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原告 

中国電力株式会社 


同訴訟代理人弁理士 

小椋崇吉 

同 

大竹正悟 


被告 

特許庁長官 


同指定代理人 

石塚文子 

同 

山田啓之 

同 

阿曾裕樹 

 

主文


 1 原告の請求を棄却する。

 2 訴訟費用は、原告の負担とする。 

 

事実及び理由


第1 請求

 1 特許庁が不服2024-12999号事件について令和7年9月24日にした審決を取り消す。

 2 訴訟費用は被告の負担とする。

第2 事案の概要

 1 特許庁における手続の経緯等

  ⑴ 原告は、令和5年9月8日、「リッキー」の文字を標準文字で表してなり、後記⑵の手続補正後の指定商品を第16類「メモ帳、シール、ペンシルケース、文房具類、定期刊行物、小冊子、印刷物」とする商標(以下、その出願を「本願」と、その商標を「本願商標」という。)について、商標登録出願をした(商願2023-100400号、甲13。なお、書証の枝番号は、特に記載しない限り省略する。以下、同様である。)。

  ⑵ 原告は、令和6年3月14日付けの拒絶理由通知書(甲14。以下「本件拒絶理由通知」という。)を受け、同年4月12日、意見書(甲15)を提出したが、同年5月28日付け拒絶査定(甲16)を受け、同年8月9日、拒絶査定不服審判請求をし(不服2024-12999号、甲17)、同日手続補正書(甲18)を提出して指定商品及び指定役務について補正をした。

  ⑶ 特許庁は、令和7年9月24日、「本件審判の請求は、成り立たない。」とする審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年10月7日に原告に送達された。

  ⑷ 原告は、令和7年11月4日、本件審決の取消しを求めて、本件訴えを提起した。

 2 本件審決の理由の要旨

 本件審決の理由は、要するに、本願商標は、拒絶査定において拒絶の理由に引用した商標である登録第6517882号商標(以下「引用商標」という。)と類似し、その指定商品と類似する商品について使用をするものであるから、商標法(以下「法」という。)4条1項11号に該当するというものである。

 3 引用商標の内容

  ⑴ 商標

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  ⑵ 商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務

 第16類「事務用又は家庭用ののり及び接着剤、封ろう、マーキング用孔開型板、装飾塗工用ブラシ、紙製包装用容器、プラスチック製包装用袋、家庭用食品包装フィルム、紙製ごみ収集用袋、プラスチック製ごみ収集用袋、型紙、裁縫用チャコ、紙製のぼり、紙製旗、衛生手ふき、紙製タオル、紙製テーブルナプキン、紙製手ふき、紙製ハンカチ、荷札、印刷したくじ(『おもちゃ』を除く。)、紙類、文房具類、印刷物、書画、写真、写真立て」

 第25類「和服、ガーター、靴下留め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、仮装用衣服、運動用特殊靴、運動用特殊衣服」

 第43類「保育所における乳幼児の保育、学童保育施設における学童保育、保育所の提供、保育に関する情報の提供、障害者入所施設及び高齢者入所施設の提供(介護を伴うものを除く。)、椅子・テーブル・テーブル用リネン・ガラス食器の貸与、食器の貸与、ベビーベッドの貸与、ベビーサークルの貸与、介護ベッドの貸与、おしぼりの貸与、タオルの貸与、おむつ・おむつカバーの貸与、布団の貸与、まくらの貸与、毛布の貸与、飲食物の提供、宿泊施設の提供」

 4 取消事由

 本願商標と引用商標との類否判断の誤り

第3 当事者の主張

 取消事由(本願商標と引用商標との類否判断の誤り)についての両当事者の主張は以下のとおりである。

 〔原告の主張〕

 1 一部抽出の可否

  ⑴ 本願商標と引用商標の類否を判断するに当たって、本件審決が、引用商標の構成中の一部を抽出した点は誤りである。本件審決は、引用商標につき、擬人化した動物と思われる図形(以下「図形部分」という場合がある。)と、その下部に「リッキー」の文字(以下「文字部分」という場合がある。)を横書きした構成からなるところ、その図形部分と文字部分は、図形と文字という構成要素を異にすることに加え、色彩も異にし、それぞれ重なり合うことなく、相当程度の間隔を空けて上下に独立して表されているものであることから、視覚上、明確に分離して看取し得るものであるとした。

 しかし、本件審決は、結合商標の分離観察に係る判例の基準のうち、「商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められない場合に係る基準」(以下「(Z)の基準」などといい、この基準を当てはめる際に冒頭に(Z)などと記載する場合がある。)のみを検討し、文字部分の一部抽出が許されるとして法4条1項11号該当性の認定判断をしている。

 このことは、本件審決が、文字部分につき、「文字部分を構成する『リッキー』の文字は、一般的な辞書等に載録された成語ではなく、特定の意味合いを想起させる語として知られているというような事情も見いだせないことから、特定の観念を生じることがない造語として認識されるというのが相当である。」と認定するのみで、「商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合に係る基準」(以下「(X)の基準」などといい、この基準を当てはめる際に冒頭に(X)などと記載する場合がある。)を検討していないことからも、明らかである。

 また、本件審決が、図形部分につき、「図形部分は、一般に親しまれた特定の事物を表したものとは認められず、特定の称呼や観念が生じるといった事情も見いだせない」と認定するのみで、上記商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合に係る基準((X)の基準)、及び、「商標の構成部分の一部以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合に係る基準」(以下「(Y)の基準」などといい、この基準を当てはめる際に冒頭に(Y)などと記載する場合がある。)についての基準を検討していないことからも、明らかである。

  ⑵ 結合商標の一部抽出の可否について判断した最高裁判決(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁(以下「〔リラ宝塚事件判決〕」という場合がある。)、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁(〔SEIKO EYE事件判決〕)、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・集民228号561頁(〔つつみのおひなっこや事件判決〕)では、独立して見る者の注意をひくように構成されているかという外観的要素は、通過作業として検討することが許されるだけで、分離観察に係る基準のうち、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められない場合に係る基準、すなわち(Z)の基準のみを検討して一部抽出が許されると判断することを禁じていると考えられる。

 このため、一部抽出の可否の判断基準そのものとして挙げた商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合に係る基準、すなわち(X)の基準、及び、商標の構成部分の一部以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合に係る基準、すなわち(Y)の基準を検討して、一部抽出が許されないのであれば、「商標はその構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから、みだりに、商標構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定するがごときことが許されない」ところである。

 本件審決は、前記のとおり、引用商標につき、(X)と(Y)の基準を検討せず、(Z)の基準のみを検討し、文字部分の一部抽出が許されるとして法4条1項11号該当性の認定判断をしている。しかし、一部抽出の可否に係る最高裁判決は、一部抽出の可否の判断基準そのものとして挙げた(X)と(Y)の基準を検討して一部抽出が許されないのであれば、「商標はその構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから、みだりに、商標構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定するがごときことが許されない」〔リラ宝塚事件判決〕と判示している。

  ⑶ そこで、引用商標につき、(X)と(Y)の基準を検討して、文字部分の一部抽出の可否を検討する。

   ア 構成

 引用商標は、上段に、右手に虫眼鏡を持って蝶ネクタイを締めた擬人化したリスのキャラクター図形と思しき図形部分を配し、下段に、「リッキー」という名のキャラクター名称と思しき文字部分を配した結合商標であって、外観上、図形部分と文字部分が、独立して見る者の注意をひくように構成されていることが明らかである。

   イ 図形部分

 擬人化したリスのキャラクター図形と思しき図形部分は、類を見ない図形であり、特徴的であるから、(X)図形部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合であることが明らかである。

 そして、「図形と文字の結合商標にあっては、文字部分のみをいたずらに重視して図形部分の持つ情報伝達力を軽んずることは、特段の理由のない限り許されず、当該商標における図形部分と文字部分の相互関係を慎重に検討しなければならないというべきである」(東京高裁平成6年(行ケ)第150号同7年3月29日判決〔ギベルティー事件判決〕)から、引用商標にあって、特徴的で、出所識別標識として強く支配的な印象を与える図形部分の持つ情報伝達力を軽んずることは、許されないことが明らかである(甲9、10)。

 このため、引用商標にあって、図形部分の一部抽出が許されるとも考えられる。

   ウ 文字部分

 「リッキー」の文字部分は、その構成文字より「リッキー」の称呼を生じ、また、一般的な辞書等に登載された語でなく、引用商標の指定商品役務の第16類「文房具類、印刷物」との関係で、商品の品質等を表示するものではなく、十分に識別力を有するところ、「造語から成るものにしても、その特徴的な部分から特定の観念を生じえないものとする理由はなく」(最高裁昭和41年(行ツ)第36号同43年12月13日判決・裁判集民事93号605頁〔リユーマゾロン事件判決〕)、一緒に配された特徴的なキャラクター図形と相俟って、「リッキー」という名のキャラクター名称の観念を生じるところである。

 このため、(Y)図形部分以外の「リッキー」の文字部分が出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合と言い難いことが明らかであるから、引用商標にあって、図形部分以外の「リッキー」の文字部分の一部捨象が許されないところである。

 他方で、「リッキー」の文字部分は、多くのキャラクター図形のキャラクター名称として採択され、一般的な名称となっていることは、帯広市「ばんえい競馬場」のマスコットキャラクター「リッキー」、手塚治虫「0マン」のアニメキャラクター「リッキー」等に示された取引実情から明らかである(甲8、21ないし24)。

 このため、十分に識別力を有するとしても、(X)「リッキー」の文字部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合と言い難いことが明らかであるから、引用商標にあって、「リッキー」の文字部分の一部抽出が許されないところである。

   エ 図形部分と文字部分

 一般に、キャラクター図形と思しき図形部分とキャラクター名称と思しき文字部分を一緒に配した構成態様の結合商標の場合、一緒に配されたキャラクター名称と思しき文字部分がキャラクター図形と思しき図形部分を説明すると無理なく理解できることが明らかである(甲1ないし12、26)。

 そして、引用商標の如く、また、他の事件の審決・異議決定や、関西サイクルスポーツセンターマスコット「リッキー」、今井工務店のマスコット「リッキー」等(甲1ないし12、26)に示された構成態様の結合商標のように、キャラクター図形とキャラクター名称を一緒に配した場合、キャラクター名称と思しき文字部分がキャラクター図形と思しき図形部分を説明すると無理なく理解できる関係上、その全体より、そのキャラクター名称の称呼を生じ、かつ、その名のキャラクター図形の観念を生じることは、キャラクター図形とキャラクター名称を一緒に配した構成態様の結合商標の取引実情から明らかである。

 このため、図形部分と文字部分が、外観上、独立して見る者の注意をひくように構成されている引用商標であっても、図形部分と文字部分とが、称呼上、観念上、一体として看取されるといった必然性を見いだせるところである。

 この点、本件審決は、引用商標につき、「図形部分と文字部分とは、観念上のつながりはなく、両者を常に一体のものとして把握しなければならない特段の事情も見いだせない」と認定しているが、むしろ、引用商標にあって、図形部分と文字部分とが、称呼上のみならず、観念上も、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められるため、「リッキー」の文字部分の一部抽出は許されないところである。

   オ 取引実情

 一般に、キャラクター図形と思しき図形部分とキャラクター名称と思しき文字部分を一緒に配した構成態様の結合商標といえども、広く一般に知られることにより「それ自体明確な意味をもち一般人に親しみ深いもの」となっている場合と、広く一般に知られておらず「それ自体明確な意味をもち一般人に親しみ深いもの」となっていない場合が想定されるところである。

 他方で、引用商標の如く、また、上記の構成態様の結合商標のように(甲1ないし12、26)、キャラクター図形と思しき図形部分が、広く一般に知られておらず「それ自体明確な意味をもち一般人に親しみ深いもの」となっていない取引実情がある場合、キャラクター図形のみで、キャラクター名称を理解できず、故に、キャラクター名称の称呼を生じることはなく、逆に、キャラクター名称の文字のみで、キャラクター図形を観念できず、故に、キャラクター図形の観念を生じることはないことから、図形部分(キャラクター図形)と文字部分(キャラクター名称)は、独立しておらず、相互に依存していることが明らかである。

 そうすると、本件審決が、引用商標につき、「図形部分は、一般に親しまれた特定の物事を表したものとは認められず、特定の称呼や観念が生じるといった事情も見いだせない」と認定するように、引用商標の如く、キャラクター図形と思しき図形部分が、広く一般に知られておらず「それ自体明確な意味をもち一般人に親しみ深いもの」となっていない取引実情がある場合、キャラクター図形と思しき図形部分がキャラクター名称と思しき文字部分に依存している関係上、その全体より、そのキャラクター名称の称呼を生じ、かつ、その名のキャラクター図形の観念を生じることは、広く一般に知られていないキャラクター図形とキャラクター名称を一緒に配した構成態様の結合商標の取引実情から明らかである。

 このため、図形部分と文字部分が、外観上、独立して見る者の注意をひくように構成されている引用商標であっても、図形部分と文字部分とが、称呼上、観念上、一体として看取されるといった必然性を見いだせるところである。

 この点、本件審決は、引用商標につき、「図形部分と文字部分とは、観念上のつながりはなく、両者を常に一体のものとして把握しなければならない特段の事情も見いだせない」と認定しているが、むしろ、引用商標にあって、図形部分と文字部分とが、称呼上のみならず、観念上も、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められるため、「リッキー」の文字部分の一部抽出は許されないところである。

   カ 小括

 したがって、引用商標にあって、「リッキー」の文字部分の一部抽出が許されないところである。

  ⑷ 本件審決の他の認定の検討

 本件審決は、引用商標につき、「商標の類否判断に当たり考慮することのできる取引の実情とは、その指定商品又は指定役務全般についての一般的、恒常的なそれを指すのであって、単に該商標が現在使用されている商品又は役務についてのみの特殊的、限定的なそれを指すものではない(最高裁昭和47年(行ツ)第33号同49年4月25日第一小法廷判決)。そして、図形部分が特定のキャラクターを表したものと認識されるといった一般的、恒常的な取引の実情は見いだせず、また、『リッキー』の文字が図形部分のキャラクターの名称を表すものと認識されているといった一般的、恒常的な取引の実情も見いだせない。」と認定する。

 確かに、引用商標は、広く一般に知られておらず、「それ自体明確な意味をもち一般人に親しみ深いもの」となっていない取引実情がある場合であるから、本件審決の認定のとおり、「図形部分が特定のキャラクターを表したものと認識される」取引実情がある場合ではないので、キャラクター図形のみで、キャラクター名称を理解できないことが明らかであり、逆に、本件審決の認定のとおり、「『リッキー』の文字が図形部分のキャラクターの名称を表すものと認識されているといった一般的、恒常的な取引の実情も見いだせない」ので、キャラクター名称の文字のみで、キャラクター図形を観念できないことが明らかである。このため、かかる本件審決の認定は、むしろ原告の主張が正しいことを裏付けるものである。

 また、本件審決は、引用商標につき、「仮に、引用商標の文字部分が図形部分の名称を表したものと理解される場合があるとしても、前記の一般的、恒常的な取引の実情からすれば、両者の結び付きは希薄なものであって、なお文字部分を要部として抽出することができるというべきである。」と認定する。

 しかし、キャラクター図形とキャラクター名称を一緒に配した構成態様の結合商標であって、広く一般に知られておらず、「それ自体明確な意味をもち一般人に親しみ深いもの」となっていないとき、むしろ、図形部分と文字部分の説明関係と依存関係により、図形部分と文字部分とが、強固に結合していることが明らかである。

 このため、図形部分と文字部分が、外観上、独立して見る者の注意をひくように構成されている引用商標であっても、図形部分と文字部分とが、称呼上、観念上、一体として看取されるといった必然性を見いだせるところである。

 さらに、本件審決は、引用商標につき、「たとえ、『リッキー』の文字が、キャラクターの名称として採択されることが多いとしても、そのことは、本願の指定商品と同一又は類似する引用商標の指定商品である『文房具類、印刷物』全般についての一般的、恒常的な取引の実情とはいえない。」と認定する。

 しかし、一般世人と「文房具類、印刷物」の需要者、取引者で、異なる者を想定しなければならない取引実情は見受けられないことが明らかである。

 とりわけ、「文房具類、印刷物」の取引において、需要者、取引者は、店頭販売、通信販売及びインターネットを介した販売において、商品の外観を見て購入するのが通常であり、その際に、商品、値札、カタログ、商品情報等に付された商標の外観や製造販売元を見て商品の出所について相応の注意を払って購入することが多いと考えられ、需要者、取引者が、引用商標のキャラクター図形と思しき図形部分を無視して、キャラクター名称と思しき「リッキー」の文字部分のみをもって商品の出所を識別して商品を購入するといい難いことが明らかである(甲1、5、6、7の2、甲9、21ないし24)。

 このため、引用商標にあって、「リッキー」の文字部分の一部抽出が許されないところである。

 さらに、本件審決は、引用商標につき、「『文房具類、印刷物』との関係において、引用商標の構成中『リッキー』の文字部分は、出所識別標識としての称呼、観念が生じないというべき事情はみいだせないから、・・・当該文字部分を抽出し、類否を判断することが許されるというべきである。」と認定する。

 「リッキー」の文字部分より出所識別標識としての称呼が生じると認定しているのはよいとしても、「リッキー」の文字部分より出所識別標識としての観念が生じると認定しているとなると、本件審決が、引用商標につき、「文字部分を構成する『リッキー』の文字は、一般的な辞書等に載録された成語ではなく、特定の意味合いを想起させる語として知られているというような事情も見いだせないことから、特定の観念を生じることがない造語として認識されるというのが相当である。」と認定したことと矛盾し、また、「引用商標は、その構成中の『リッキー』の文字部分に相応して、『リッキー』の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。」と認定したことと矛盾することが明らかである。このため、かかる本件審決の認定は、むしろ、原告の主張が正しいことを裏付けるものである。

  ⑸ 禁反言の法理

 本願商標と引用商標の類否を判断するに当たって、本件審決が、引用商標の構成中、文字部分を一部抽出した点は、以下のとおり、誤りである。

   ア 本件審決の認定

 本件審決は、一部抽出の可否の判断基準と最高裁判決を示し、これに続けて、「このように、商標の構成部分の一部を抽出することは、商標の類否を判断するための一つの手法であるから、一商標一出願の原則とは別個のものであって、当該原則を潜脱するものではないことは明らかである。」と認定している。

 確かに、法27条1項が「登録商標の範囲は、願書に記載した商標に基づいて定めなければならない。」と規定し、法6条1項が一商標一出願の原則を規定し、これとは別個に法4条1項11号が規定されていることからすると、法6条1項該当性の認定判断(法15条3号)と11号該当性の認定判断(法15条1号)は異なる拒絶理由であることが明らかである。

 そして、一般に、願書に記載した商標が、図形部分と文字部分を一緒に配した構成態様の結合商標であって、図形部分と文字部分が、外観上、独立して見る者の注意をひくように構成されているとき、(Z)図形部分と文字部分が、称呼上、観念上、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合であって、(X)図形部分が、取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合だけでなく、(X)文字部分も、取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合となると、図形部分と文字部分は、別個の無関係な要部(分離・抽出して類否判断を行うことが許される構成部分)となる。

 そのような結合商標にあって、図形部分と文字部分を別個の無関係な要部と解したとき、一出願の「二商標」の問題として法6条1項該当性の認定判断をすべき場合と一出願の「一商標二構成部分」の問題として法4条1項11号該当性の認定判断をすべき場合が想定され、ともに一出願の複数の要部という同一の法的論点に帰着する。

 確かに、法6条1項該当性と法4条1項11号該当性は、別個の拒絶理由(法15条1号と3号)であるから、両方の拒絶理由を通知するのか、どちらか一方の拒絶理由を通知するのか、審査官、審判官に委ねられていることが明らかである(法15条の2、15条の3、55条の2第1項)。

 そして、先願登録商標の法6条1項該当性の認定判断の誤りに対し、商標登録異議申立て(法43条の2各号)や商標登録無効審判請求(法46条1項各号)の途がないことが明らかである。

 そうすると、審査官、審判官以外の者が、先願登録商標について、図形部分と文字部分を別個の無関係な要部と解したとき、本来、一出願の「二商標」の問題として法6条1項該当性の認定判断の誤りとして論じるべき場合であっても、その途がないので、後願商標出願の審査の際、仕方なく、先願登録商標に一出願の「一商標二構成部分」の問題があると置き換えて、先願登録商標の一部抽出の可否を争点とした法4条1項11号該当性の認定判断の誤りとして論じざるを得ないことも明らかである。

 もっとも、後願商標出願の審査の際、先願登録「商標はその構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されている」〔リラ宝塚事件判決〕にもかかわらず、先願登録商標の出願人の主張やその具体的取引状況が考慮されないので、これと乖離する認定判断も生じている(引用商標、甲11)。

 他方で、審査官、審判官は、先願登録商標の審査の際、先願登録商標について、図形部分と文字部分を別個の無関係な要部と解したとき、専権として法6条1項該当性の拒絶理由を通知すべきと商標法で義務付けられている以上(法15条3号、15条の2、55条の2第1項)、先願登録商標に一出願の「二商標」の問題があり、法6条1項該当性の認定判断をすべきであるから、先願登録商標の出願人に対する拒絶理由を通知しなかった場合であれば、先願登録商標に一出願の「二商標」の問題はないと判断したことが明らかである。

 それにもかかわらず、後日、後願商標出願の審査の際、先願登録商標に同一の法的論点に帰着する一出願の「一商標二構成部分」の問題があるので、先願登録商標の一部抽出の可否を争点とした法4条1項11号該当性の認定判断を借用し、後願商標出願の出願人に対して拒絶理由を通知するとなると、後願商標出願の出願人に対する不意打ちとなる。専権として法6条1項該当性の拒絶理由を通知すべきと商標法で義務付けられている審査官、審判官に限り、そのような置き換えが禁反言の法理に反して許されないことが明らかである。

   イ 本件審決の検討

 本件審決は、引用商標につき、「図形部分と文字部分とは、観念上のつながりはなく、両者を常に一体のものとして把握しなければならない特段の事情も見いだせない」と認定し、(Z)図形部分と文字部分が、称呼上は言うに及ばず、観念上も、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合であると認定している。

 仮に、本件審決が、引用商標につき、(X)図形部分が、取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合であると認定し、また、(Y)「リッキー」の文字部分が、出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合といい難いだけでなく、さらに進んで、(X)「リッキー」の文字部分が、取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合と認定しているとなると、図形部分と文字部分は、別個の無関係な要部と認定していることになる。

 このため、仮に、本件審決が、(X)の基準をも検討して、引用商標にあって、図形部分の一部抽出と文字部分の一部抽出がともに許されるとして法4条1項11号該当性の認定判断をしているのであれば、専権として法6条1項該当性の拒絶理由を通知すべきと法で義務付けられている審査官、審判官が、引用商標の審査の際、引用商標に一出願の「二商標」の問題はなく、法6条1項該当性の認定判断をすべきでないので、先願登録商標の出願人に対して拒絶理由を通知しなかったのにもかかわらず、後日、本願商標の審査の際、引用商標に同一の法的論点に帰着する一出願の「一商標二構成部分」の問題があるので、引用商標の一部抽出の可否を争点とした法4条1項11号該当性の認定判断を借用して、本願商標の出願人に対して拒絶理由を通知したものであり、本願商標の出願人に対する不意打ちで、そのような置き換えが禁反言の法理に反して許されないことが明らかである。

 したがって、仮に、本件審決が、そのように認定しているのであれば、審査官、審判官が、引用商標にあって、「リッキー」の文字部分の一部抽出が許されるとすることは、禁反言の法理に反して許されないところである。

 2 本願商標と引用商標の類否

 上記1のとおり、引用商標にあっては、「リッキー」の文字部分の一部抽出が許されないところである。

 そこで、本願商標と引用商標を比較すると、本願商標と引用商標は「リッキー」の称呼を共通にするものの、本願商標から特定の観念が生じないのに対し、引用商標から特徴的なキャラクター図形と「リッキー」という名のキャラクター名称の観念が生じるのであって、両商標は観念が明らかに相違するのみならず、引用商標には特徴的なキャラクター図形があるのであって、両商標は外観が明らかに相違する。

 このため、これらを総合し、引用商標を全体として観察すれば、本願商標は出所について混同を生じるおそれのない非類似の商標であることが明らかである。

 したがって、本件審決の理由には、上記のとおり、法4条1項11号該当性の認定判断に誤りがある。

 〔被告の主張〕

 1⑴ 原告は、複数の最高裁判決を比較して、判例は、独立して見る者の注意をひくように構成されているかという外観的要素は、通過作業として検討することが許されるだけで、〔リラ宝塚事件判決〕の基準のみを検討して一部抽出が許されると判断することを禁じていると考えられる旨を主張する。

 しかし、〔リラ宝塚事件判決〕は、近年の知財高裁判決(令和5年(行ケ)第10035号同年10月23日判決、令和4年(行ケ)第10093号同5年2月22日判決など)でも引用されている、現在でも有効な規範を示している。すなわち、「各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標」の場合、「一つの称呼、観念が他人の商標の称呼、観念と同一または類似であるとはいえないとしても、他の称呼、観念が他人の商標のそれと類似するときは、両商標はなお類似するものと解するのが相当である」とされている。これは、商標の類否判断においては、商標の要部が二個以上存在すると認められる場合、各部分を分離してそれぞれこれを要部として抽出して観察することが可能であることを肯定したものである(乙5)。

 引用商標は、図形と「リッキー」の文字を組み合わせた結合商標であるところ、それぞれが出所識別標識として独立して機能する構成要素であり、これらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものではない。そのため、引用商標は、要部が二個以上存在する場合に該当し、本願商標との類否判断においては、その構成中、独立した出所識別標識として相応に強い印象を与える「リッキー」の文字部分を要部として抽出して観察することは可能である。

  ⑵ア 原告は、①「リッキー」の文字部分は、多くのキャラクター図形のキャラクター名称として採択され、一般的な名称となっていることや、キャラクター図形とキャラクター名称を一緒に配した場合、その全体より、そのキャラクター名称の称呼を生じ、かつ、その名のキャラクター図形の観念を生じることを指摘して、②引用商標は、外観上、図形部分と文字部分が、独立して見る者の注意をひくように構成されているが、キャラクター図形とキャラクター名称を一緒に配した構成態様の結合商標であって、図形部分と文字部分とが、称呼上、観念上、一体として看取されるとして、「リッキー」の文字部分の一部抽出が許されない旨を主張する。

   イ(ア)a しかしながら、引用商標の構成中、図形部分は、動物を擬人化した何らかのキャラクターを描いてなると看取できるものの、我が国において広く知られ、親しまれたものではないから、それより特定の称呼や観念が生じることもなく、それに併記された「リッキー」の文字部分とは、称呼や観念における関連性はなく、文字部分が当該キャラクター名称を表してなると直ちに認識、理解されることもない。原告の主張する「リッキー」なるキャラクターの存在は、本願商標や引用商標とは直接的な関連はなく、また、引用商標が我が国において広く認知されていることが示されてもいないから、本願商標の指定商品に係る需要者(一般消費者)、取引者の認識に影響しない。

 さらに、キャラクター図形と何らかの文字が併記されていたとしても、それは必ずしも当該キャラクターの名称を示すものではなく、文字がブランド名を表す場合も多く(乙7ないし20)、ブランド名とキャラクター図形を併記することは、取引上極めて普通に採択、採用されている商標の表示手法である。

 このように、引用商標は、知名度のなさも相まって、互いに称呼や観念における関連性のない、「リッキー」なるブランド名(店舗名)とキャラクター図形を併記したものと通常は認識、理解されると考えられ、それぞれが出所識別標識として独立して機能する構成要素であり、それらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものではない。

  b 仮に引用商標について、「リッキー」の文字部分が図形部分のキャラクター名を表してなると理解された場合であっても、本願商標がそれと同一名称の「リッキー」の文字を表している点で十分相紛らわしい。また、本願商標には「リッキー」の文字だけでキャラクター図形が描かれておらず、引用商標の表す「リッキー」とは互いに別のキャラクターを表しているとは判別、記憶し得ないのだから、両商標を別異のものとして理解し得るほどの差異はないのであって、両商標を同一又は類似の商品について使用した場合、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれは依然としてある。これは、仮にキャラクター図形と「ゴジラ」の文字を組み合わせた結合商標があったとしても、他人による「ゴジラ」の文字のみからなる商標が、同一又は類似の商品について使用されていた場合、相紛らわしく、誤認混同を生ずるおそれがあるのと同様である。

 (イ)a 引用商標は、図形と「リッキー」の文字を組み合わせた結合商標であるところ、それぞれが出所識別標識として独立して機能する構成部分であり、これらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものではないから、要部が二個以上存在する場合に該当し、その構成中、独立した出所識別標識として相応に強い印象を与える「リッキー」の文字部分を要部として抽出して観察することは可能である。

 そうすると、本願商標と引用商標は、外観においては、全体は図形部分の有無に差違があるものの、要部である「リッキー」の文字部分の比較において、記憶される印象は共通したものとなり、相紛らわしく、また、称呼を共通にし、さらに、観念は比較できないものの、漠然と連想される印象が共通するから、これらによって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、時と所を異にして両商標に接するときは、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあり類似するため、両商標は類似する。

  b なお、本願商標と引用商標の構成全体を比較したとしても、以下のとおり、両商標は類似する。

 すなわち、引用商標の構成中、図形部分は、動物を擬人化した何らかのキャラクターを描いてなることを想起させるものの、我が国において広く知られ、親しまれたものではないから、それより特定の称呼や観念が生じることもない。他方、その構成中、「リッキー」の文字部分は、「男性名:Richard の愛称」である「Ricky」の表音に相当するものの、一般的な辞書等に掲載されている語ではないから、漠然と外国人の名称を連想させるとしても、具体的な意味合いまでは認識できず、また、その指定商品との関係において、商品の品質等を表示するものではないため、出所識別標識としての機能を相応に有する。

 そうすると、本願商標と引用商標は、全体は図形部分の有無に差違があるものの、それより特定の称呼、観念は生じないから、文字部分の共通性を凌駕するほどの異なる印象を与えるものではなく、また、出所識別標識として相応に強い印象を与える「リッキー」の文字部分の比較において、外観において記憶される印象は共通したものとなり、相紛らわしく、また、称呼を共通にし、さらに、観念は比較できないものの、漠然と連想させる印象は共通するから、これら構成全体によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察しても、時と所を異にして両商標に接するときは、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるため、類似する。

  ⑶ 原告は、「禁反言の法理」として、「法6条1項該当性の拒絶理由を通知すべきと商標法で義務付けられている審査官、審判官が・・・先願登録商標の出願人に対して拒絶理由を通知しなかったのにもかかわらず、・・・引用商標の一部抽出の可否を争点とした法4条1項11号該当性の認定判断を借用して、本願商標の出願人に対して拒絶理由を通知したものであり、本願商標の出願人に対する不意打ちで、そのような置き換えが禁反言の法理に反して許されない」旨を主張する。

 しかしながら、禁反言とは、英米法上の原則で、「AがBのした表示を信じ、それに基づいて自己の地位を変更したときは、Bは後になって自己の表示が事実に反していたことを理由としてそれを翻すことができないという原則」(乙21)のことと思われるところ、当該原則と本件審決に対する取消事由の法的根拠との関連性や、当該原則と本件との関連性は明らかではなく、また、その主張の前提とされる事実関係も何ら根拠のないものであるから、その主張は取消事由としての前提を欠く。

 なお、本願商標の法4条1項11号該当性や、本願商標と引用商標における分離観察や要部観察の可否は、そこで比較される商標が法6条1項の要件を充足するか否かとは何ら関連性がないことであり、これは原告も認めている。

 ちなみに、本件では、審査段階において、令和6年3月14日付けの本件拒絶理由通知によって、引用商標を明示しながら法4条1項11号の拒絶理由が通知されており(甲14)、不意打ちとなるような事実関係はなく、審査、審判の手続に何ら違法はない。

 2 原告は、「引用商標を全体として観察すれば、本願商標は出所について混同を生じるおそれのない非類似の商標である」として、本件審決の理由には法4条1項11号該当性の認定判断に誤りがある旨を主張する。

 しかしながら、引用商標は、その構成中、図形部分のほか、「リッキー」の文字部分が、独立した出所識別標識として強い印象を与える要部ということができる。

 そうすると、本願商標と引用商標は、要部である「リッキー」の文字部分の比較において、外観は相紛らわしく、称呼を共通にし、観念は比較できないものの、漠然と連想させる印象が共通するから、これらによって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、時と所を異にして両商標に接するときは、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるため、両商標は類似する。

 したがって、本願商標は、引用商標と類似する商標であって、その指定商品と同一の商品について使用をするものであるから、法4条1項11号に該当する。

第4 当裁判所の判断

 1 取消事由(本願商標と引用商標との類否判断の誤り)について

  ⑴ 商標の類否判断の基準

 商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品又は役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品又は役務の取引の実情を明らかにしうる限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。

 そして、商標はその構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから、みだりに、商標構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定することは許されないが、簡易、迅速を尊ぶ取引の実際においては、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところである(最高裁昭和34年(オ)第856号同36年6月23日第二小法廷判決・民集15巻6号1689頁参照)。また、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁〔リラ宝塚事件判決〕、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁〔SEIKO EYE事件判決〕、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・集民228号561頁〔つつみのおひなっこや事件判決〕参照)。

  ⑵ 本願商標について

 本願商標は、「リッキー」の文字を標準文字で表してなるものである。「リッキー」の語は、英語の辞書(新英和中辞典第7版。乙3)には、「Rick・y」につき「リッキー(男性名;Richard の愛称)」と記載されているものがあるものの、一般的な国語の辞書等に載録された成語ではなく、特定の意味合いを想起させる語として知られていると認めるに足りる証拠はない。

 そうすると、本願商標は、「リッキー」の文字に相応して「リッキー」の称呼が生じるが、特段の観念が生じるものとは認められない。

  ⑶ 引用商標について

 引用商標は、ほほ袋を大きく膨らませ、大きな尻尾を持つなどリスの特徴を誇張し、服を着て蝶ネクタイをし、手に虫メガネを持つなど擬人化したリスを思わせる動物の図形(図形部分)と、その下部に「リッキー」の文字(文字部分)を横書きした構成からなるところ、その図形部分と文字部分は、図形と文字という構成要素を異にすることに加え、色彩も異にし、それぞれ重なり合うことなく、相当程度の間隔を空けて上下に独立して表されているものであることから、視覚上、明確に分離して看取し得るものである。文字部分を構成する「リッキー」の文字は、上記のとおり、一般的な辞書等に載録された成語ではなく、特定の意味合いを想起させる語として知られているというような証拠もないから、特定の観念を生じることがない造語として認識されるというのが相当である。

 また、上記の構成からなる図形部分は、リスを擬人化したものと思わせはするものの、一般に親しまれた特定の事物を表したものとは認められず、これにつき特定の称呼や観念が生じるといった事情も見いだせないことから、図形部分と文字部分とは、観念上のつながりはない。その他、図形部分と文字部分とで、両者を常に一体のものとして把握しなければならない特段の事情も見いだせない。

 そうすると、図形部分と文字部分は、これらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとはいえないというべきであるから、引用商標は、その構成中の図形部分と文字部分が、それぞれ独立して自他商品役務の出所識別標識の機能を有しているといえ、その構成中から文字部分を要部として抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるものである。

 したがって、引用商標は、その構成中の「リッキー」の文字部分に相応して、「リッキー」の称呼を生じる。

 上記のとおり、文字部分からは特定の観念を生じない。

  ⑷ 本願商標と引用商標の類否について

 本願商標と引用商標は、上記⑵及び⑶のとおりの構成からなるところ、全体の外観において、図形部分の有無の差異を有するものの、本願商標と、引用商標の要部として抽出し得る文字部分とを比較すると、書体の違いはあるものの、いずれも「リッキー」の構成文字を共通にするものであるから、外観上近似した印象を与えるものといえる。

 また、両者は、いずれも「リッキー」の称呼を生じるものであるから、称呼を共通にし、両者は、いずれも特定の観念を生じないものであるから、観念においては比較できないものである。

 そうすると、本願商標と引用商標とは、全体の外観において相違し、観念において比較はできないものの、本願商標と引用商標の要部である文字部分との対比では、外観において近似し、称呼を共通にするものであるから、これらを総合して考察すると、本願商標と引用商標とは、互いに相紛れるおそれのある類似の商標ということができる。

  ⑸ 本願の指定商品と引用商標の指定商品及び指定役務との類否について

 本願商標及び引用商標の指定商品中、「文房具類、印刷物」は、同一の商品である。

 また、本願商標の指定商品の「メモ帳、シール、ペンシルケース」は文房具類の、「定期刊行物、小冊子」は印刷物の、それぞれ一種である(乙4)。

 したがって、本願商標の指定商品である「メモ帳、シール、ペンシルケース、文房具類、定期刊行物、小冊子、印刷物」(第16類)と、引用商標の指定商品中の「文房具類、印刷物」(第16類)は同一の商品を含むから、本願の指定商品は、引用商標の指定商品及び指定役務中、第16類「文房具類、印刷物」と同一又は類似の商品である。

  ⑹ 小括

 以上によれば、本願商標は、引用商標と類似する商標であって、その指定商品と同一又は類似する商品について使用をするものであるから、法4条1項11号に該当するものというべきである。

 そうすると、これと同旨の本件審決の判断に誤りはないというべきである。

 2 原告の主張に対する判断

  ⑴ 原告は、結合商標の一部抽出についての判例の基準は、(X)ないし(Z)のとおりであるところ、本件審決は(Z)の基準のみを検討して一部抽出の可否を検討しており、その判断は誤りである旨を主張する。

 しかし、結合商標のうちの一部を要部として抽出して、これを他人の商標と比較し得るか否かについての判断は、前記1⑴のとおりなされるべきところ、引用商標は、前記1⑶のとおり、図形部分と「リッキー」の文字部分を組み合わせた結合商標であり、それぞれが出所識別標識として独立して機能し、これらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものではないから、本願商標との類否判断においては、その構成中の独立した出所識別標識として相応に強い印象を与える「リッキー」の文字部分を要部として抽出し、観察することが許されるというべきである。

 したがって、原告の上記主張は採用することができない。

  ⑵ 原告は、「リッキー」の文字部分は、多くのキャラクター図形のキャラクター名称として採択され、一般的な名称となっていることや、キャラクター図形とキャラクター名称を一緒に配した場合、その全体より、そのキャラクター名称の称呼を生じ、かつ、その名のキャラクター図形の観念を生じるとして、引用商標は、外観上、図形部分と文字部分が、独立して見る者の注意をひくように構成されていて、キャラクター図形とキャラクター名称を一緒に配した構成態様の結合商標であって、図形部分と文字部分とが、称呼上、観念上、一体として看取されるとして、その文字部分の一部抽出は許されない旨を主張する。

 しかし、引用商標の構成中、図形部分は、前記1⑶のとおり、リスを擬人化した何らかのキャラクターを描いてなると看取できるものの、我が国において広く知られ、親しまれたものではないから、特定の称呼や観念が生じることはない。また、「リッキー」の文字部分と称呼や観念における関連性はなく、当該キャラクター名称を表してなると直ちに認識、理解されることもないというべきである。

 この点につき原告は、「リッキー」の文字が多くのキャラクター図形の名称として採用され、一般的な名称となっていると主張し、それに沿う証拠(甲8、21ないし24)を提出する。なるほどこれによれば、帯広市「ばんえい競馬場」のマスコットキャラクター「リッキー」、手塚治虫「0マン」のアニメキャラクター「リッキー」(インド奥地でひろわれたシッポを持つ少年)、任天堂「ゼルダの伝説ふしぎの木の実」のゲームキャラクター「リッキー」その他「リッキー」と称するキャラクターがこれまでに存し、広告宣伝に寄与し、キャラクターのグッズの販売等がされたことは認められる(甲8、21ないし24)が、「リッキー」の文字がキャラクター図形の名称として一般的な名称となっているとまで認めるに足りる証拠ではない。この点を措くとしても、これらはそもそも、本願商標や引用商標とは直接的な関連性がなく、引用商標の文字部分が我が国において広く認知されていることを示すものでもないから、本願商標の指定商品に係る需要者である一般消費者や、取引者の認識に影響するものではない。

 原告は、キャラクター図形とキャラクター名称を一緒に配した場合、キャラクター名称と思しき文字部分がキャラクター図形と思しき図形部分を説明すると無理なく理解できる旨を主張し、それに沿う証拠(甲1ないし12、26)を提出する。

 しかし、原告の指摘するとおり、関西サイクルスポーツセンターマスコット「リッキー」、今井工務店のマスコット「リッキー」、T&Dリース株式会社のキャラクター「リッキー」等(甲1ないし12、26)、キャラクター名を文字として示したと理解される事例があるものの、キャラクター名が、それとは異なるブランド名と併記されているものもあり(例えば、「図形/MICHELIN」(乙6、図形のキャラクター名は「ビバンダム」)、「図形/KFC」(乙7、8、図形のキャラクター名は「カーネル・サンダース」など))、キャラクター図形と何らかの文字が併記されていたとしても、それが必ずしも当該キャラクターの名称を示すものでもない。

 そして、引用商標が特段の知名度を有するものと認めるべき証拠はないから、引用商標の文字部分と図形部分とは、文字部分が、図形で示されるキャラクターそのものの称呼や観念と異なる「リッキー」なるブランド名(店舗名)を示し、それをキャラクター図形と併記したものと認識、理解され得るものであり、それぞれが出所識別標識として独立して機能する構成要素として、それらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえない。

 したがって、原告の上記主張は採用することができない。

  ⑶ 原告は、「禁反言の法理」として、法6条1項該当性の拒絶理由を通知すべきと法で義務付けられている審査官、審判官が先願登録商標の出願人に対して拒絶理由を通知しなかったのにもかかわらず、引用商標の一部抽出の可否を争点とした法4条1項11号該当性の認定判断を借用して、本願商標の出願人に対して拒絶理由を通知したものであり、本願商標の出願人に対する不意打ちで、そのような置き換えが禁反言の法理に反して許されない旨を主張する。

 本件拒絶理由通知(甲14)には、「適用条文 第4条第1項第11号」とし、本願商標につき、「下記登録商標」(引用商標)と同一又は類似であり、その商標登録に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用するものであるから、法4条1項11号に該当するとして、引用商標が示されている。

 また、本願商標の法4条1項11号該当性や、本願商標や引用商標における分離観察や要部観察の可否は、そこで比較される商標(引用商標)が、法6条1項の要件を充足するか否かとは何ら関連性がないことである。

 したがって、原告の上記主張は採用することができない。

  ⑷ 原告は、引用商標を全体として観察すれば、本願商標は出所について混同を生じるおそれのない非類似の商標であるとして、本件審決には法4条1項11号該当性の認定判断に誤りがある旨を主張する。

 しかし、既に検討したとおり、引用商標は、その構成中、図形部分のほか、「リッキー」の文字部分が、独立した出所識別標識として強い印象を与える要部ということができる。そうすると、本願商標と引用商標は、引用商標の要部である「リッキー」の文字部分の比較において、外観において近似し、称呼を共通にするものであるから、これらによって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、時と所を異にして両商標に接するときは、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあり、類似するものである。

 したがって、原告の上記主張は採用することができない。

 3 結論

 以上によれば、原告主張の取消事由は理由がなく、本件審決にこれを取り消すべき違法はない。

 よって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

 知的財産高等裁判所第3部

 (裁判長裁判官 中平健 裁判官 今井弘晃 裁判官 水野正則)

 
 
 

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