令和8年4月22日判決言渡
令和7年(行ケ)第10119号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和8年3月16日
判 決
原 告 株式会社イワイセンター
同訴訟代理人弁護士 大 住 洋
被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人 滝 口 裕 子
同 板 谷 玲 子
同 吉 田 聡 一
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2024-9670号事件について令和7年9月25日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがないか、又は当裁判所に顕著である。)原告は、令和5年3月30日、別紙「商標目録」記載の商標(以下「本願商標」という。)について、同別紙記載の商品を指定商品として商標登録出願をしたが(商願2023-33926号)、令和6年3月4日付で拒絶査定を受けたため、同年6月10日、拒絶査定不服審判を請求した。特許庁は、これを不服2024-9670号事件として審理し、令和7年9月25日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審
5 決」という。)をし、その謄本は、同年10月31日、原告に送達された。原告は、同年11月27日、本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。2 本件審決の理由の要旨本件審決は、以下のとおり、本願商標は、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標であるから商標法4条1項15号(以下「15号」という。)に該当するとして、商標登録を受けることができないと判断した。すなわち、「リニア中央新幹線」の文字(以下「引用商標」という。)は、東海旅客鉄道株式会社(以下「JR東海」という。)が全国新幹線鉄道整備法に基づいて計画する新幹線鉄道(以下「本件鉄道」という。)であり、JR東海の構想に係るプロジェクトの名称として、我が国の取引者、需要者の間において相当程度広く認識され、その周知性の程度は極めて高い。本願商標と引用商標は、全体の外観において差異を有するとしても、両者の構成において共通する「リニア」の文字は、我が国の取引者、需要者の間において広く認識されている引用商標の略称として使用されているものであり、「LINEAR」及び「リニア」の文字部分の有する意味と「リニア」の称呼が共通し、かつ、「EXPRESS」「エクスプレス」及び「新幹線」の文字部分の意味合いも近似するものであるから、これら要素が取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すると、両者は、類似性の程度が高いというべきである。そして、原告が、本願商標をその指定商品について使用するときは、これに接する取引者、需要者が、極めて高い周知性を有する引用商標を想起、連想し、その商品が、あたかもJR東海又は同社と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれがある。
第3 取消事由(15号該当性に関する判断の誤り)及びこれに関する当事者の主
5 張
【
(原告の主張)
】本件審決は、「リニア」の語について、新聞報道等において「リニア中央新幹線」の略称として用いられている例があるとして、本願商標及び引用商標のうち「リニア」の文字部分を分離観察し、当該文字部分を対比しているが、このような判断手法は判例(最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決・集民228号561頁ほか)に照らして誤っていることは明らかである。そもそも、「リニア」「LINEAR」は「直線の、線状の」等を意味する形容詞であり、多種多様な言葉と接続して複合語(「リニアモーター」、「リニア編集」、「リニアハイフ」、「リニア思考」等)として用いられるから(甲3、22の1~8)、これが「リニア中央新幹線」の略称として周知であるとは到底認められない。また、「エクスプレス」「EXPRESS」(急行列車)は、新幹線ではなく、主として在来線の急行列車の意味で広く使用されている一般名称であり、需要者が「エクスプレス」「EXPRESS」と「新幹線」を混同する可能性はない。さらに、本願商標の指定商品である被服類と鉄道輸送とでは商品及び役務の内容が大きく異なっており、アパレルの市場において被服それ自体に関心を持って購入しようとする需要者と、鉄道輸送に関心を持って、それに付随してECサイトや土産物店で販売されているティーシャツ等を購入するだけの需要者とでは、興味、関心の対象、着眼点等は大きく異なる。そうすると、本願商標の指定商品と、引用商標を主として使用する鉄道輸送の役務とでは、商品・役務の関連性は極めて薄い。これらの事実からすれば、本願商標をその指定商品に使用したときに、JR東海の引用商標に係る役務と混同を生ずるおそれがあるとはいえないから、本件審決には、この点を誤って判断した違法がある。
5 【
(被告の主張)
】JR東海による引用商標に係る事業は、「リニア中央新幹線」のほか、「リニアエクスプレス」、「中央リニアエクスプレス」、「リニア」等の別称や略称で、平成元年以降、書籍、辞典に掲載されるとともに、新聞記事及び自治体のウェブサイト等のメディアを通じて、広範、継続的、かつ、反復して報道されているから、これらの別称・略称も広く定着し、周知性の程度も高い。これらの事実を勘案すれば、本願商標と引用商標の類似性の程度は高く、本願商標をその指定商品に使用したときに、JR東海の引用商標に係る役務と混同を生ずるおそれがあるといえるから、本件審決の判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに、当該指定商品等が他人の業務に係る商品等であると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該指定商品等が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれがある商標を含むものと解するのが相当である。そして、上記の「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきものである(最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁)。
2 これを本件についてみると、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおり解することができる。
5 (1) 引用商標の周知性引用商標が、JR東海が開業を計画する本件鉄道の名称として、我が国の取引者、需要者の間で周知であることは、当事者間に争いがない。また、証拠(乙2~27)によれば、本件鉄道は、昭和48年に全国新幹線鉄道整備法に基づく基本計画に位置付けられて以降、長期にわたり国家的プロジェクトとして事業計画及び工事が進められ、本願商標の出願時(令和5年3月30日)及び本件審決時(令和7年9月25日)に至るまで繰り返し、新聞やウェブサイトを通じて報道がされたと認められることからすれば、引用商標の周知性の程度は極めて高いといえる。(2) 本願商標と引用商標の類似性の程度外観については、本願商標は、「LINEAREXPRESS」の欧文字及び「リニアエクスプレス」の片仮名を上限二段で表示してなり、引用商標は、「リニア中央新幹線」の片仮名及び漢字からなる。両商標は、文字種、及び上下二段で表示されているか一段で表示されているかの点で異なるものの、「リニア」との片仮名部分は共通している。次に、称呼については、本願商標からは「リニアエクスプレス」との称呼を生じ、引用商標からは「リニアチュウオウシンカンセン」との称呼を生じるところ、「リニア」との部分については称呼を共通にするといえる。最後に、観念について、「エクスプレス」とは「急行列車」を意味する語であるから(甲2)、本願商標からは「リニアという名称の急行列車」との観念を生じる。一方、引用商標の「新幹線」は、急行列車のうち、JRが運行する全国の主要都市間を結ぶものを意味するから、引用商標からは「リニアという名称のJRが運航する急行列車」との観念を生じ、両者の観念は近似する。これに加え、本件鉄道は、平成元年頃より、「リニア・エクスプレス」、「リニアエクスプレス」、「Linear express」、「中央リニアエ
5 クスプレス」等の別称で、書籍やウェブサイトで表示され、これらの別称が定着していると認められること(乙4~27)からすると、本願商標に接した取引者、需要者は、「リニアエクスプレス」「LINEAREXPRESS」いずれの表示からも、本件鉄道、すなわち「リニア中央新幹線」を観念するということができる。これらを総合すると、本願商標と引用商標の外観及び称呼は「リニア」との部分で共通する上、観念は同一であるから、類似性の程度は高いといえる。(3) 取引者、需要者の共通性その他取引の実情など本願商標は、別紙のとおり、被服類各種を指定商品とするのに対し、引用商標は鉄道輸送に係る役務について使用されており、本願商標の指定商品と引用商標の役務との間に関連性は乏しい。一方、①被服類の消費者も鉄道輸送の利用者も一般的な消費者である点で共通すること、②JR東海を含む鉄道会社が被服(Tシャツ、下着、靴下、手袋、ネクタイ、帽子、履物)を含む鉄道関連グッズを販売しており、その中には鉄道名が表示されたものも存在すること(乙34、35、37、38、40~48)、③JR東海の連結子会社の中には、百貨店業、卸売業、小売業を営む企業が複数存在すること(乙39)に照らせば、本願商標の出願時及び本件審決時において、被服等を購入する消費者が、当該商品の出所として鉄道輸送を営む会社あるいはその関連企業が含まれ得ると認識する取引の実情が存在したと認められる。(4) 小括以上で検討したところによれば、本願商標は、原告がこれをその指定商品について使用した場合、取引者、需要者をして、JR東海の引用商標(本件鉄道)に係る業務を連想又は想起させ、その商品がJR東海あるいは同社と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるか
5 のように誤認する可能性は相当に高い。したがって、本願商標が15号の「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に当たるとした本件審決の判断に誤りはない。
3 これに対し、原告は、①本件審決は、判例(最高裁平成20年9月8日判決第二小法廷判決・集民228号561頁ほか)が示した、結合商標の分離観察が許される場合に当たらないにもかかわらず、本願商標及び引用商標のうち「リニア」の文字部分を分離して類否を判断した、②「エクスプレス」「EXPRESS」(急行列車)は在来線の急行列車を意味し、需要者がこれに新幹線が含まれると認識することはない、③アパレル市場で被服それ自体に関心を持って購入する需要者と、鉄道輸送に関心を持って鉄道に関するティーシャツ等を購入する需要者とでは、興味、関心の対象、着眼点等は大きく異なるから、両商標の需要者は共通ではない旨主張するが、以下に述べるとおり、いずれも理由がない。上記①について、原告引用の判例は、商標法4条1項11号所定の商標の類似性に関するものであり、本件に適切でない。上記②について、上記2(2)で認定したとおり、「リニア中央新幹線」の別称として「リニアエクスプレス」、「中央リニアエクスプレス」等が定着していることからも、需要者が、「エクスプレス」「EXPRESS」は在来線の急行列車を指し、新幹線を含まないものと認識するとは認められない。上記③について、本願商標の指定商品である被服類の消費者は、被服に強い関心を有する者から、そうでない者まで様々であるから、引用商標の需要者と異なるとはいえない。
4 結論以上のとおり、本件審決についての原告の取消事由に関する主張は採用できず、そのほかに本件において本件審決を取り消すべき事由は認められない。よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のと
5 おり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
長 谷 川 浩 二
裁判官
岩 井 直 幸
裁判官
安 岡 美 香 子
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