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原告
株式会社Qvou
同訴訟代理人弁護士
水沼淳
同訴訟代理人弁理士
柴田富士子
被告
特許庁長官 河西康之
同指定代理人
大島康浩
同
吉田聡一
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
(注)本判決の本文中で用いる略語の定義は、別に定めるほか、次のとおりである。
本願商標:原告の登録出願に係る別紙「商標目録」記載の商標(甲1)
引用商標:別紙「引用商標目録」記載の登録商標(乙2)
第1 請求
特許庁が不服2024-18100号事件について令和7年10月1日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は、商標登録出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決(以下「本件審決」という。)の取消訴訟であり、争点は、本願商標の商標法4条1項11号該当性である。
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 原告は、令和5年8月30日、別紙「商標目録」記載の商標の構成から成り、指定商品及び指定役務を、商標法施行規則別表(以下、単に「別表」という。)第3類、第35類及び第44類の区分に属する願書記載のとおりの商品及び役務とする商標について、商標登録出願(商願2023-96481)をした。
⑵ 原告は、令和6年4月16日、上記⑴の出願について、手続補正書を提出して、指定商品及び指定役務を補正するとともに、同日、商標法10条1項の規定に基づく新たな商標登録出願として、指定商品及び指定役務を、別表第3類及び第35類の区分に属する願書記載のとおりの商品及び役務並びに第44類の区分に属する「心身の健康のための温泉療法用施設の提供、マッサージが組み込まれた心身の健康のための温泉療法用施設の提供、顔及び体の手入れ、美容のための体の手入れ」とする出願(商願2024-40406。以下「本願」という。)をし、同年6月5日、手続補正書を提出して、本願商標の指定商品及び指定役務を、別表第44類の区分に属する「心身の健康のための温泉療法用施設の提供、マッサージが組み込まれた心身の健康のための温泉療法用施設の提供、顔及び体の手入れ、美容のための体の手入れ」に補正した。
⑶ 原告は、本願について、令和6年8月9日付けで拒絶査定を受けたことから、同年11月12日、拒絶査定不服審判の請求をし、特許庁は、これを不服2024-18100号事件として審理した。
⑷ 原告は、令和6年11月13日、手続補正書を提出して、本願商標の指定役務を補正した。また、原告は、令和7年6月27日、手続補正書を提出して、本願商標の指定役務を補正したが、特許庁は、同年7月30日付けで、当該補正は、本件分割出願の要旨を変更するものとして、これを却下する決定をした。
⑸ 原告は、令和7年8月6日、手続補正書を提出して、本願商標の指定役務を、別表第44類の区分に属する「マッサージが組み込まれた顔及び体の手入れ、マッサージが組み込まれた美容のための体の手入れ」に補正したが、特許庁は、同年10月1日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との本件審決をし、その謄本は、同月15日、原告に送達された。
⑹ 原告は、令和7年11月14日、当庁に対し、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 引用商標
引用商標(商標登録第5728340号商標。平成26年1月10日登録出願、同年12月19日設定登録)は、別紙「引用商標目録」記載の構成から成り、指定役務を、別表第44類の区分に属する「美容、理容」とする商標である。
3 本件審決の理由の要旨
⑴ア 本願商標は、黒塗りの横長長方形内の中央に、円弧と複数の曲線を組み合わせた図形を白抜きで表し、その下に「SORA」の文字を白抜きで横書きして成るところ、図形部分と文字部分とは、上下に重なり合うことなく独立して表されていることから、視覚上分離して看取し得る。そして、図形部分から特定の称呼及び観念は生じず、図形部分と文字部分とに観念上の結び付きを見い出すこともできないから、これらが常に一体不可分のものとしてのみ看取されると判断すべき特段の事情はない。そうすると、本願商標は、その構成中、「SORA」の文字部分を分離抽出し、これを要部として引用商標と比較することが許されるところ、「SORA」の文字部分からは、構成文字に相応して「ソラ」の称呼が生ずるものの、特定の観念は生じない。
イ 引用商標は、左側に幾何学図形を配し、その右側に「SORA」の文字を横書きして成るところ、図形部分と文字部分とは、互いに重なり合うことなく独立して表されていることから、視覚上分離して看取し得る。そして、図形部分から特定の称呼及び観念は生じず、図形部分と文字部分とに観念上の結び付きを見い出すこともできないから、これらが常に一体不可分のものとしてのみ看取されると判断すべき特段の事情はない。そうすると、引用商標は、その構成中、「SORA」の文字部分を分離抽出し、これを要部として本願商標と比較することが許されるところ、「SORA」の文字部分からは、構成文字に相応して「ソラ」の称呼が生ずるものの、特定の観念は生じない。
ウ 両商標は、外観において全体の構成が相違するものの、その要部である文字部分は全てのつづりを共通にし、外観上近似した印象を与える。また、両商標は、その要部である「SORA」の文字から「ソラ」の称呼が生ずることから、称呼を共通にする。そして、両商標は、その要部である「SORA」の文字から特定の観念が生じず、観念上比較することはできない。
そうすると、本願商標と引用商標は、外観、称呼及び観念によって、取引者や需要者に与える印象、記憶、連想等を総合し全体的に考察すると、相紛れるおそれのある類似の商標というのが相当である。
⑵ 「商品及び役務の区分解説〔国際分類第11-2022版対応〕」(特許庁商標課編)によれば、「マッサージが組み込まれた美容のための体の手入れ」は、容姿を美しくすることを目的として体の手入れを行う役務であり、「美容」は、容姿を美しくする役務であるから、本願商標の指定役務(以下「本願指定役務」という。)である「マッサージが組み込まれた顔及び体の手入れ、マッサージが組み込まれた美容のための体の手入れ」と、引用商標の指定役務(以下「引用指定役務」という。)である「美容、理容」は、容姿を美しくするという目的を共通にする。加えて、両役務は、一般的に同一の事業者によって提供される場合が多く、その需要者も一致することに照らすと、互いに類似の役務であるといえる。
⑶ 以上のとおり、本願商標は、引用商標と類似する商標であり、本願指定役務も引用指摘役務と類似するものであるから、商標法4条1項11号に該当する。
4 原告主張の審決取消事由
本願商標の商標法4条1項11号該当性(商標及び役務の類否)に係る判断の誤り
第3 当事者の主張
(原告の主張)
1⑴ 本願商標は、黒塗りの横長長方形内に、円弧と複数の曲線を組み合わせた図形を白抜きで表し、その下に「SORA」の文字を白抜きで横書きして成る結合商標であり、墨塗りの横長長方形内に、いずれも白抜きで表して成る図形部分と文字部分とが配置されていることから、両部分がそれぞれ独立して使用されることはない。
そして、本願商標の構成中の図形部分は、「太陽(夕陽)が水面に沈む様子を模式的に表した図形」又は「太陽(朝陽)が水面から現れる様子を模式的に表した図形」であるから、同部分からは「日の入り」、「日の出」、「静けさ」といった観念が生ずる。また、原告のウェブサイトに、その提供する役務について「都会の喧騒から離れ、静かに自分自身と向き合える完全個室空間。手のぬくもりと心地よい癒しで、心と体が解きほぐされるひとときを味わっていただけます。まるで空に舞うような軽やかさと深いリラクゼーションを、SORAでご体感ください。」との記載があることから、本願商標の構成中、「SORA」の文字部分からは「空」との観念が生ずる。
⑵ 引用商標は、白地の上の左側に、一部切り欠きのある太さの異なる縦縞模様が付された矩形を、また、その右側に、「SORA」の黒色ゴシック体の文字を文字列の上面と上記矩形の上辺とが一致するように配した構成であり、これには枠も色彩も付されていない。
そして、引用商標は「髪をカットしたところを抽象的に表現したヘアサロンのシンボルマーク」であるところ、太さの異なる縦縞模様を付すことにより、髪の流れを表し、また、切り欠きの一辺を斜めにすることにより、髪の一部がハサミでカットされたことを表しているのであるから、その構成中の図形部分からは「髪をカットするところ」との観念が生ずる。
また、引用商標の商標権者のウェブサイトに、「SORA」について、「S SOFT &SILKY HAIR・SMOOTH HAIR・SCALP 髪、肌へのこだわり」、「O ORGANIC 素材へのこだわり」、「R RELAXATION 香りへのこだわり」、「A EARTH ECOLOGY・AGING CARE 肌、環境へのこだわり」との記載があることから、引用商標の構成中、「SORA」の文字部分が単なる漢字の「空」をローマ字で表記したものでないことは明らかであって、上記文字部分から「空」との観念は生じない。
⑶ そうすると、本願商標については、その全体を観察して引用商標との類否を判断すべきであり、その構成中の文字部分のみを抽出し、この部分のみを引用商標と比較して商標そのものの類否を判断することは許されない。
そして、本願商標と引用商標とは、いずれも「SORA」の文字部分を含むものの、その構成態様は明確に相違することから、通常の注意力を有する需要者であれば、出所の混同を生ずることはない。
2⑴ 本願指定役務は、「美容」、すなわち「容姿を美しくする」という目的を達成するために、体の手入れを行う役務である。そして、役務としての「美容」は、「美容師」という国家資格の保有者のみが提供し得るものであるから、本願指定役務である「マッサージが組み込まれた美容のための体の手入れ」は、引用指定役務である「美容」、すなわち美容師法2条1項の定める「パーマネントウエーブ、結髪、化粧」といった頭部を対象として国家資格の保有者の提供する役務(同法6条)と明確に相違する。
⑵ 「マッサージが組み込まれた美容のための体の手入れ」という役務は「美容所」では提供されず、本願指定役務及び引用指定役務が、一般的に同一の営業主によって提供されている取引の実情はない。また、本願指定役務の需要者は大多数が女性であるところ、女性が整髪する場合、理容室ではなく美容室に赴くのが一般的であること、理容室で本願指定役務の提供を受けることはまずないことからすると、本願指定役務の需要者と引用指定役務のそれとが一致するとはいえない。さらに、スパサービスや美容サービスの需要者は、事前に役務の提供を受ける場所を検索し、役務の内容を確認した上、当該場所に赴くのが一般的であり、通常の注意力を有する需要者であれば、同一の称呼を生ずる商標が使用されていても、出所の混同を生ずることはない。
3 以上のとおり、本願商標の商標法4条1項11号該当性に係る本件審決の判断には誤りがある。
(被告の主張)
1⑴ 本願商標は、黒色の横長長方形を背景とし、その中央に白色で円弧と複数の曲線を組み合わせた図形を表し、その下に白色で「SORA」の文字を横書きして成るところ、図形部分と文字部分とは、上下に重なり合うことなく間隔を空けて表されている。また、背景部分について、商標の背景を単色で装飾することは一般に用いられるもので、視覚上、需要者に特段の印象を与えるようなものではない。
そうすると、本願商標は、図形部分と文字部分とから構成される結合商標と見るのが相当であり、各構成部分は、視覚上、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものではない。
本願商標の各構成部分について検討すると、その構成中の図形部分からは、出所識別標識としての称呼、観念が生ずるとはいえない。他方、その構成中、「SORA」の文字部分は、辞書等に掲載のない語であり、一種の造語として認識されることから、特定の観念は生じないものの、その構成文字に相応して「ソラ」の称呼が生ずる。
そして、本願商標は、その構成中、「SORA」の文字部分が、取引者や需要者に対し、他の部分とは分離、独立した役務の出所識別標識として、強く支配的な印象を与えるから、当該文字部分を要部として抽出し、これと引用商標とを比較して商標の類否を判断することができる。
⑵ 引用商標は、左側に、黒色と淡灰色の細い縦線を交互に、かつ、等間隔に配した右下側の欠けた矩形状の図形を配置し、その右側に、黒色で「SORA」の文字を横書きして成るところ、図形部分と文字部分とは、色彩の濃淡も異なり、間隔を空けて互いに重なり合うことなく表されていることから、視覚上、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものではない。
引用商標の各構成部分について検討すると、その構成中の図形部分からは、出所識別標識としての称呼、観念が生ずるとはいえないのに対し、その構成中、「SORA」の文字部分は、辞書等に掲載のない語であり、一種の造語として認識されることから、特定の観念は生じないものの、その構成文字に相応して「ソラ」の称呼が生ずる。
そして、引用商標は、その構成中、「SORA」の文字部分が、取引者や需要者に対し、役務の出所識別標識として、強く支配的な印象を与えるから、当該文字部分を要部として抽出し、これと本願商標とを比較して商標の類否を判断することができる。
⑶ 本願商標と引用商標とを比較すると、両商標は、外観において、その要部である「SORA」の文字を共通にし、一般に用いられる特徴のない書体で表されたものであり、図形部分の差異にかかわらず相紛らわしいといえ、また、称呼においても、これを共通にし相紛らわしい。そして、観念においては、いずれも特定の観念が生じないから比較できない。
そうすると、本願商標と引用商標は、外観、称呼によって取引者や需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、これらを同一又は類似の役務について使用するときは、その役務の出所について誤認混同が生ずるおそれのある類似する商標といえる。
2⑴ 本願指定役務は、別表第44類の区分に属する「マッサージが組み込まれた顔及び体の手入れ、マッサージが組み込まれた美容のための体の手入れ」であるところ、「マッサージが組み込まれた美容のための体の手入れ」は、「美容」を目的としたサービスであり、「美容」の語は「容貌、容姿、髪型を美しくすること」ほどの、「手入れ」の語は「手を入れてよい状態にすること。また、よい状態のままでいるように、世話をしてととのえること」ほどの意味を有する。また、「マッサージが組み込まれた顔及び体の手入れ」は、その字義から見ても、「マッサージが組み込まれた美容のための体の手入れ」との関係においても、美容を目的として提供される役務を含むものといえる。
⑵ 引用指定役務は、別表第44類の区分に属する「美容、理容」であるところ、「美容」の語は「容貌、容姿、髪型を美しくすること」ほどの、「理容」の語は、「理髪と美容」ほどの意味を有する。そして、「千九百六十七年七月十四日にストックホルムで及び千九百七十七年五月十三日にジュネーヴで改正され並びに千九百七十九年十月二日に修正された標章の登録のための商品及びサービスの国際分類に関する千九百五十七年六月十五日のニース協定」1条に規定する国際分類(以下、単に「国際分類」という。)を構成する類別表注釈においても、「第44類には、…人又は事業所が人…に提供する、…美容ケア…に関連するサービスを含む」との説明がされ、「美容」の意味を限定して解釈していない。
そうすると、引用指定役務は、広く美容を目的とする施術を提供するサービスといえるところ、引用指定役務を提供するエステティックサロン、美容室、理容室、ネイルサロン等の同一の営業主により、本願指定役務が提供されている実情がある。
⑶ 本願指定役務と引用指定役務の意義、取引の実情等を踏まえると、本願指定役務は、美容(容貌、容姿、髪型を美しくすること)のために顔及び体の手入れを行うサービスを含むものであり、かかるサービスは、広く美容を目的とする施術を提供するサービスである引用指定役務に含まれる。そして、本願指定役務と引用指定役務は、いずれも客の容貌、容姿等を美しくするという役務の提供の手段、目的、需要者(一般の幅広い層の男女)を共通にし、エステティックサロン、美容室、理容室、ネイルサロン等の同一の営業主により提供されている実情があるから、これらの役務に同一又は類似の商標を使用するときは、同一の営業主の提供に係る役務と誤認されるおそれがあり、同一又は類似の役務に該当する。
3 以上のとおり、本願商標は、引用商標と類似する商標であり、引用指定役務と同一又は類似する役務について使用するものであるから、商標法4条1項11号に該当する。本件審決の商標法4条1項11号該当性に係る判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 本願商標と引用商標の類否
⑴ 商標法4条1項11号に係る商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品又は役務に使用された商標が、その外観、称呼、観念等によって取引者や需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、しかも、その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
また、商標は、その構成部分全体によって他人の商標と識別されるものであるから、複数の構成部分を組み合わせた結合商標について、その構成部分の一部を抽出し、この部分のみを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは原則として許されないというべきであるが、実際の取引において、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標については、常に必ずしも構成部分全体によって称呼、観念されるわけではなく、その一部のみによって称呼、観念されることがあることを踏まえると、商標の構成部分の一部が取引者や需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えると認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、その構成部分の一部を要部として抽出し、その部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されると解するのが相当である(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
⑵ア 本願商標は、別紙「商標目録」記載のとおり、黒色の横長長方形を背景とし、その中央部に、いずれも白色の円弧、複数の曲線を組み合わせた図形と、白色で横書きした「SORA」の欧文字を上下に配して成る結合商標であるところ、本願商標の構成中の図形部分と文字部分とが間隔を空けて互いに重なり合うことなく配されていることからすると、これらは、外観上、分離して認識、観察されるものといえる。
そして、本願商標の構成中、「SORA」の文字部分からは、その構成文字に相応して「ソラ」との称呼が生ずる。また、「SORA」は辞書等に掲載のない語であり、一種の造語として認識されることから、特定の観念は生じないものの、これは漢字の「空」をローマ字で表記したとも認識され得るもので、その場合には、称呼に相応して「空」との観念が生ずると認められる。他方、本願商標の構成中の図形部分から特定の称呼や観念が生ずるとは認められない。
そうすると、本願商標の構成中、「SORA」の文字部分については、その称呼、観念等に加え、構成態様からも、需要者である一般の利用者に対し役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる一方、その構成中の図形部分については、背景部分を含め役務の出所識別標識としての称呼、観念は生じないというべきである。
イ 引用商標は、別紙「引用商標目録」記載のとおり、左側に、黒色と淡灰色の縦線模様を施し、その右下側部分を斜めに切り欠いた矩形状の図形を配し、右側に、黒色で横書きした「SORA」の欧文字を配して成る結合商標であるところ、引用商標の構成中の図形部分と文字部分とが間隔を空けて互いに重なり合うことなく配されていることからすると、これらは、外観上、分離して認識、観察されるものといえる。
そして、引用商標の構成中、「SORA」の文字部分からは、その構成文字に相応して「ソラ」との称呼が生ずる。また、「SORA」は辞書等に掲載のない語であり、一種の造語として認識されることから、特定の観念は生じないものの、これは漢字の「空」をローマ字で表記したとも認識され得るもので、その場合には、称呼に相応して「空」との観念が生ずると認められる。他方、引用商標の構成中の図形部分から特定の称呼や観念が生ずると認めることはできない。
そうすると、引用商標の構成中、「SORA」の文字部分については、その称呼、観念等に加え、構成態様からも、需要者である一般の利用者に対し役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる一方、その構成中の図形部分については、役務の出所識別標識としての称呼、観念は生じないというべきである。
ウ 上記ア及びイを踏まえると、本願商標及び引用商標は、実際の取引において、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可欠に結合しているものとは認められず、各構成中、「SORA」の文字部分をそれぞれ要部と抽出し、その部分のみを比較して、商標の類否を判断することが許されるというべきである。
原告は、本願商標の構成中の図形部分と文字部分が、墨塗りの横長長方形内に白抜きで表され、両部分がそれぞれ独立して使用されることがないことや、本願商標の構成中の図形部分からは「日の入り」、「日の出」、「静けさ」との、他方、引用商標の構成中の図形部分からは「髪をカットするところ」との観念がそれぞれ生ずることからすると、本願商標の構成中、「SORA」の文字部分のみを抽出し、この部分のみを引用商標と比較して商標そのものの類否を判断することは許されない旨の主張をする。
しかしながら、両商標の各構成中の図形部分と文字部分は、いずれも外観上分離して認識、観察されるものであることは前記ア及びイのとおりであり、このことは、本願商標が黒色の横長長方形を背景とし、その中央部に、いずれも白色の図形部分と文字部分を配していることによって左右されない。
また、商標の類否の判断に当たり考慮することのできる取引の実情とは、その指定商品又は指定役務の全般についての一般的、恒常的なそれを指し、単に当該商標が現在使用されている商品又は役務についてのみの特殊的、限定的なそれを指すものではないから(最高裁昭和49年4月25日第一小法廷判決参照)、ウェブサイト等に各図形の由来、表現内容等に係る記載があることによって、前記の判断は左右されない。
エ そこで、本願商標と引用商標を対比すると、本願商標の要部である「SORA」の文字部分と、引用商標の要部である「SORA」の文字部分は、外観において、文字の色や書体が相違するとはいえ、いずれも欧文字を横書きにして成るもので近似し、称呼において同一であり、観念においても比較し得ないか又は同一であって、その外観、称呼、観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すると、両商標は、これが同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるといえ、したがって、本願商標と引用商標は互いに類似するものと認めるのが相当である。
原告は、本願商標の構成中、「SORA」の文字部分から「空」との観念が生ずるのに対し、商標権者のウェブサイトの記載によれば、引用商標の構成中、「SORA」の文字部分から「空」との観念は生じない旨の主張もするが、商標の類否の判断に当たり考慮することのできる取引の実情とは、その指定商品又は指定役務の全般についての一般的、恒常的なそれを指し、単に当該商標が現在使用されている商品又は役務についてのみの特殊的、限定的なそれを指すものでないことは、前記ウのとおりであり、採用できない。
2 本願指定役務と引用指定役務の類否
⑴ 商標登録出願は、商標の使用をする商品又は役務を商標法施行令で定める商品及び役務の区分に従って指定してしなければならないところ(商標法6条1項、2項)、商標法施行令は、同区分を国際分類に従って定めるとともに、各区分に、その属する商品又は役務の内容を理解するための目安となる名称を付し(同令2条、別表)、商標法施行規則は、各区分に属する商品又は役務を国際分類に即し、各区分内において更に細分類をして定めるのであるから(商標法施行令2条、商標法施行規則6条、別表)、別表において定められた商品又は役務の意義は、別表の区分に付された名称、別表において当該区分に属するものとされた商品又は役務の内容や性質、特許庁の定める類似商品・役務審査基準における類似群の同一性などのほか、国際分類を構成する類別表注釈において示された商品又は役務についての説明をも参酌して解釈するのが相当である(最高裁平成23年12月20日第三小法廷判決・民集65巻9号3568頁参照)。
また、指定役務が類似のものであるかどうかは、役務自体が取引上誤認混同のおそれがあるかどうかにより判定すべきものではなく、それらの役務が手段や目的において密接な関連を有するかどうか、同一の営業主により提供され、あるいは、同一の場所で提供されるのが通常であるかどうかなどの取引の実情により、当該役務に同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の提供に係る役務と誤認されるおそれがある場合には、たとえ、役務自体が互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても、類似の役務に当たると解するのが相当である(最高裁昭和36年6月27日第三小法廷判決・民集15巻6号1730頁、最高裁昭和39年6月16日第三小法廷判決・民集18巻5号774頁、最高裁昭和41年2月22日第三小法廷判決・民集20巻2号234頁、最高裁昭和43年11月15日第二小法廷判決・民集22巻12号2559頁参照)。
⑵ これを本件について見るに、本願指定役務は、別表第44類の区分に属する「マッサージが組み込まれた顔及び体の手入れ、マッサージが組み込まれた美容のための体の手入れ」であり、引用指定役務は、同じく別表第44類の区分に属する「美容、理容」である。
そして、① 別表第44類は、その名称を「医療、動物の治療、人又は動物に関する衛生及び美容並びに農業、園芸又は林業に係る役務」とするもので、商標法施行規則は、これを「美容 理容」に細分類していること、② 国際分類を構成する類別表注釈においては、上記の人又は動物に関する衛生及び美容に係る役務につき「第44類には、主として、人又は事業所が人…に提供する、…美容ケア…に関連するサービスを含む。」との説明がされていること(乙10)に加え、「美容」は「容貌、容姿、髪型を美しくすること」、「顔やからだつき、肌などを美しく整えること」、「顔かたちを美しくすること。また、化粧、結髪、パーマネントウエーブなどによって容姿を美しくすることをいう」ほどの意味を有する語(乙4~7)であり、「手入れ」は「手を入れてよい状態にすること。また、よい状態のままでいるように、世話をしてととのえること」ほどの意味を有する語(乙8)であることを併せ考慮すると、引用指定役務中の「美容」は、容貌、容姿、髪型を美しくするための「美容ケア」に関連する役務を広く含むものであり、いずれも人に提供する美容ケアに関連するサービスである本願指定役務は、これに含まれると解するのが相当である。
また、本願指定役務と引用指定役務とは、需要者が一般の利用者である点や、目的が美容である点において共通する上、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、① 「美容」に係る役務を提供するエステティックサロンにおいて、顔、首筋等へのマッサージが提供される一方(乙11~14)、美容室(ヘアサロン)においても、アロマトリートメント、フェイシャルエステ等のマッサージが組み込まれた顔や体の手入れが提供されていること(乙15~21)、② 厚生労働省のウェブサイト(乙23)には、「お客様の『容姿を美しくしたい』というニーズに対応するため、…メイク、ネイル、エステ等サービスの拡充を検討しましょう。」、「パーマ施術中を利用したネイルケア、ハンドケア、フットケア等のリラクゼーション・サービスメニューも検討しましょう。」との記載があり、収益力向上のため、美容室における、マッサージが組み込まれた顔や体の手入れの提供を検討するよう提案されていることが認められ、本願指定役務と引用指定役務は、必ずしも常に役務を提供する営業主や場所を異にするものではないから、当該役務に同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の提供に係る役務と誤認されるおそれがあるものといえ、類似の役務に当たるというべきである。そして、このことは、「美容の業務が適正に行われるように規律し、もつて公衆衛生の向上に資すること」を目的とする美容師法が、「美容」とは、パーマネントウエーブ、結髪、化粧等の方法により、容姿を美しくすることをいうと定義し(2条1項)、無免許営業や美容所以外の場所における営業を禁止していること(6条、7条)によって、左右されるものではない。
原告は、通常の注意力を有する需要者であれば、同一の称呼を生ずる商標が使用されても出所の混同を生ずることはない旨の主張もするが、本願指定役務に引用商標と同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の提供に係る役務と誤認されるおそれがあることは、前記のとおりであって、採用できない。
3 小括
以上のとおり、本願商標は、引用商標と類似する商標であり、引用指定役務と同一又は類似する役務について使用するものであるから、商標法4条1項11号に該当する。本件審決の商標法4条1項11号該当性に係る判断に誤りはない。
第5 結論
よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
(裁判長裁判官 森冨義明 裁判官 菊池絵理 裁判官 頼晋一)
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