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令和8年6月16日判決言渡
令和7年(ネ)第10080号 損害賠償等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所
令和6年(ワ)第70285号)
口頭弁論終結日 令和8年4月14日
判 決
控 訴 人 X
同訴訟代理人弁護士 安 井 規 雄
被 控 訴 人 Y
同訴訟代理人弁護士 田 仲 剛
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。2 被控訴人は、武道の教授、普及、演武その他これらに関連する活動において、原判決別紙被控訴人標章兼被控訴人商品等表示目録記載の標章及び表示を使用してはならない。3 被控訴人は、控訴人に対し、3024万円及びこれに対する令和6年9月29日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。4 被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙謝罪文目録記載の謝罪文を、同目録記載の条件にて掲載せよ。5 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。6 仮執行宣言
第2 事案の概要(以下、特に断らない限り、略語は原判決と同一のものを使用す
る。なお、原判決に「原告」とあるのを「控訴人」と、「被告」とあるのを「被控訴人」と、「別紙」とあるのを「原判決別紙」とそれぞれ読み替える。)1 本件は、控訴人が、雑誌の記事及び広告において、被控訴人が原判決別紙被控訴人標章兼被控訴人商品等表示目録記載の各標章(被控訴人標章1-1等、被控訴人各標章)及び各商品等表示(被控訴人各表示。被控訴人各標章と併せて被控訴人各標章等)を使用する行為並びに被控訴人が運営する道場において被控訴人各標章等を使用して武術等の教授をする行為が、それぞれ、原判決別紙商標権目録記載の各商標(控訴人商標1等、控訴人各商標)に係る各商標権(控訴人商標権1等、控訴人各商標権。なお、控訴人各商標に対応する控訴人の営業表示と併せて控訴人各表示)を侵害する(商標法37条1項1号)とともに、混同惹起行為(不正競争防止法(不競法)2条1項1号)に当たると主張して、商標権(商標法36条1項)及び不競法3条に基づく被控訴人各標章等の使用の差止め、民法709条及び不競法4条に基づく3024万円の損害賠償及びこれに対する令和6年9月29日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払並びに商標法39条(特許法106条)及び不競法14条に基づく謝罪文の掲載を請求する事案である。原審が、控訴人の請求をいずれも棄却したところ、控訴人が本件控訴を提起した。2 前提事実、争点及び当事者の主張は、次のとおり補正し、後記3のとおり当審における控訴人の主な補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中(以下、原判決を引用する場合に「事実及び理由」中との記載を省略する。)、
第2の1ないし3(原判決2頁11行目ないし同20頁11行目)に記載のと
おりであるから、これを引用する。
⑴ 原判決2頁21行目の「につき、」の次に「有限会社玄武館本館から(甲1)」を加える。
⑵ 原判決4頁10行目末尾の次を改行し、次のとおり加える。「なお、被控訴人は、武神館本部道場及び武神館Y道場において、『本體高木揚心流柔體術』、『義鑑流骨法術』に係る格闘技、技芸、知識を教授しているところ、これら役務は控訴人各商標権の役務(第41類)と同一である。」3 当審における控訴人の主な補充主張原判決には、以下に述べるとおりの誤りがある。
⑴ 手続上の違法及び審理不尽控訴人が原審でした弁論再開申立てを、原審裁判所が却下したことが違法である。最高裁判所昭和55年(オ)第266号同56年9月24日第一小法廷判決・民集35巻6号1088頁(以下「昭和56年最判」という。)は、弁論終結後に重要な攻撃防御方法が提出された場合には、裁判所が弁論を再開する義務を負うことがあると判示しており、本件のように重要な攻撃防御方法が口頭弁論終結後に提出された場合には、弁論再開をしないことは違法となる。また、控訴人には当事者本人の尋問の機会や陳述書、最終準備書面の提出等の機会が一切与えられず、原審は審理不尽である。原審は、弁論再開の判断に当たって、被控訴人側とのみ協議し、控訴人側に陳述機会を与えず、書記官の電話連絡のみで処理し、決定書面・理由付記を欠き、その結果を訴訟記録にも残さず、「職権発動だから書面不要」と説明した。これらの行為は、民事訴訟法(以下「民訴法」という。)93条・94条・98条以下・153条・249条及び憲法32条(防御権を行使する機会、すなわち公正な裁判を受ける権利)に違反する明白に違法な手続であり、判決書の適法性を根底から失わせるものである。よって、原判決は「適法な合議体による審理と判断」によらず、当事者の防御権行使を実質的に封殺したものであり、適正手続を欠き、取り消されるべきである。
⑵ 訴訟手続の法令違反本件では、原審における弁論準備手続において、受命裁判官(志摩裁判官及び松尾裁判官)は実質的に審理を行っておらず、全期日を杉浦裁判長が単独で進行した。さらに、次席の池田裁判官が第8回のみ形式的に入室したにすぎないことから、実質的に「一人合議体」として審理が進行した異例の構造である。これは民訴法249条(直接主義・弁論更新)、206条(受命裁判官の権限)が予定する合議制の本旨に反し、「手続上の違法」として審理対象となるべき重大な瑕疵である。また、第8回弁論準手続期日と同日の第1回口頭弁論期日における弁論終結は、当事者に通知されず、形式的にのみ「口頭弁論」とされた。裁判所が口頭弁論期日を開くには、当事者に期日と手続内容を明示し、陳述機会を保障しなければならない(民訴法87条、139条、93条、94条、98条以下)。この要件を欠いたまま弁論を終結し判決を下すことは、明白に口頭弁論主義違反である。また、控訴人が令和7年7月17日における原審の第8回弁論準備手続期日にした訴え取下げ申出を、裁判所が無視したという違法がある。控訴人(一審原告)は、第7回弁論準備手続期日(令和7年6月19日)において、杉浦裁判長の心証開示及び和解勧告を受けたことを踏まえ、自らの責任において本件訴えを取り下げる旨を明示的に申し出た。これに対し、裁判所(杉浦裁判長)は被控訴人代理人に不同意の有無を口頭で確認し、被控訴人側がこれに不同意である旨を述べたところまでは、控訴人側の期日経過記録(甲67)その他の経過からも明らかである。しかし、その後、裁判所(杉浦裁判長)は、当該訴え取下げ申出と被控訴人の不同意の有無について、どのような手続上の判断を行ったのかを当事者に対して一切明示しないまま、訴訟を継続し、最終的に判決の言渡しに至った。原判決の理由中には、控訴人による訴え取下げ申出の存在、その時点での訴訟進行状況、被控訴人の不同意の有無及びその理由など、本件における取下げ申出の経過に関する記載が全く存在せず、訴え取下げ申出がどのような法的評価の下に処理されたのか、措置の内容をうかがうことはできない。本来、訴えの取下げは、判決が確定するまで原告の処分に委ねられる制度であり(民訴法261条1項)、被告が既に本案について陳述をしている場合でも、同条2項の趣旨は、取下げの申出と被告の同意の有無を適式に確認した上で、その結果を記録し、必要に応じて送達することを要求している(同条3項〜5項参照)。にもかかわらず、本件では、裁判所がこれらの手続を尽くさず、控訴人の取下げ申出と被控訴人の不同意の有無を期日調書に明示せず、訴え取下げという処分権行使を実質的に黙殺したものである。このような取扱いは、当事者の訴訟追行・処分権を尊重しつつ公正かつ迅速な訴訟運営を図るべきことを定めた民訴法2条及び261条の趣旨に明らかに反する手続違法である。また、口頭でなされた訴え取下げの申出と被控訴人の同意の有無を必要に応じて送達することを法が要求しているのに、これもなされていない。
⑶ 事実の誤認その1甲7、65及び66は、いずれも被控訴人が被控訴人各標章を用いて継続的に教授活動を行い、受講希望者を誘引する広告的使用をしていたことを直接証明するものである。すなわち、甲7の「月刊 秘伝」(本件雑誌)各号(第1回から第36回、3年間毎月)の右下欄には、英語表記「Y」の名前とともに、「2003年1月武神館Y道場開設」(平成15年1月開設)、「2014年3月武神館本部道場Yクラス開設」(平成26年3月「Yクラス」開設)との記載が反復して掲載されている。さらに、本件雑誌(「月刊 秘伝」)2023年9月号、第30回記事128頁には、被控訴人本人が、「30歳の時にAから許可を得て武神館Y道場を開設し、毎週土曜日に3人の門人を指導し始め、後に土日も教えるようになった」と明言し、明記している(甲65)。これらは被控訴人自身が、武神館の名の下に支部として独自の「Y道場」を開設し、その後武神館の本部道場内に「Yクラス」を設け、土日教授の枠を継続的に設けていたことを、明確に自認し、公表している一次資料である。また、控訴人の前代理人B弁護士による令和5年5月16日付け「交渉状況報告書」の1、⑵「相手方との電話協議」によれば、B弁護士が「義鑑流および高木楊心流を掲げて格闘技・武芸の教授をしていることに間違いないか」と確認した際、被控訴人は「間違いない」と明確に回答している(B弁護士作成の令和6年5月16日付け「交渉状況報告書」。甲9)。この録取内容は、被控訴人が自ら登録商標と同一の流派名を掲げ、教授活動を行っている事実を直接自認したものである。このように、被控訴人の行為は単なる肩書表示ではなく、自ら教授枠を設け、役務提供主体として行動する一商標的使用の典型である。したがって、原審がこれを「肩書きの表示にすぎない」とした判断は、被控訴人自身の供述・経歴資料を無視した、実体的な事実の誤認である。
⑷ 事実の誤認その2甲7における連載記事中の流派名の表示は教授コンテンツの標識として機能し、被控訴人の行為は、「広告的誘引行為」や「混同惹起行為」に該当する。すなわち、甲7における連載記事は、ナンバリングや次号予告を伴い、需要者(読者等)を継続的に誘引する編集形式を採用している。被控訴人の氏名・流派名の表示は、教授コンテンツの標識として機能し、需要者(読者等)に「本體高木揚心流柔體術」や「義鑑流骨法術」等の教授役務を想起させる「広告的誘引行為」に該当する。特に、甲65及び66では、「Yクラス(土・日19:00-21:00)」と明示され、日時・場所・担当者を特定して需要者(受講者等)を誘引している。この態様は、商標法2条3項8号の「役務に関する広告」そのものであり、「肩書の表示にすぎない」とした原審の認定は、証拠評価の誤りである。本件役務の需要者は、武術・武道の稽古を希望する一般の市民、国内外の武術愛好家、及び古武道の系譜・正統性に価値を見出す国内外の専門家・研究者である。これら需要者にとって、流派名・宗家名は単なる文化的名称ではなく、「どの系統に学ぶか」「どの宗家の指導を受けるか」を選択するための決定的な判断要素である。控訴人は、戦後一貫して、先師CやD等の武道及びその精神を継承し、玄武館本部道場及び世界各国の支部・道場を通じて、義鑑流骨法術及び本體高木楊心流柔術(本體楊心高木流柔術・高木流捕手柔術などを含む)を教授してきており(甲11、22、25、26、35、36、47、53、68)、その名は国内外の武術愛好家の間で広く知られている。他方、被控訴人は、同一又は類似の流派名(「義鑑流骨法術」は同一、「本體高木揚心流柔體術」は類似)・宗家名(高木流は同じ十八代宗家、義鑑流は十六代宗家〔控訴人は十四代宗家〕)を用いて「武神館本部道場」「武神館Y道場」「Yクラス」等として教授活動を行っているのであるから、通常の注意を有する需要者において、「控訴人系統の一教室・クラス・道場」又は「控訴人と同系統の分派、または控訴人から承認を受けた分派、あるいは控訴人も認める分派」であると誤信する蓋然性は極めて高い。
⑸ 事実の誤認その3当審で提出した甲39ないし43、65及び66によれば、被控訴人による被控訴人各標章の使用は、屋号的使用と同質であり、商標法上の商標の使用に該当するものである。この法理の射程を誤り、これらを「肩書表示」と評価した原判決は明白に法的評価を誤り、事実を誤認したものである。
⑹ 判断の逸脱(権原なき宗家継承問題)本件の実体判断は承継権原の有無と不可分に結びつくから、原審には、承継の権原を審理・判断しなかったという審理不尽が認められる。控訴人は、原審において、A氏が正統承継者でないこと、A氏から被控訴人への家元相伝を保証・補完するC直筆の伝書、巻物等が存在しないこと、乙6(「武芸流派大事典」)記載の系統図は被控訴人主張を裏づける決定的資料ではない(矛盾・曖昧性)ことなどを具体的に主張・立証した。これに対し被控訴人は、実質的反論を回避し、原審も主張整理・争点化を行わず、判断理由中にも実質判断を欠落させた。これは、主要事実に関する審理不尽であり原判決の理由不備に当たる。被控訴人が援用する「相伝」について、相伝を直接基礎づけるC伝来の書状、伝書、巻物、授受記録等が存在しないし、乙6の系統図は編集資料であり、一次資料の引用・裏付けが明示されていない箇所が多い。すなわち、乙6は二次資料であり、民訴法247条の直接主義上も証明力は限定的である。同書の叙述には、同一流派内で複数系統の併存を認める趣旨の記載がある一方、個別の承継手続(C伝来の術技伝書・巻物などの授与文書・見分状・印可目録など)への踏み込みは限定的で、正統承継の法的証明としては足りない。したがって、乙6は、学術的・編集的な参考資料として一定の意義は認められるものの、特定人に対する宗家承継の有無を直接証明し得る一次証拠ではなく、その記載のみをもって被控訴人の承継に「合理性」があると判断した原判決は、証拠評価の方法を誤ったものといわざるを得ない。
⑺ 原判決の誤りその1本件と知的財産高等裁判所令和5年(ネ)第10085号、同第10098号同6年3月7日判決(「BABジャパン事件」という場合がある。)とは標章を使用した主体が異なるにもかかわらず、原判決は、このBABジャパン事件の理論を実質的に本件に取り込み、被控訴人の「本體高木揚心流柔體術」及び「義鑑流骨法術」等の使用を「肩書表示にすぎない」と断じた。しかし、本件に「BABジャパン事件」の判断枠組みを流用したのは法規範適用の誤りである。
⑻ 原判決の誤りその2原審で提出した甲7のほか、当審で提出した甲39ないし43、65及び66によれば、被控訴人は「家元」「宗家」「Yクラス」等の標章を、教授日時・会場・料金案内と一体的に広告表示している。これらはまさに条文上の「役務に関する広告への使用」であり、商標法2条3項8号該当性を否定した原判決の法解釈は誤りである。原判決には商標法上の判断枠組みの誤りや不競法の誤適用が認められる。
⑼ 原判決の誤りその3原判決には上記⑷のとおりの商標法2条3項8号の構成要件該当性の誤りあり、これにより商標法37条1号の射程を狭く解した誤りがあり、不競法上の「商品等表示」該当性の誤りが認められる。被控訴人は、その師であるA氏についてさえ、甲35、36及び47等に照らしても正統な宗家承継の権原が証明されていないにもかかわらず、その主張する系譜に依拠して、あたかも自らが「本體高木揚心流柔體術十八代宗家・家元」「義鑑流骨法術十六代宗家・家元」であるかのように称し、控訴人各商標と同一又は類似の流派名・宗家名を用いて武神館本部道場に「Yクラス」を開設し、受講生・門弟を募集し、教授役務の広告・誘引を反復継続しているのであって、その態様は、裁判例における周知表示冒用行為と事案構造を同じくするものである。したがって、「肩書的使用又は説明的使用だから商品等表示ではない」として本件流派名等の営業表示性を否定した原判決の解釈は、裁判例の趨勢にも反する不当なものである。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由
は、当審における控訴人の主な補充主張も踏まえ、次のとおり補正し、後記2のとおり当審における控訴人の主な補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の第3の1及び2(原判決20頁13行目ないし31頁21行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
⑴ 原判決30頁18行目の「本件雑誌」の次に「その他控訴人が証拠として
提出するウェブページ等」を加える。
⑵ 原判決30頁25行目の「もっとも、」の次に「当審において控訴人が提
出した甲65、66についても、指導教授内容の説明や肩書の一部としての記載にとどまるものや、自身の経歴に関連して『『武神館Y道場』出発の時である。』、『日曜日の稽古は毎週、』、『土日の休日は武神館。』などとする記載があるのみであって、同じく控訴人提出に係る甲39ないし43についても、その一部に指導教授内容の説明や肩書、経歴の記載や、外国人受講生による外国語のクラスの紹介や『Avec Y soke of Takagi Yoshin Ryu etGikan Ryu』(『Avec』、『et』の訳は『共に』、『と』)などの投稿があるにとどまり、」を加える。
2 当審における控訴人の主な補充主張に対する判断は、以下のとおりである。
⑴ 控訴人は、前記第2の3⑴のとおり、原審には手続上の違法があり審理不
尽であるなどと主張する。しかし、いったん終結した口頭弁論を再開するか否かは裁判所の専権事項であってその裁量に委ねられているところであり、控訴人が口頭弁論の再開の申立てをしても、職権の発動を促すにすぎないものである。控訴人の引用する昭和56年最判は、弁論を再開して当事者に更に攻撃防禦の方法を提出する機会を与えることが明らかに民事訴訟における手続的正義の要求するところであると認められるような特段の事由がある場合に口頭弁論を再開すべきとするものであるところ、原審においては、控訴人も自認するとおり、8回の弁論準備手続が重ねられ、各回に双方当事者の代理人弁護士が出頭し、当事者双方に十分な攻撃防御の機会が与えられていたものであり、これを踏まえて原審は、弁論準備手続を終結し、その結果陳述を踏まえて口頭弁論を終結したものである。しかも、原審における口頭弁論の再開の申立ては、原審の口頭弁論の終結(令和7年7月17日)から2か月以上も経過し、判決言渡期日(同年10月6日)の直前(同年9月22日)になされたものであるから、原審が職権を発動せず、口頭弁論を再開しなかったことは何ら違法ではない。また、控訴人は、当事者本人の尋問の機会や陳述書、最終準備書面の提出等の機会が一切与えられず審理不尽であると主張するが、控訴人作成の期日の経過の記録(『事件番号:東京地方裁判所』で始まる書面。甲67)からも明らかなとおり、原審における8回の弁論準備の手続において、各期日に控訴人の当時の代理人弁護士が出席し、準備書面等の提出予定日や主張立証の予定を確認しつつ、計画的に争点整理が進められており、証人等の尋問の申請、陳述書や最終準備書面の提出を行うことは十分に可能であったが、控訴人からそもそも原審において口頭弁論終結前にそのような申請等はなされていなかったのであるから、原審に審理不尽の違法はない。したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
⑵ 控訴人は、前記第2の3⑵のとおり、控訴人が原審第8回弁論準備手続期
日において訴え取下げを申し出たのに裁判所がこれを適切に取り扱わなかった違法があるなどと主張する。控訴人の主張の趣旨は明らかではないものの、訴えの取下げは相手方が準備書面を提出した後にあっては相手方の同意を得なければ効力が生じないところ(民訴法261条2項)、控訴人作成の原審における事実経過の記録によっても、原審の弁論準備手続期日において控訴人代理人から取下げ意思を伝えたが相手方である被控訴人(一審被告)が取下げには同意しないとしたものであるから(甲67)、控訴人が訴えの取下げ意思を示したとしても取下げの効力は生じておらず、原審の訴訟指揮を違法とするものではない。原審においては、控訴人が訴え取下げの意思を示したとする第8回の弁論準備手続の後、同日第1回の口頭弁論期日が開かれ、口頭弁論が終結されて、控訴人の当時の代理人弁護士出頭のもとで判決言渡し期日が指定されているのであるから、仮に弁論準備手続における訴え取下げの意思が適切に反映されず処分権主義に反する事態となっているのであれば、その旨引き続き開かれた口頭弁論期日において明らかにすればよいところ、これをしていないのであるから、責問権も放棄されている。さらには、控訴人が原審口頭弁論終結後、原判決言渡し前に提出した令和7年10月2日付け原告最終準備書面においても、訴え取下げを求めたことあるいはこれを求めることについて何ら記載されておらず、処分権主義に反する旨の主張もされていない。また、控訴人は、口頭でなされた取下げの申出と被告の同意の有無を必要に応じて送達することを法が要求していると主張するところ、相手方(一審被告訴訟代理人)が期日に出頭していたのであるから送達の必要はない(民訴法261条4項かっこ書)。原審における弁論準備手続は、双方代理人出頭(ウェブ会議)のもと、いずれも杉浦裁判官(裁判長)を含む受命裁判官2名で争点整理がされ、第8回弁論準備手続期日において弁論準備手続が終結され、同日第1回口頭弁論期日が開かれ、弁論準備手続の結果陳述を経て口頭弁論が終結されており、原審の手続に何らの違法はない。したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
⑶ 控訴人は、前記第2の3⑶のとおり、甲7、65及び66は、いずれも被
控訴人が被控訴人各標章を用いて継続的に教授活動を行い、受講希望者を誘引する広告的使用をしていたことを直接証明するものであるから原判決は誤りであると主張する。しかしながら、甲65には、被控訴人が本件雑誌(「月刊 秘伝」)に長文の文章を寄せた中に、「30歳になり」、「A先生にも支部道場を開く許可を頂いた。週末の土曜日に空いている場所が見つかった。」、「『武神館Y道場』出発の時である。」「お弟子さんは知り合いの3人のみ」、「日曜日の稽古は毎週」及び「土日の休日は武神館」との記載があるのみであり、補正の上で引用した原判決第3の1⑴及び⑵のとおり、被控訴人各標章等は武道の流派ないし技術に関する説明や被控訴人の肩書の一部として使用されており、自他商品等識別機能及び出所識別ないし標識としての機能を発揮する態様で使用されていない。したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
⑷ 控訴人は、前記第2の3⑷及び⑸のとおり、甲7における連載記事中の流
派名の表示は教授コンテンツの標識として機能し「広告的誘引行為」や「混同惹起行為」に該当し、被控訴人各標章について屋号的使用であるとも主張する。しかし、補正の上で引用した原判決第3の1⑴及び⑵のとおり、被控訴人各標章等が自他商品等識別機能及び出所識別ないし標識としての機能を発揮する態様で使用されていないことは明らかであるから、控訴人の主張は失当である。したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
⑸ 控訴人は、前記第2の3⑹のとおり、本件の実体判断は承継権原の有無と
不可分に結びつくから、原審には承継の権原を審理・判断しなかったという審理不尽が認められると主張する。しかし、補正の上で引用した原判決第3の1⑴及び⑵のとおり、そもそも本體高木揚心流柔體術(高木流)及び義鑑流骨法術はいずれもいくつかの系統に分派していることがうかがわれ、被控訴人各標章の表示とそれに伴う記載も含め控訴人の指摘する流派に対する言及は、指導・教授の内容となる技術を説明する趣旨で行われているものと認められるから、こうした被控訴人各標章の表示の態様及びそれに伴う記載等の内容に従って、被控訴人各標章の商標的使用の有無を判断すれば足り、承継権原の有無についての判断を要しないものである。したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
⑹ 控訴人は、前記第2の3⑺のとおり、本件と「BABジャパン事件」とは
標章を使用した主体が異なるから、本件に「BABジャパン事件」の判断枠組みを流用したのは法規範適用の誤りである旨を主張する。しかし、上記BABジャパン事件判決は、本件雑誌の一部(「月刊 秘伝」の令和3年4月号から令和4年6月号まで)に連載された被控訴人の記事中の「本體高木揚心流柔體術」や「義鑑流骨法術」との記載について、裁判所が、「本件雑誌における・・・、『義鑑流骨法術』・・・、『本體高木揚心流柔體術』・・・との表示は、関係する各記載やその使用態様から、『月刊秘伝』という名称の本件雑誌の記事中の人物や写真を説明するものか、そこで広告されているDVDに関係する者を説明するものと認識するといえる」から、本件雑誌における「『義鑑流骨法術』・・・、『本體高木揚心流柔體術』・・・との表示は、関係する各記載やその使用態様によれば、本件雑誌その他の商品の出所を示すものとはいえないから、これらの表示は需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていないものといえる。」旨を判示したとする事案であるところ(原審における令和6年12月10日付け被告準備書面⑴4頁及び同じく令和7年5月19日付け準備書面⑷4頁)、そもそも原判決第3(当裁判所の判断)において、BABジャパン事件判決の判断枠組みを流用する旨に係る記載はされておらず、控訴人の主張は前提を欠くものである。そして、BABジャパン事件は、本件雑誌の発行元である株式会社ビー・エー・ビー・ジャパン(甲7、8)と控訴人との間の訴訟であって、本件とは当事者が異なるものの、本件雑誌の被控訴人に係る「本體高木揚心流柔體術」及び「義鑑流骨法術」との記載に関し判断したものであるから、原判決がBABジャパン事件判決と同趣旨の判決理由を記載したものとしても、何ら問題とすべきことはない。したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
⑺ 控訴人は、前記第2の3⑻及び⑼のとおり、原判決には商標法上の判断枠
組みの誤りや不競法の誤適用が認められる旨を主張する。しかし、補正の上で引用した原判決第3の1⑴及び⑵のとおり、被控訴人各標章等が自他商品等識別機能及び出所識別ないし標識としての機能を発揮する態様で使用されていないことは明らかであり、商標法2条3項8号に該当するものでも、不競法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するものでもない。したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
3 以上に認定判断したところは、当審における控訴人のその余の補充主張によ
っても、左右されるものではない。
4 よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却することと
して、主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第3部裁判長裁判官中 平 健裁判官今 井 弘 晃裁判官柵 木 澄 子
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