比較して、商品名の知名度の向上に寄与する広告宣伝規模及び効果は極めて限定的である。さらに、「ベビー&キッズEXPO」への出展は、主に小売店などの取引業者向けの営業活動であると考えられ、また、キッズデザイン賞の受賞は、単にデザインが顕彰されたことを示すにすぎないから、それらだけでは、一般消費者の間における商品名の知名度や認知度の向上に直接つながることはない。イ 原告商品は、アマゾンと楽天市場というインターネット通信販売サイトでのみ流通していると考えられるところ、


(原告の主張)


する販売実績を前提としても、令和5年7月から令和7年11月までの合計で売上額が1億6512万円、売上個数が4万8644個にすぎず、本願商標の指定商品に係る数百万人規模の広範な需要者層に行き渡る又は知れ渡るような販売規模ではない。また、販売サイトや比較サイトのランキングをみても、少なくとも圧倒的な市場シェアを有する商品ではない。ウ 原告商品の広告実績は、アマゾン及び楽天市場における2年間のみに限られていると考えられるところ、


(原告の主張)


する広告費は、令和5年7月から令和7年11月までの合計で3250万円にすぎず、全国的な範囲に及ぶ広範な需要者層を前提とすれば、その広告宣伝効果は極めて限定的な範囲にとどまる(しかも、検索結果がトップにくるようにするための広告費なのであれば、クリック率の向上による直接的な販売促進効果があるとしても、メディア等を通じた宣伝広告とは異なり、当該製品名の知名度や認知度を向上させて需要者に自発的な購入を促すものではないから、その商品名に関する広告宣伝効果は極めて限定的である。)。


⑵ 使用による自他識別力を獲得したとはいえないこと


ア 日本人の2人に1人は花粉症といわれており、また、児童(18才未満)のいる世帯は983万5000世帯あることを踏まえると、本願商標の指定商品「家庭用鼻水吸引器」に係る需要者層(花粉症や鼻炎に悩む患者のほか、幼児を育てる世帯にいる一般消費者)は相当広範な範囲に及ぶ。イ そして、このような広範な需要者の間において、原告商品が親しまれ、広く知られるに至っていることを具体的に示す証拠は、原告により提出されていない。原告が主張する事実を前提としても、原告商品は、本願商標を商品名とするものではあるが、本件審決がされた時点までには2年程度の販売実績しかない比較的新しい商品であり、長期にわたり親しまれた商品ではないこと、2か所のインターネット通信販売サイトのみという極めて限定的な流通経路や広告宣伝手段しか有さないこと、その販売実績や広告宣伝実績も広範な需要者層に行き渡る又は知れ渡るような規模ではないこと、その広告宣伝手段も原告商品の知名度を高める効果は限定的であることを踏まえると、需要者の間において、広く知られ、親しまれた商品とはいえない。ウ むしろ、「鼻吸い」を用途や機能とうたう(表示する)器具が広く流通している取引の実情のほか、当該器具のことを「鼻吸い」と略称する場合もあることからすれば、本願商標について、原告固有の出所識別標識であるとの認識の形成を阻害する要因があるというべきであるばかりか、公益保護の観点から独占適応性を欠くというべきである。


⑶ 以上によれば、本願商標は、本件審決がされた時点において、原告により


その指定商品に使用された結果、需要者が原告の業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものではなく、商標法3条2項の要件を具備しない。したがって、本件審決における同項該当性についての判断に誤りはない。


第4 当裁判所の判断


1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性についての判断の誤り)について


⑴ 判断基準商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くと規定されているのは、このような商標は、指定商品との関係で、その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途その他の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解される(最高裁昭和53年(行ツ)第129号同54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事126号507頁参照)。そうすると、出願に係る商標が、その指定商品について商品の品質又は用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるというためには、審決がされた時点において、当該商標が当該商品との関係で商品の品質又は用途を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、当該商標の需要者、取引者によって、当該商品に使用された場合に、将来を含め、商品の品質又は用途を表示したものと一般に認識されるものであれば足りると解される。そして、当該商標の需要者、取引者によって、当該商品に使用された場合に商品の品質又は用途を表示したものと一般に認識されるかどうかは、当該商標の構成やその指定商品に関する取引の事情を考慮して判断すべきである。


⑵ 本願商標の構成ア 前記第2の1⑴のとおり、本願商標は、「HANASUI」の欧文字をデザイン化された書体で横書きに書してなる商標であり、各構成文字が同じ大きさ、等間隔で表されており、外観上一体のものとして把握されるから、本願商標からは「ハナスイ」の一連の称呼が生じる。イ 本願商標に用いられているフォント(やや縦長で、端部の角を丸めたもの。)は、原告がデザイナーに依頼して制作されたものであって、一般に販売されているものではなく、また、本願商標の欧文字は、文字間隔をやや詰めて記載されており、丸みを帯びた文字の使用と相まって、外観全体として、丸みを帯びた柔らかなイメージを持たせるようにデザイン化されているといえる。しかしながら、商取引において、標章のデザイン化は一般に広く行われていることからすると、上記の程度のデザイン化がされていることをもって、表示として特殊なものであるとはいえず、本願商標は、「HANASUI」の欧文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであると認められる。


⑶ 本願商標の指定商品の需要者本願商標は、指定商品を第10類「家庭用鼻水吸引器」とするものである。そして、家庭用鼻水吸引器については、原告が販売する商品(その包装に本願商標に相当する構成文字及び書体からなる「HANASUI」の文字が表示されている。甲16)が、「0歳からお年寄りまで 大人の鼻水もよく取れる!家族みんなの必需品に」(甲15)などと、乳幼児のみならず大人の利用にも適する旨をうたっているほか、他社製品にも、乳幼児のみならず大人の利用を想定する商品が複数存在する(甲25、甲27の1、甲48、乙21、47)。また、商品比較サービスサイトである「マイベスト」のウェブサイトにおいて、「大人も使える鼻吸い器のおすすめ人気ランキング」との記事情報が掲載され、「大人も使える鼻吸い器は、副鼻腔炎になりやすい人や花粉症持ちの人にあると便利なアイテム。ピジョンをはじめとしたさまざまなメーカーから販売されています。」などとして、原告商品を含め数多くの商品がランキング形式で紹介されている(甲29の2)。そうすると、上記指定商品の需要者は、乳幼児を育児中の保護者に加え、花粉症やアレルギーによる鼻水や鼻づまりの症状に悩む大人も含む一般消費者であると認められる。


⑷ 本願商標の指定商品に関する取引の実情以下に掲記した証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件審決がされた時点における本願商標の指定商品に関する取引の実情として、次の事実が認められる。ア 医療や育児の現場における「鼻吸い」という用語の使用状況(ア) 小児科や耳鼻咽喉科を標榜する複数の医療機関のウェブサイトにおいて、自ら鼻をかむことのできない乳幼児について、鼻水により惹き起こされる症状に対する治療行為や予防行為として吸引器により鼻水を吸い出してあげる処置のことを「鼻吸い」と称しており、市販の器具を利用して自宅で行うか、上手に吸えない場合には、受診の上で病院に設置されている吸引器で行うよう推奨している(乙3ないし5、乙9ないし12)。(イ) 育児関連の情報を発信する複数のウェブサイトにおいて、自ら鼻をかむことのできない乳幼児について、鼻水や鼻づまりへの対処として吸引器により鼻水を吸い出してあげる処置のことを「鼻吸い」と称しており、当該処置を市販の「鼻吸い器」を利用して自宅で行う方法を紹介している(乙6ないし8)。(ウ) 「GOOD DESIGN AWARD」のウェブサイトにおいて、2018年にグッドデザイン賞を受賞したピジョン株式会社(以下「ピジョン社」という。)の「電動鼻吸い器」の受賞概要を紹介するページでは、「鼻をかめない赤ちゃんのための鼻水や鼻づまりを快適にする電動の鼻吸い器です。鼻吸いの行為は赤ちゃんも保護者の方も大変な育児ケアの一つです。」、「赤ちゃんの鼻吸いはとてもデリケートで加減が難しく、また、鼻吸い器の手入れにも手間がかかる。」などと、乳児について鼻水や鼻づまりへの対処として鼻水を吸い出してあげる処置のことを「鼻吸い」と称し、当該処置を行う器具を「鼻吸い器」と称している(甲50)。イ 家庭用鼻水吸引器に係る商取引の状況(ア) 「アマゾン」のウェブサイトには、多数の商品が「鼻吸い器」との表示を付して掲載されている(甲48)。(イ) 「マイベスト」のウェブサイトにおいて、「大人も使える鼻吸い器のおすすめ人気ランキング」、「電動鼻吸い器のおすすめ人気ランキング【2025年11月】」あるいは「徹底比較 鼻吸い器」との見出しの記事情報に、多数の商品(家庭用鼻水吸引器)が「鼻吸い器」として掲載、紹介されている(甲38、47、乙14)。(ウ) 「アカチャンホンポ Online Shop」のウェブサイトにおいて、「しっかりお鼻ケア鼻吸い器」の見出しの記事情報に、多数の商品(家庭用鼻水吸引器)が掲載されている(甲36、乙15)。(エ) ピジョン社のウェブサイト「Pigeon」の商品情報に、同社が「ドクター鼻吸い器」との表示を付して販売する家庭用鼻水吸引器が掲載されており、その商品紹介記事中には、「先端部がやわらかな素材で、赤ちゃんの鼻の粘膜を傷つけないスポイト式のはな吸い器!」との記載がある(乙17)。また、同商品情報には、同社が「鼻吸い器お鼻すっきり」との表示を付して販売する家庭用鼻水吸引器が掲載されており、その商品紹介記事中には、「先端は耳鼻咽喉科の先生と共同開発したU字カットで、奥の鼻水まですっきり吸い取れます。」の記載がある(甲37、乙18)。(オ) 妊娠・育児情報サイトである「Pigeon.info」のウェブサイトには、ピジョン社製の商品である「手動鼻吸い器 SHUPOT-pump」が掲載されており、監修医のコメントとして、「鼻吸い器があれば安心して鼻水を吸引してあげられます。」との記載がある(甲29の4、甲37、乙19)。(カ) コンビ株式会社の公式オンラインストア「Combi」のウェブサイトには、販売名を「電動鼻吸い器 C-62」とする商品が掲載されており、その紹介として、「サラサラ鼻水からドロドロのしつこい鼻水までしっかり吸引」との記載がある(甲29の2、乙20)。(キ) 丹平製薬株式会社のウェブサイトには、同社が販売する商品である「Sotto Totteハンドポンプ鼻すい器」が掲載されており、その紹介として、「真空ポンプ構造で、しっかり鼻水が吸引できるのに、赤ちゃんが嫌がる動作音がない静かな鼻すい器。」との記載がある(乙22)。また、同社のウェブサイトには、同社が販売する商品である「ママ鼻水トッテ」が掲載されており、商品情報として、商品名に付記して「新生児からつかえる!お口で吸える鼻すい器」と表示されているほか、商品紹介として、「ママのお口で吸引力を調節しながら、奥の鼻水まで確実に取ることができるのが特徴です。」との記載がある(甲29の3、乙24)。ウ 鼻吸い器の略称としての「鼻吸い」の使用状況(ア) 「CARADA健康相談」のウェブサイトには、相談内容に対する回答として「市販の鼻吸いで鼻水を吸いとってあげて下さい。」との記載がある(甲40、乙53)。(イ) 「Smile中井小児科・アレルギー科」のウェブサイトに掲載された「子どもの副鼻腔炎はどのくらいで治る?」との記事中には、「電動鼻吸いを活用することは治癒を早めることにつながります。」との記載がある(乙54)。(ウ) 「てらにしこどもクリニック」のウェブサイトの「よくある質問」に掲載された「赤ちゃんのとまらない鼻水、家で安静にしていれば治りますか?」との質問に対する回答として「当院では「吸引器(鼻吸い)」で鼻の奥にある鼻水を吸引することができます。鼻吸いだけでご来院頂いても大丈夫です。」との記載がある(乙55)。(エ) 「認定NPO法人ノーベルnobel」のウェブサイトには、「鼻水吸引の器具の例」との表題下に「鼻水吸引の器具ですが、吸って出す鼻吸いとスポイドタイプの鼻吸いなどもありますが、ここでは電動の鼻水吸引器を紹介します。」との記載がある(甲41、乙56)。(オ) 「横山耳鼻咽喉科」のウェブサイトの「お子さんの鼻の症状でお困りの方へ」との表題の記事情報中に、「自分で鼻かみの出来ないお子さんは、親御さんが市販の鼻吸いでこまめに吸ってあげてください。」との記載がある(甲39、乙57)(カ) 主婦と生活社から発行された雑誌である「CHANTO」7月号(2015年6月5日発行)に掲載された「メルシーポット」という商品を紹介した記事中に「耳鼻科並みに吸えるハイパワー電動鼻水吸引器 よく鼻水が出るうえに、鼻が上手にかめない乳幼児の必須アイテム、通称鼻吸い。」との記載がある(乙58)。


⑸ 検討ア 鼻水を吸うことを意味する語として用いられる「鼻吸い」は、辞書に掲載されている語ではないものの、前記⑷アによれば、本件審決がされた時点において、小児医療や育児の現場では、鼻をかめない乳幼児について吸引器で鼻水を吸い出してあげる処置のことを「鼻吸い」と称し、「鼻吸い」については、自宅でできる市販の器具を利用するか、上手くできないときは、受診のうえ病院に設置された吸引器で行うよう推奨されていたことが認められ、「鼻吸い」の語は、鼻水を吸うという処置を意味する語として、広く使用されている実情があるものと認められる。また、前記⑷イによれば、本件審決がされた時点において、自宅において鼻水を吸う処置に用いる器具は、「鼻水吸引器」と称されるほか、「鼻吸い器」(「鼻すい器」又は「はな吸い器」と表示されることもある。)と称され、広く市販され、流通している実情があるものと認められ、鼻水を吸う処置に用いる器具については、単に「鼻吸い」と略称されることもあること(前記⑷ウ)が認められる。そして、商取引における実情として、商品名や品質又は用途に係る表示を、漢字、平仮名又は片仮名から欧文字に変換して表記することが一般に広く行われているものと認められる(甲42、43、45、46、乙22、26ないし44)。イ 本願商標は、前記⑵のとおり、外観上一体のものとして把握され、「ハナスイ」の一連の称呼が生じるものと認められるところ、前記アのとおりの本願商標の指定商品等についての取引の実情を踏まえれば、本願商標をその指定商品である「家庭用鼻水吸引器」に使用するときは、それに接する需要者、取引者において、「鼻吸い」(鼻水を吸うこと)の表音をローマ字表記したものと認識されるものということができる。そして、「鼻吸い」が鼻水を吸うという処置を意味する語として、広く使用されていることや、自宅において鼻水を吸う処置に用いる器具は、「鼻水吸引器」と称されるほか、「鼻吸い器」とも称され、一般に広く流通しており、「鼻吸い」は当該器具の略称としても用いられる語であることからすれば、本願商標は、その指定商品との関係で商品の品質又は用途(「鼻吸い」に用いられる器具であること)を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、本願商標が指定商品である「家庭用鼻水吸引器」に使用された場合に、需要者、取引者によって当該商品の品質又は用途を表示したものであると一般に認識されるものであると認められる。したがって、本願商標は、その指定商品との関係において、商品の品質又は用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法3条1項3号に該当する。


⑹ 原告の主張に対する判断ア 原告は、本願商標は、デザイナーにより納品された角を丸めた柔らかい書体を採用し、文字間隔を調整することで、図形的特徴を備えたものとなっており、取引者において一般的に使用する範囲にとどまらない特殊なレタリングを施して表示するものであるから、普通に用いられる方法で表示する標章に該当しない旨主張する。しかし、商品に標章を表示する際にデザイン化が施されたフォントを用いる例が一般にみられることからすれば、本願商標に用いられるフォントをもって、取引者において一般的に使用する範囲にとどまらない特殊なレタリングを施したものとまでいうことはできない。また、本願商標は、デザイン化されたフォントの使用及び文字間隔の調整がされているといっても、これにより構成全体が図形を表してなるものと看取されるような図案化がされているとはいえず、欧文字を横書きしてなるものと看取されるにとどまるというべきであるから、取引者において一般的に使用する範囲にとどまらない特殊な構成で表示するものともいえない。本願商標が、「HANASUI」の欧文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであると認められることは、前記⑵イのとおりであり、原告の上記主張は採用することができない。イ 原告は、本願商標は、多少丸みを帯びたやや手書き風の優しい書体を用いることで、その称呼から「鼻吸い」の文字(語)を連想させるとともに、「花水」や「花吸い」をも連想させるものであり、家庭用鼻水吸引器の品質や用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標に該当しない旨主張する。しかし、本願商標からは「ハナスイ」の一連の称呼が生じるものと認められるところ、前記⑷のとおりの本願商標の指定商品等についての取引の実情を踏まえれば、本願商標をその指定商品である家庭用鼻水吸引器に使用するときは、それに接する需要者、取引者において、「鼻吸い」(鼻水を吸うこと)の表音をローマ字表記したものと認識されるものということができる。他方、原告の主張する「花水」や「花吸い」の語の意味するところも不明であって、ましてや指定商品である家庭用鼻水吸引器に関し、需要者、取引者が、「花水」や「花吸い」のような語句を想起するものとは直ちにいえない(それにもかかわらず、家庭用鼻水吸引器との関連で、需要者、取引者が「花水」や「花吸い」の語を想起するであろうことを裏付ける取引の事情があるともいえない。)。また、前記アのとおり、本願商標に用いられているフォントは、取引者において一般的に使用する範囲にとどまらない特殊なレタリングを施したものとはいえないことからすれば、当該フォントが用いられているからといって、需要者、取引者に、特に「花水」や「花吸い」等の語を想起させるものであるともいえない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。ウ 原告は、本願商標が「鼻吸い」の文字(語)を欧文字つづりにより表記したものと理解されるとしても、取引者において「鼻水を吸引すること」を説明するときに、デザイン性を有する欧文字で「HANASUI」と表記することはおよそあり得ないから、本願商標は、家庭用鼻水吸引器の品質や用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標に該当しない旨主張する。しかし、前記⑸アのとおり、商取引において、商品名や品質又は用途の表示を、漢字、平仮名又は片仮名から欧文字に変換して表記することが一般に広く行われていることに加え、商取引において標章のデザイン化は一般に広く行われるものであることからすると、将来において、「鼻吸い」に用いられる家庭用鼻水吸引器の品質又は用途を表示記述する場合に「HANASUI」と表記することはおよそあり得ないなどとはいえない。また、本願商標が商標法3条1項3号に該当するというためには、本件審決がされた時点において、本願商標がその指定商品との関係で商品の品質又は用途を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、本願商標の需要者、取引者によって、本願商標がその指定商品に使用された場合に、将来を含め、商品の品質又は用途を表示したものと一般に認識されるものであれば足り、それが一般に用いられていた実情があったことまでを要するものではないというべきであるから、家庭用鼻水吸引器の品質又は用途を「HANASUI」と表示する例が、本願商標の指定商品に属する分野において現実に使用されていないからといって、本願商標の同号該当性が否定されるものではない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。エ 原告は、①「HANASUI」という欧文字表記が家庭用鼻水吸引器の品質等表示として一般に使用されている例が示されていないから、「HANASUI」が、取引者、需要者において、家庭用鼻水吸引器の品質又は用途を表示する標章として一般に認識されていることを立証し得ていない、②被告が示す例の多くは、「鼻吸い器」などと「器」を伴う表示であり、これらの例から、「鼻吸い」単独又は「HANASUI」が、品質又は用途を表示するものとして普通に用いられているという取引の実情を認めることはできない、③日本語の語を欧文字で表記することが一般に行われているという事情は、取引者、需要者において、「HANASUI」を家庭用鼻水吸引器の品質又は用途の表示として理解することまで裏付けるものではない旨主張する。しかし、家庭用鼻水吸引器の品質又は用途を「HANASUI」と表示する例が、本願商標の指定商品に属する分野において現実に使用されていないからといって、本願商標の同号該当性が否定されるものではないことは前記ウのとおりである。また、前記⑷のとおりの本願商標の指定商品に係る取引の実情に照らせば、自宅において鼻水を吸う処置に用いる器具は、「鼻水吸引器」と称されるほか、「鼻吸い器」等と称され、広く市販され、流通している実情があるものと認められ、鼻水を吸う処置に用いる器具については、単に「鼻吸い」と略称されることもあることが認められること、商取引における実情として、商品名や品質又は用途に係る表示を、漢字、平仮名又は片仮名から欧文字に変換して表記することが一般に広く行われているものと認められることは、前記⑸アで認定したとおりである。そして、「鼻吸い」が鼻水を吸うという処置を意味する語として、広く使用されていることに加え、本願商標の指定商品に係る上記取引の実情を踏まえれば、本願商標が指定商品である「家庭用鼻水吸引器」に使用された場合に、需要者、取引者によって当該商品の品質又は用途を表示したものであると一般に認識されるものであると認められることは、前記⑸イで説示したとおりである。したがって、原告の上記主張は採用することができない。オ 原告は、真偽の不明なウェブサイト等の記載に基づいて商標法3条1項3号該当性を判断するのは相当性を欠くだけでなく、出願人間の公平性を欠く旨主張する。しかし、ウェブサイト等の情報を取引の実情を認定する際の証拠とすることが、一般的に相当性を欠くなどとはいえないところ、本件全証拠によるも、前記⑷に掲記した証拠に係るウェブサイト等やその記載に、本願商標の指定商品に係る取引の実情の認定に用いるのを不相当とすべき事情があることはうかがわれない。また、指定商品に係る取引の実情の認定は、事案ごとに個別的に行われるものであるから、取引の実情を認定するのに要するウェブサイト等の情報数について画一的な基準が設けられていないからといって、同号該当性についての審査官の判断が恣意的であるなどと断ずることはできないし、出願人間の公平性を欠くというものではない。カ 原告は、本件訴訟において被告が示す証拠の相当部分は、本件審決がされた時点より後の令和7年12月又は令和8年1月に収集、印刷されたものであり、本件審決時点における取引の実情を直ちに示すものではない旨主張する。しかし、前記⑷アに掲記した証拠(乙3ないし12)は、令和7年12月19日から令和8年1月19日までの間に印刷されたものであるものの、このうち乙第6号証ないし第8号証は、更新日の記載から、本件審決日前から公開されていたものと確認することができるものである。他の証拠については、本件審決がされた日から2か月ないし3か月程度の間に、医療の現場における「鼻吸い」の語の使用状況に変化があったなどの事情はうかがわれないから、上記証拠をもって、本件審決がされた時点における取引の実情として、前記⑷アの事実を認定することができるというべきである。また、前記⑷イに掲記した証拠(乙14、15、17ないし20、22、24)は、令和7年12月19日又は令和8年1月15日に印刷されたものであるものの、当該ウェブサイト中に記載された情報又は併せて掲記した甲号証に記載された情報を参照すれば、本件審決日前から公開又は商品として販売されていたことを確認することができることから、上記証拠をもって、本件審決がされた時点における取引の実情として、前記⑷イの事実を認定することができるというべきである。さらに、前記⑷ウに掲記した証拠のうち、乙第54及び55号証は、令和8年1月14日又は同月15日に印刷されたものであるものの、本件審決がされた日から3か月程度の間に、医療の現場における「鼻吸い」の語の使用状況に変化があったなどの事情はうかがわれないから、上記証拠をもって、本件審決がされた時点における取引の実情として、前記⑷ウの事実を認定することができるというべきである。キ 原告は、原告が原告商標権を有していることからすれば、原告以外の者が「HANASUI」という標章を鼻水吸引器に使用することは事実上不可能であり、競合メーカーにおいて、現在又は将来において、「HANASUI」との名称の使用を欲するとは考えられない旨主張する。この点、原告商標権に係る商標は、本願商標と同一の文字列と図形(灰色と白色の横縞からなるしずくの中に赤色の円を配置したもの)との結合商標である。その外観は、図形部分が強い印象を与える一方で、文字列部分は、その指定商品である「鼻水吸引器」の用途を意味する語として広く用いられている「鼻吸い」の表音をローマ字表記したものと認識されることから、文字列部分のみで出所識別機能を有するものとは直ちにいい難い。そうすると、原告が原告商標権を保有しているからといって、原告以外の者が、本願商標の指定商品に関連して広く用いられている語である「鼻吸い」を欧文字で表記した「HANASUI」という標章を、現在又は将来において使用することができない、あるいは、その使用を欲することがないなどとはいえない。原告が主張する点を考慮しても、本願商標がその指定商品との関係で商品の品質又は用途を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であることは否定されないというべきである。


⑺ 以上のとおり、本願商標は商標法3条1項3号に該当するものであるから、本件審決における同号該当性の判断に誤りはない。


2 取消事由2(商標法3条2項該当性についての判断の誤り)について⑴ 商標法3条2項は、同条1項3号から5号までに該当する商標であっても、「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」については、商標登録を受けることができる旨を規定するところ、その趣旨は、同条1項3号から5号までに該当する商標であっても、特定の者が長年その業務に係る商品又は役務について使用した結果、その商標がその商品又は役務と密接に結びついて自他商品識別力又は自他役務識別力をもつに至ることが経験的に認められるので、このような場合には商標登録を受けることができるとしたものと解される。そうすると、出願に係る商標が同条2項に該当するか否かは、使用に係る商標ないし商品、使用開始時期及び使用期間、使用地域、商品の販売数量、広告宣伝のされた期間、地域及び規模等の諸事情を総合考慮して判断するのが相当であり、当該商標が自他商品識別力を獲得したというためには、永年使用されることにより、特定の者の出所表示としてその商品の需要者の間で全国的に認識されるに至っていることを要するものと解するのが相当である。⑵ 認定事実後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。ア 原告は、京都市を本店所在地として令和4年11月30日に設立された日用品並びにベビー用品の企画、制作および販売等を目的とする資本金100万円の株式会社である(甲13の1)。イ 原告は、本願商標と同一の標章が付された原告商品を令和5年7月から製造、販売しているところ(甲13の2)、本願商標と同一の標章である「HANASUI」の文字列は、商品の包装(箱)の正面中央部に表示されている(甲15)。ウ 原告商品は、令和6年7月には「ベビー&キッズEXPO」に出展され(甲33、甲34の1ないし4)、令和5年度にはキッズデザイン賞の審査委員長特別賞を受賞した(甲35の1・2)。また、原告商品は、販売開始から約1年後(令和6年7月15日)の時点において、アマゾンの「ベビー>ベビーケア・バス>鼻吸い器」のカテゴリーの「売れ筋ランキング」第1位を獲得したことがあり(甲16)、令和7年11月の時点でも第4位又は第5位に位置していた(甲60)。原告商品の売上金額は、令和5年度(同年7月から同年12月まで)で約3029万円、令和6年度(同年1月から同年12月まで)で約7956万円、令和7年度(同年1月から同年11月まで)で約5527万円であり、販売個数は、上記期間の合計で4万8644個であった(甲61)。なお、原告によれば、アマゾンでの販売数を基に原告が試算した結果、家庭用鼻水吸引器における原告の市場占有率は約7.5%であった。エ 原告は、原告商品について、アマゾン及び楽天市場のウェブサイトに広告出稿しており、その広告費用の概算額は、令和5年度で約565万円、令和6年度で約1538万円、令和7年度で約1147万円であった(甲61)。オ 原告商品は、家庭用鼻水吸引器のランキングに係るウェブサイトや商品の比較を行うウェブサイト等において、第三者により紹介されており(甲29の1ないし4、甲30の1ないし4、甲31の1ないし4)、原告によれば、アマゾンにおいては約800件、楽天市場においては、約1,000件のレビュー実績がある(弁論の全趣旨)。また、令和7年4月30日時点において、インターネット検索エンジンのGoogleで「HANASUI」の欧文字を検索すると、検索結果の上位29件中17件は、原告商品に関連するウェブサイトであり(甲17)、翌5月1日にGoogleで「HANASUI」の欧文字を検索して表示された画像には原告商品が多数含まれていた(甲18)。⑶ 検討前記⑵で認定した事実によれば、原告の企業努力により、原告商品は、ベビー用品市場において、家庭用鼻水吸引器の一つとしてある程度の周知性を獲得しているものと推認し得る。しかし、原告商品は、本件審決がされた時点までに発売開始から2年程度の販売実績しかない比較的新しい商品であり、しかも、その流通経路はインターネット通販サイトであるアマゾン及び楽天市場に限られ、令和7年11月までの販売個数も4万9000個に満たない程度であることに照らせば、家庭用鼻水吸引器の需要者層(前記1⑶のとおり、乳幼児を育児中の保護者に加え、花粉症やアレルギーによる鼻水や鼻づまりの症状に悩む大人も含む一般消費者)に広く行き渡っているといえるようなものではない。また、原告が行った原告商品についての広告宣伝は、上記二つの通販サイトにおけるものに限られており、かつ令和7年11月までの広告費用の合計額も3250万円と多額であるとまではいえないことからすれば、上記需要者層に広く知れ渡るような規模のものであったとはいえない。なお、原告は、家庭用鼻水吸引器のランキングに係るウェブサイト及び商品の比較を行うウェブサイト等において原告商品が第三者により紹介されていることや、通販サイトにおいて原告商品に係る商品レビューが相当数あること等の事情を挙げるのみで、原告商品がマスメディア等に取り上げられた実績については言及していない。以上の点を総合考慮すれば、本願商標が原告の出所表示として、家庭用鼻水吸引器の需要者の間で全国的に認識されるに至っているものと認めることはできない。これに対し、原告は、原告商品は「日本製の家庭用鼻水吸引器」であることを最大の訴求点とし、幼少期の子どもを持つ家庭を主たるターゲットとして製造・販売されていることからすれば、本願商標の使用による識別性獲得の有無を判断するについては、日本製家庭用鼻水吸引器であることを重視する国内の子育て層を需要者として設定すべきである旨主張するが、前記⑴の商標法3条2項の規定の趣旨からすれば、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」に該当するというためには、本願商標の指定商品の需要者の間で自他商品識別力を獲得していることを要するものと解されるのであり、原告商品が主に想定する需要者に限って上記該当性を判断すべきとする原告の主張は、採用の限りでない。⑷ したがって、本願商標が使用により自他商品識別力を獲得するに至ったとはいえないから、本願商標の商標法3条2項該当性を否定した本件審決の判断に誤りはない。


3 結論以上によれば、原告の取消事由1及び2の主張はいずれも理由がなく、本件審決にこれを取り消すべき違法はない。よって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。


知的財産高等裁判所第3部


裁判長裁判官


中 平 健


裁判官


今 井 弘 晃


裁判官


柵 木 澄 子

 
 
 

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