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原告
株式会社ズーム
同訴訟代理人弁護士
高橋鉄
池上健太郎
佐野真
林いづみ
堀籠佳典
服部謙太朗
同訴訟復代理人弁護士
井上圭
國友愛美
同補佐人弁理士
豊崎玲子
被告
ズーム・コミュニケーションズ・インク
同訴訟代理人弁護士
城山康文
早田尚貴
同訴訟代理人弁理士
横川聡子
同訴訟復代理人弁護士
大石裕太
佐々木公樹
同補佐人弁理士
高橋友和
主文
1 被告は、原告に対し、1億6621万9358円及びこれに対する令和4年3月4日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを10分し、その9を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
5 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙商品・役務目録記載1のソフトウェアに別紙被告標章目録記載1ないし5の標章を付し、又は同標章を付した同ソフトウェアを販売し、若しくは電気通信回路を通じて提供してはならない。
2 被告は、電磁的方法により行う映像面を介した別紙商品・役務目録記載2の役務の提供に当たり、その映像面に別紙被告標章目録記載1、2及び4の標章を表示して役務を提供してはならない。
3 被告は、別紙商品・役務目録記載1のソフトウェア及び同目録記載2の役務に関する被告のインターネット上のホームページ等の広告に別紙被告標章目録記載1、2及び4の標章を付して電磁的方法により提供してはならない。
4 被告は、前項のホームページ等の広告から前項の標章を削除せよ。
5 被告は、原告に対し、3億円及びこれに対する令和4年3月4日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は、別紙商標権目録記載の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を有する原告が、被告による別紙被告標章目録記載1ないし5(以下、同目録の番号に応じて「被告標章1」などといい、これらを併せて「被告各標章」という。)の使用により本件商標権が侵害されたと主張して、被告に対し、商標法36条1項及び同条2項に基づき、被告各標章の使用の差止め及び広告からの削除を求めるとともに、民法709条に基づき、損害賠償金の一部である3億円及びこれに対する令和4年3月4日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金を、選択的に、被告が被告各標章を使用することで法律上の原因なく利益を受け、原告はライセンス料相当額の損失を被ったと主張して、被告に対し、民法703条及び704条に基づき、利得金の一部である3億円及びこれに対する同日から支払済みまで上記割合による利息の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1) 当事者
ア 原告は、ハンディオーディオ/ビデオレコーダー、マルチエフェクター、デジタルミキサー/マルチトラックレコーダーやその周辺機器等の音楽用電子機器の開発及び販売等を業とする株式会社である。(甲1)
イ 被告は、平成23年に設立されたソフトウェア開発等を業とする米国法人である(令和6年に変更する前の商号は、ZOOM Video Communications,Inc.)。
(2) 本件商標権
ア 原告は、本件商標権を有している。(甲2、3)
イ 被告は、令和4年5月31日付けで、本件商標権の指定商品のうち、「電子計算機用プログラム(動画の撮影・編集のためのスマートフォン用電子計算機用プログラム、音響・音楽の録音・編集のためのスマートフォン用電子計算機用プログラムを除く)」、「電子計算機用プログラム(音響機器用の電子計算機用プログラム、ビデオレコーダーの操作用の電子計算機用プログラム、動画の撮影・編集又は音響・音楽の制作・録音・編集のための電子計算機用プログラム、動画の撮影・編集のためのスマートフォン用電子計算機用プログラム、音響・音楽の録音・編集のためのスマートフォン用電子計算機用プログラムを除く)」、「ウェブ会議・遠隔会議・ビデオ会議・テレビ会議用の電子計算機用プログラム」、「ウェブ会議・遠隔会議・ビデオ会議・テレビ会議のためのクラウドコンピューティングを介した通信用の電子計算機用プログラム、ウェブ会議システム・遠隔会議システム・ビデオ会議システム・テレビ会議システムの運営用の電子計算機用プログラム」、「インターネット及びその他の通信ネットワークのユーザー間の通信用の電子計算機用プログラム」の不使用を理由に、その商標登録を取り消す旨の審判を請求したが、特許庁は、いずれの請求も成り立たない旨の審決をした。被告は、これらの審決を不服として審決取消訴訟を提起したが、知財高裁は、令和7年11月26日、これら全ての訴訟につき、被告の請求を棄却する旨の判決をした。(乙86~90、351~355)
(3) 本件サービス
ア 被告は、自社で開発したウェブ会議システム(以下「本件システム」という。)を使用したウェブ会議サービス(以下「本件サービス」という。)を提供している。
イ 被告は、本件サービスを提供するために、クラウド上でプログラムを運用しており(以下、このクラウド上のプログラムを「本件クラウドプログラム」という。)、ユーザーは、無料でダウンロードすることができる別紙商品・役務目録記載1のソフトウェア(以下「本件ソフトウェア」という。)を介して、又はウェブブラウザから直接本件クラウドプログラムに接続し、本件サービスを利用する。
(4) 被告各標章の表示
ア 本件ソフトウェアの起動画面は別紙表示目録記載1又は8の表示のとおりであり、被告標章1又は4が表示される。サインイン後の画面は同目録記載2及び5の表示のとおりであり、別紙被告使用標章目録記載1又は3の表示がある(なお、これらにおいて被告標章2が使用されているといえるかは、後述のとおり争いがある。)。また、ユーザーが、本件ソフトウェアをスマートフォン等の端末にダウンロードした場合、ダウンロード先の端末の画面上には、別紙表示目録記載3又は9のように、本件ソフトウェアのアイコンとして、被告標章3又は5が表示される。(甲6、146)
イ 被告が管理する本件ソフトウェア等のダウンロードページの表示は、別紙表示目録記載4のとおりであり、被告標章1及び別紙被告使用標章目録記載2の表示がある(なお、後者において被告標章2が使用されているといえるかは、後述のとおり争いがある。)。(甲7)
ウ ユーザーが、ウェブページから直接本件サービスを利用する際には、当該ウェブページに別紙表示目録記載6の表示が現れ、被告標章1及び別紙被告使用標章目録記載4の表示がある(なお、後者において被告標章2が使用されているといえるかは、後述のとおり争いがある。)。(甲6)
エ 被告が運営するウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)には、別紙表示目録記載7及び10の表示があり、前者において被告標章1及び2が表示される。後者においては、被告標章4と同様のフォントによる「ZOOM」の文字が表示されているが、被告標章4の白文字とは異なり、青文字で記載されている。(甲6、146)
(5) 被告の商標等
ア 被告は、別紙関連商標権目録記載1及び2の商標権(以下、同目録記載の番号に応じて「本件関連商標権1」などといい、その登録商標を「本件関連商標1」などという。)を有している。(乙1、2、4、5)
イ 被告は、令和6年3月29日、訴外株式会社トンボ鉛筆(以下「訴外トンボ」という。)から、本件関連商標権3の分割移転を受け、同移転は、同年4月22日付けで登録されたが、同商標権については、不使用を理由に商標登録の取消しの審判が請求され(審判の請求の登録日は令和3年2月26日である。)、令和6年3月28日に登録を取り消す旨の審決がされた。(甲168、乙24、317、318)
(6) 原告から被告への通知
原告は、平成30年10月15日、被告に対し、本件サービスに関する問合せが原告に多数寄せられており、大きな障害が生じていることから、被告において対応することを強く勧告する旨のメールを送った。(甲53、弁論の全趣旨)
(7) 原告による訴えの追加等
原告は、本件訴訟の提起時は、被告に対し、被告標章1ないし3の使用の差止め及び広告からの削除のみを求めていたところ、令和4年10月19日付け訴えの変更申立書において、本件商標権の侵害を理由に、民法709条に基づき損害賠償を求める旨の訴えを追加し、さらに、令和6年7月4日付け訴え変更申立書において、被告が使用料を支払わないまま本件商標権に類似する標章を使用し、法律上の原因なく利益を得ており、原告は損失を被っているとして、民法703条及び704条に基づき、不当利得の返還を求める旨の訴えを追加した。(顕著な事実)
(8) 消滅時効の援用
被告は、本件第1回弁論準備手続期日(令和6年10月28日)において、令和6年4月30日付け被告準備書面(7)の陳述により、原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権のうち令和元年10月18日以前に発生した部分について消滅時効を援用し、令和6年9月13日付け被告準備書面(10)の陳述により、原告の被告に対する不当利得返還請求権のうち平成26年6月16日以前に発生した部分、又は少なくとも平成24年10月18日以前に発生した部分について消滅時効を援用した。(顕著な事実)
3 争点
(1) 被告による被告各標章の使用(争点1)
(2) 本件商標と被告各標章の類否(争点2)
(3) 商品、役務の類否(争点3)
(4) 差止請求の可否(争点4)
(5) 商標法26条1項1号又は6号の抗弁(争点5)
(6) 登録商標使用の抗弁(争点6)
(7) 権利濫用の抗弁(争点7)
(8) 原告の損害及び額(争点8)
(9) 被告の不当利得(争点9)
(10) 消滅時効の抗弁(争点10)
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(被告による被告各標章の使用)について)
(原告の主張)
ア 被告の使用行為
(ア) 本件ソフトウェアの起動画面、サインイン後の画面及び本件ソフトウェアをダウンロードした端末の画面には、それぞれ被告各標章が付されている。そうすると、本件ソフトウェアを提供する行為は、商品に標章を付したものを電気通信回線を通じて提供するものであるから、商標法2条3項2号の使用に当たる。
本件サービスは、ユーザーが本件ソフトウェアを介して、又はウェブブラウザから直接本件クラウドプログラムに接続して利用されるものであるところ、ユーザーの端末における本件ソフトウェアの起動画面等又はウェブページの画面には、被告標章1、2及び4が表示される。そうすると、本件クラウドプログラムを提供する行為は、電磁的方法により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供するものであるから、商標法2条3項7号の使用に当たる。
(イ) 被告は、本件ウェブサイトにおいて、被告標章1、2及び4を付して、本件サービスの内容や機能、優位性等をアピールし、本件ソフトウェアのダウンロードページにおいても、その内容ないし機能の説明と共に被告標章1、2及び4を表示している。このような表示は、本件ソフトウェアという商品及び本件クラウドプログラムの提供という役務に関する広告であり、商品若しくは役務に関する広告に標章を付して頒布し、そのような広告を内容とする情報を電磁的方法により提供するものであるから、商標法2条3項8号の使用に当たる。
イ 被告標章2の使用
別紙表示目録記載2、4ないし6の表示において、被告標章2は独立した標章として抽出することが可能であり、被告は被告標章2を使用している。
ウ 本件ソフトウェアの「商品」該当性について
商標法上の「商品」(2条3項)は、取引の対象となり得る財であればよく、有償性は要求されていない。有償か無償かは販売戦略の中で総合的に決定されるものであり、無償だから直ちに商品性が否定されるわけではない。有償での提供に耐えうる物であれば、現に無償で提供されていたとしても、商標法上の商品に該当する。
本件ソフトウェアはウェブ会議を行う上で必要、かつ重要な機能を備えており、単にダウンロードの際に個別に対価を支払わないだけであるから、商品性が認められることは明らかである。
(被告の主張)
否認ないし争う。
被告が広告しているのは、あくまでも本件サービスの内容や機能、優位性等であり、本件ソフトウェアの内容や機能ではない。
ア 被告標章2の使用
被告は、別紙表示目録記載2、4ないし6において、別紙被告使用標章目録記載1ないし4の各標章を一体的に使用しており、被告標章2を使用しているのではない。
イ 本件ソフトウェアの「商品」該当性
商標法上の「商品」は、市場において独立して商取引の対象として流通に供される物でなければならないところ、本件ソフトウェアは、本件サービスの一部を利用するために無償で提供されるものであり、本件サービスの利用のためにのみ使用することができるものであって、本件サービスと独立した流通性を有するものではないから、商標法上の「商品」に該当しない。
(2) 争点2(本件商標と被告各標章の類否)について
(原告の主張)
ア 本件商標
(ア) 本件商標の外観は、デザイン化された「ZOOM」のアルファベット4文字を横一列に配したものである。
本件商標を全体として観察すれば、均等な大きさでありかつ統一的なデザイン性のある4つのブロックが並んだ構成が看取され、デザイン化された一連の文字であると認識するのが一般的である。本件商標は同じ太さの線で、同じ高さ、同じ幅から成るところ、その構成全体を眺めた場合、看者は図形を含んだ2つ又は3つの構成部分から成ると解するのではなく、全体として何らかの文字・単語をデザイン化したものではないかとまず考える。そして、本件商標が漢字や平仮名、片仮名から成るものでないことは明らかである以上、看者としては本件商標が何らかのアルファベットから成るのではないかと考え、本件商標が「ZOOM」の文字を表していると解することは明らかである。
(イ) 本件商標からは、「ズーム」の称呼が生じ、また、元々の英語の語義である「急増する、急上昇する」といった観念を生じる。
イ 被告標章1
被告標章1の外観は、デザイン化された「zооm」のアルファベット4文字を横一列に配したものであり、「ズーム」の称呼が生じ、また、元々の英語の語義である「急増する、急上昇する」といった観念を生じる。
ウ 被告標章2
被告標章2の外観は、「Zoom」のアルファベット4文字を横一列に配したものであり、「ズーム」の称呼が生じ、また、元々の英語の語義から「急増する、急上昇する」といった観念を生じる。
エ 被告標章3
(ア) 外観は、白いビデオカメラ様の図形を中央に配した水色の丸みを帯びた四角形状と当該図形の下に横一列に書した「Zoom」のアルファベット4文字を配した構成から成る。
(イ) 「Zoom」との文字部分から「ズーム」との称呼を生じ、図形部分からは特定の称呼は生じない。
(ウ) 「Zoom」との文字部分から、「急増する、急上昇する」との観念を生じ、図形部分からはビデオカメラの観念が生じる。
オ 被告標章4
(ア) 外観は、デザイン化された「zооm」のアルファベット4文字を横一列に配したものであり、「m」の形は、書き始めの最左に位置する縦線の上部が突き抜けてはおらず、左右対称の形にデザインされたものとなっている。
(イ) 被告標章4からは、「ズーム」との称呼が生じ、また、元々の英語の語義である「急増する、急上昇する」といった観念を生じる。
カ 被告標章5
被告標章5の外観は、角に丸みを帯びた水色の四角形状の中に、被告標章4が配された図形であり、その下には横一列に「Zoom」のアルファベット4文字の記載があるものであり、「ズーム」との称呼が生じ、また、元々の英語の語義である「急増する、急上昇する」といった観念を生じる。
キ 類否
(ア) 本件商標と被告標章1の類否
本件商標と被告標章1は、いずれも同じアルファベット4文字を横書きに配置したものであり、横一列の配置に特徴はなく、いずれも「ズーム」という単語が読み取れる範囲内にあり、外観において類似しているといえる。
また、称呼はいずれも「ズーム」であり、観念もいずれも「急増する、急上昇する」であるから、称呼、観念において同一である。
したがって、本件商標と被告標章1は類似している。
(イ) 本件商標と被告標章2の類否
本件商標と被告標章2は、上記(ア)と同様の理由により、類似している。
(ウ) 本件商標と被告標章3の類否
ウェブ会議サービスやカメラに関するアプリのアイコンでは、ビデオカメラのロゴが使用される例は多数存在しており、被告標章3においては、「Zoom」という文字部分が、図形部分と比較して取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるといえるから、被告標章3においては、上記文字部分を抽出して本件商標との類否を判断することが許される。
そして、「Zoom」という文字部分については、上記(ア)と同様の理由により、本件商標と外観において類似しており、称呼、観念において同一であるから、本件商標と被告標章3は類似している。
(エ) 本件商標と被告標章4の類否
本件商標と被告標章4は、上記(ア)と同様の理由により、類似している。
(オ) 本件商標と被告標章5の類否
被告標章5の被告標章4と同一の文字部分、及び「Zoom」の文字部分は、いずれも同じアルファベット4文字を横書きに配置したものであり、横一列の配置に特徴はなく、いずれも「ズーム」という単語が読み取れる範囲内にあり、外観において類似しているといえる。
また、称呼はいずれも「ズーム」であり、観念もいずれも「急増する、急上昇する」であるから、称呼、観念において同一である。
したがって、本件商標と被告標章5は類似している。
(カ) 取引の実情
商標の類否判断に当たり考慮することのできる「取引の実情」とは、その指定商品や役務の全般についての一般的、恒常的なそれを指すものであって、単に当該商標が現在使用されている商品や役務についてのみの特殊的、限定的なそれは含まれないと解すべきであり、被告各標章が周知・著名であるといった局所的あるいは浮動的な現象は、取引の実情として考慮されない。
また、①本件ソフトウェアのユーザーが、本件ソフトウェアの出所が原告であると誤認し、本件ソフトウェアの利用方法等について原告に問い合わせる例が相次いでいること、②原告が本件ソフトウェアを提供していると誤認した旨のコメントが多数寄せられていること、③令和2年6月に株式市場において多くの投資家が原告と被告を混同して、原告の株価がストップ高になったことのほか、④原告のマイクやハンディレコーダー等について被告がウェブ会議用に音声システムを供給していると勘違いされるなど現に誤認混同の事例がある。
さらに、商標権者の商品等の出所が侵害者であると誤認混同させる場合である、いわゆる「逆混同」も商品等の出所に係る誤認混同に当たる。逆混同の場合も、商標法の目的に反し、「商標の使用をする者の業務上の信用」や「需要者の利益」は毀損され得るし、「産業の発展」にもマイナスとなることからすれば、商標権侵害に当たるというべきである。
(被告の主張)
ア 本件商標
(ア) 本件商標の外観が「ZOOM」のアルファベット4文字であること、本件商標から「ズーム」の称呼が生じること、及び元々の英語の語義から「急増する、急上昇する」といった観念を生じることはいずれも否認し、又は争う。本件商標は、看者が特定の文字、図形又は記号を表したものと容易に理解できない外観であり、本件商標から特定の称呼又は観念は生じない。
(イ) 本件商標の左部は、2箇所の屈曲部分が曲線で表されるため、算用数字の「2」又は漢字の「乙」を想起させる。左部がアルファベットの「Z」であるとは看取し難く、看者が特定の文字を表したものと容易に理解できない。
本件商標の中央部は、中央の凹凸部分により、2つの文字、記号又は図形を繋げた印象を与えるものの、中心部分が空いていることなどから、①横向きにした砂時計若しくは音叉、②アイマスク、黒ぶち眼鏡、双眼鏡若しくはゴーグル、③無限大を意味する「∞」、又は④2つの対面したアルファベットの「C」を想起させる。中央部が2つの繋がったアルファベットの「O」であるとは看取し難く、看者が特定の文字又は図形を表したものと容易に理解することはできない。
本件商標の右部は、上方の2つの角張った突出部分により、漢字の「凹」を想起させる、漢字の「凹」から下の横棒を削除したような記号である。また、本件商標の右部は、原告商品が記録する音波のような上下に振動する波形も想起させる。そして、本件商標の右部がアルファベットの「M」であるとは看取し難く、看者が特定の文字又は記号を表したものと容易に理解することはできない。
仮に、本件商標が、看者が特定の文字、図形又は記号を表したものと理解することができる商標であるとしても、本件商標から生じ得る称呼又は観念は確定的ではない。
イ 被告標章1
被告標章1の外観及び称呼については特に争わないが、被告標章1から元々の英語の語義により「急増する、急上昇する」といった観念を生じることは争う。被告標章1は被告の提供する本件サービスを示すものとして日本において周知ないし著名であり、本件サービス及びこれを提供する被告並びに本件サービスに関連するイベント(Zoom会議、Zoomセミナー、Zoom授業やZoom飲み会等)という観念が生じる。
ウ 被告標章2
被告標章2の外観及び称呼については特に争わないが、上記イと同旨の理由により、被告標章2から元々の英語の語義により「急増する、急上昇する」といった観念を生じることは争う。
エ 被告標章3
被告標章3の外観については特に争わないが、その称呼及び被告標章3から元々の英語の語義により「急増する、急上昇する」といった観念を生じることは争う。被告標章3は、被告の提供する本件サービスを示すものとして、一体的なアイコンとして日本において周知ないし著名であり、全体が強く支配的な印象を与えることから、アルファベットの「Zoom」の文字のみを抽出することは許されない。被告標章3からは、「ズームのアイコン」という称呼が生じ、観念については、「ズームのアイコン」という観念、又は本件サービス及びこれを提供する被告並びに本件サービスに関連するイベント(Zoom会議、Zoomセミナー、Zoom授業やZoom飲み会等)という観念が生じる。
オ 被告標章4
被告標章4の外観及び称呼については特に争わないが、上記イと同旨の理由により、被告標章4から元々の英語の語義により「急増する、急上昇する」といった観念を生じることは争う。
カ 被告標章5
被告標章5は、角が丸められた青色の四角形と被告標章4とを組み合わせた結合商標である。そして、結合商標の構成部分の一部を抽出し、その一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは原則として許されない。称呼においては、「ズーム」の称呼が生じ、観念については、本件サービス及びこれを提供する被告並びに本件サービスに関連するイベント(Zoom会議、Zoomセミナー、Zoom授業やZoom飲み会等)という観念が生じる。
キ 本件商標と被告各標章の類否
(ア) 本件商標は、黒色で、機械的なデザインであり、特定の称呼、観念は生じないか、仮に何らかの称呼や観念が生じるとしても確定的ではない。
一方で、被告各標章は、本件商標と外観において明確な違いを有しているほか、いずれも「ズーム」又は「ズームのアイコン」の称呼が生じ、観念においても、「ズームのアイコン」という観念、又は本件サービス及びこれを提供する被告並びに本件サービスに関連するイベント(Zoom会議、Zoomセミナー、Zoom授業やZoom飲み会等)という観念が生じるから、本件商標と被告各標章は外観、称呼、観念のいずれについても非類似である。
(イ) 取引の実情
本件サービスは、幅広く利用されており、被告各標章は本件サービスを示すものとして日本において周知ないし著名となっており、一方で、本件商標は電子計算機プログラムへの使用実績がほとんど存在しない。また、原告商品と本件サービスでは需要者層も異なる。そうすると、指定商品に被告各標章が付されていたとしても、取引者又は需要者は、原告の商品であると誤認混同するおそれはない。
原告は、現実に誤認混同が生じたとする事例を挙げるが、いずれも、原告の社名を見て、被告と同一の会社であると誤認した「社名誤認」の事例にすぎず、被告各標章が本件商標と類似しているために需要者が商品又は役務の出所を混同し、本件サービスを原告が提供していると思い込んで選択した事例ではない。
また、原告が主張する「逆混同」は誤認混同には当たらない。
(3) 争点3(商品、役務の類否)について
(原告の主張)
ア 本件ソフトウェアは、本件商標の指定商品である「電子計算機用プログラム」と同一の商品である。
イ 本件クラウドプログラムの提供は、「電子計算機用プログラムの提供」という役務の提供に当たるところ、当該役務と、本件商標の指定商品である「電子計算機用プログラム」は、これらに同一又は類似の商標を使用した場合、同一の事業者が提供していると需要者に誤認させるおそれがある関係にあるから、類似している。
ウ 本件ソフトウェアのダウンロードページ及び本件ウェブサイトの表示は、本件ソフトウェアという商品及び本件クラウドプログラムの提供という役務に関する広告であるから、上記ア及びイのとおり、本件商標の指定商品である「電子計算機用プログラム」と同一の商品ないし類似する役務について、被告各標章を使用するものである。
(被告の主張)
ア 本件ソフトウェアは「商品」に該当せず、また、仮に本件ソフトウェアが「商品」に当たるとしても、被告が被告各標章についての商標的使用を行っている役務は本件サービスであり、本件商標の指定商品とは類似しない。
イ 仮に被告が被告各標章についての商標的使用を行っている商品、役務が本件ソフトウェアであるとしても、利用者相互の通信サービスの提供のために附随的に提供される本件ソフトウェアと、「商品」としての(購入・インストールの際に対価を支払う買い切り型の)「電子計算機用プログラム」とは類似しない。また、圧倒的な著名性を有する本件サービスを利用することのみを用途・目的とする本件ソフトウェアに、第三者の登録商標と同一又は類似の標章が使用されていたとしても、当該第三者の電子計算機用プログラムと誤認されるおそれはない。
(4) 争点4(差止請求の可否)について
(原告の主張)
原告は、本件商標権に基づき、被告による被告各標章の使用を差し止めることができる。
(被告の主張)
差止請求の判断基準時は、事実審の口頭弁論終結時であるところ、令和2年以降、日本における本件サービスのシェアは大幅に増加しており、遅くとも同年7月時点では、本件サービスの名称及び被告各標章の周知性又は著名性により、需要者において誤認混同が生じるおそれがなくなっている。
(5) 争点5(商標法26条1項1号又は6号の抗弁)について
(被告の主張)
別紙表示目録7における「Zoomのセキュリティ対応」という表示中の「Zoom」は、その表示の下に「~Zoomのセキュリティ対応、その他のブログ記事、ウェビナー開催情報~」と記載されていることからすれば、本件サービスを指しているのではなく、セキュリティ対応、ブログ記事投稿及びウェビナー開催を行う被告自身を指しているにすぎないから、商標的使用に当たらない。
また、上記表示は、被告の商号の著名な略称であるZoomを普通に用いられる方法で表示しているものである。
したがって、上記被告標章2の使用については、商標法26条1項1号又は6号により、本件商標権の効力が及ばない。
(原告の主張)
否認ないし争う。
本件ウェブサイトの「Zoomのセキュリティ対応」の表示は、被告が提供する本件ウェブ会議サービスを示すもの(本件サービスについてどのようなセキュリティ対応をしているのか、本件サービスに関するブログ記事、本件サービスに関するウェビナーの開催情報の紹介)として使用されており、被告の社名の略称として使用されているのではない。
(6) 争点6(登録商標使用の抗弁)について
(被告の主張)
ア 被告は、本件関連商標権1及び2を有しており、被告による被告各標章の使用は、本件関連商標1及び2と同一又は類似の標章を、その指定役務に当たる本件サービスに使用しているにすぎないから、被告が有する商標専用権の範囲内にある適法行為である。
イ 被告は、令和6年3月29日に、訴外トンボから、本件関連商標権3の分割移転を受け、当該分割移転は、同年4月22日付けで登録されている。したがって、仮に、令和6年4月22日以降に、被告による「電子計算機用プログラム」に関する被告各標章の使用行為が存在するとしても、被告が有する専用権の範囲内の行為であるから、被告には登録商標使用の抗弁が成り立つというべきである。
(原告の主張)
本件関連商標1及び2は、本件ソフトウェアに使用されており、第9類の「電子計算機用プログラム」に関する使用であるから、第38類及び第42類で商標登録がされていたとしても、商標権侵害の成立は否定されない。仮に、第42類の「電子計算機用プログラムの提供」での使用であるとしても、第9類の「電子計算機用プログラム」と類似するから、被告標章1の商標登録は無効とされるべきものである。また、被告標章2ないし5は、登録商標とは同一でないから、抗弁は成立しない。
なお、本件関連商標3については、令和6年3月28日に不使用を理由として商標登録を取り消す旨の審決がされており、審判請求の登録日である令和3年2月26日に遡って取消しの効力が生じている。
(7) 争点7(権利濫用の抗弁)について
(被告の主張)
ア 本件商標は、指定商品の一部である「電子計算機用プログラム(動画の撮影・編集のためのスマートフォン用電子計算機用プログラム、音響・音楽の録音・編集のためのスマートフォン用電子計算機用プログラムを除く)」、「電子計算機用プログラム(音響機器用の電子計算機用プログラム、ビデオレコーダーの操作用の電子計算機用プログラム、動画の撮影・編集又は音響・音楽の制作・録音・編集のための電子計算機用プログラム、動画の撮影・編集のためのスマートフォン用電子計算機用プログラム、音響・音楽の録音・編集のためのスマートフォン用電子計算機用プログラムを除く)」、「ウェブ会議・遠隔会議・ビデオ会議・テレビ会議用の電子計算機用プログラム」、「ウェブ会議・遠隔会議・ビデオ会議・テレビ会議のためのクラウドコンピューティングを介した通信用の電子計算機用プログラム、ウェブ会議システム・遠隔会議システム・ビデオ会議システム・テレビ会議システムの運営用の電子計算機用プログラム」、「インターネット及びその他の通信ネットワークのユーザー間の通信用の電子計算機用プログラム」について、継続して3年以上、日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれによっても使用されておらず、上記指定商品の登録は取り消されるべきである。そして、本件サービスは、あくまでもウェブ会議における利用者相互の映像データや音声データ等の通信に用いる電子計算機プログラムの提供を行うサービスであるから、上記指定商品を除いた指定商品(以下「除外後指定商品」という。)とは用途・目的が全く異なり、相互に類似するものではないから、非類似である。原告は、登録が取り消されるべき指定商品が本件商標の指定商品に含まれていることを奇貨として、被告の本件商標権侵害を主張しており、かかる主張は原告による本件商標権の濫用である。また、仮に、本件サービスにおいて提供される本件ソフトウェアが第9類の「電子計算機用プログラム」に当たり、本件ソフトウェアと原告の指定商品が同一であるとしても、本件ソフトウェアと除外後指定商品は非類似であり、いずれにしても原告による本件商標権の濫用である。
イ 本件商標は、特殊なデザイン以外の部分による自他商品の識別力はないか、著しく低いので、被告が、このような特殊なデザインを有しない被告各標章を本件サービスに使用しても、本件商標の出所識別機能を害することはない。他方で、被告各標章は需要者において直ちに本件サービスを示すものであることが分かるほど著名な標章であり、本件商標権に基づく被告各標章の使用に関する商標権侵害が仮に認められるとすれば、被告各標章が現実の取引において果たしている圧倒的な出所識別機能を著しく害し、これに対する一般需要者の信頼も損ねることになるから、原告による本件商標権の行使は、権利濫用として許されない。
ウ 本件商標は、先願である本件関連商標3と外観、称呼及び観念において類似するものであり、指定商品も同一であるから、本件商標には商標法4条1項11号の登録拒絶理由及び無効理由があったこととなる。
そうすると、本件関連商標権3を有する被告に対して、原告が本件商標権を行使することは、商標法の趣旨に反するものであり、権利濫用と評価されるべきであって、許されない。
(原告の主張)
ア 商標登録取消しの効果は、審判請求の登録日よりも前には遡及しないから、同日以前の被告による商標権侵害の責任につき何ら影響を与えるものではない。また、現行の取扱いにおいては、「電子計算機用プログラム」を一つの商品、「電子計算機用プログラムの提供」を一つの役務としており、特定の用途、目的の記載はない。
イ 本件ソフトウェアの用途、目的は、①動画・音声を撮影し、これを端末から出力・送信する、②撮影した動画や音声を録画・録音し、(端末に)保存する(MP4形式、M4A形式)、③保存した動画や音声を編集ないしは2次利用することなどであり、本件クラウドプログラムの用途、目的は、①端末から送信される動画・音声を他の端末に伝送する、②端末から送信される動画・音声をクラウド上に保存する(MP4形式、M4A形式)、③保存した動画や音声を編集ないしは2次利用することなどであるところ、被告の主張する本件商標権の除外後指定商品と用途、目的に顕著な差はなく、需要者層も重なっており、また、原告のソフトウェアにおいても、上記機能、用途を備えているものが多く存在する。
ウ また、原告による本件商標の取得経過や取得意図、商標権行使の態様には何ら問題がなく、権利濫用の抗弁が認められる余地はない。
エ 被告は、本件商標の出願時において、本件関連商標3を使用していたことはなく、同商標が被告の業務に係る商品等を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたこともあり得ないから、原告による本件商標権の行使は権利濫用には当たらない。
また、被告が本件関連商標権3の分割移転の登録を受けたのは令和6年4月22日であるから、それ以前の被告の行為に対して、本件関連商標3の分割移転を理由として権利濫用の抗弁が成立する余地はない。
なお、本件関連商標3については、令和6年3月28日に「電子計算機用プログラム」について不使用を理由とする取消審決がされており、審判請求の登録日である令和3年2月26日に遡って取消しの効力が生じているから、被告が商標の移転を受けた令和6年4月22日以降の被告の行為に対しても、原告が本件商標権を行使することは権利濫用に当たらない。
(8) 争点8(原告の損害及び額)について
(原告の主張)
本件商標権の侵害により原告に発生した損害は、①本件サービスの有償契約に係る本件商標の使用に対し受けるべき金銭の額(商標法38条3項)、②本件ソフトウェアの無料ダウンロードに係る本件商標の使用に対し受けるべき金銭の額(同項)、③本件商標の希釈化、信用毀損による損害である。詳細は別紙「損害に関する原告の主張」のとおりである。
(被告の主張)
否認ないし争う。
詳細は別紙「損害に関する被告の主張」のとおりである。
(9) 争点9(被告の不当利得)について
(原告の主張)
被告は、使用料を支払わないまま本件商標権に類似する被告各標章を使用し、法律上の原因なく利益を得ており、原告はライセンス料相当額の損失を被っている。被告の不当利得の額は、上記(8)(原告の主張)の本件商標の使用に対し受けるべき金銭の額と同額である。また、被告は、原告からのメールを受領した平成30年10月15日以降は、使用料を支払わなければならないことを認識しており、悪意の受益者である。
(被告の主張)
否認ないし争う。
本件商標には信用が蓄積されておらず、価値がなく顧客吸引力が認められないから、実施料を支払って使用する者がいることは通常想定し得ず、商標権者が使用料相当額の利得を受けることができたとは認められない。また、平成30年10月15日に原告から被告に対し送付されたメールには、被告が本件商標権を侵害していることはおろか、原告が本件商標権を保有していることすら記載されていないから、同メールをもって被告が原告に本件商標の使用料を支払わなければならないことを認識していたとはいえない。
なお、商標法38条3項は、民法709条に基づく損害賠償請求を行う場合に損害額の推定を認めた規定であって、民法703条及び704条に基づく不当利得返還請求が可能な金額の推定を認めるものではない。
(10) 消滅時効の抗弁(争点10)
(被告の主張)
ア 原告は、平成30年10月15日に被告に対してメールを送っており、遅くとも同日時点で、原告が主張するところの損害及び加害者を知っていたといえる。
イ 原告が、訴えの変更申立書により損害賠償請求を追加したのは令和4年10月19日であるところ、原告の主張する不法行為に基づく損害賠償請求権のうち、令和元年10月18日以前に発生した部分については時効が完成しているから、消滅時効を援用する。
ウ 不当利得返還請求権についても、時効の完成猶予、更新の効力が生じ得るとしても、その時期は、原告が不当利得返還請求の主張をした原告準備書面(6)の提出日である令和6年6月17日(少なくとも不法行為に基づく損害賠償請求を追加した令和4年10月19日)であるから、平成26年6月16日(少なくとも平成24年10月18日)以前に生じた部分については時効が完成しており、消滅時効を援用する。
(原告の主張)
争う。
ア 原告が、訴訟提起当初から、商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権につき、権利行使の意思を有していたことは明白であり、令和3年11月30日の訴訟提起により時効中断効が認められる。したがって、仮に不法行為に基づく損害賠償請求権につき消滅時効が成立するとしても、平成30年11月29日以前に発生した部分に限られる。
イ 不当利得返還請求権についても、本件訴訟の提起により時効中断効が認められるから、仮に不当利得返還請求権につき消滅時効が成立するとしても、平成23年11月29日以前に発生した部分に限られる。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実及び後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 本件システムは、複数のユーザーがその利用する端末から被告の管理するクラウド型サーバーにアクセスすることにより、同サーバーを介してこれらのユーザーの端末同士で映像や音声データ等の送受信(本件サービス)を行うことができるようにしたものである。
(2) ユーザーは、パソコン、スマートフォン等のインターネットに接続可能な端末に内蔵されているカメラの映像やマイクの音声を、インターネットを通じて被告が管理するサーバーに送信し、当該サーバーを介して、ウェブ会議の参加者である他のユーザーに送信、共有することができる。(甲113、乙12、弁論の全趣旨)
(3) 被告は、本件サービスを提供するために、クラウド上で本件クラウドプログラムを運用しており、ユーザーは、パソコンのブラウザやスマートフォンから本件クラウドプログラムに接続することで、ソフトウェアをダウンロードすることなく本件サービスを利用することができる。(乙76、弁論の全趣旨)
(4) ユーザーが、本件サービスを利用するに当たり、独自のミーティングやスケジュールを設定する場合には、被告のウェブサイトやアプリストアから、無料で提供されている本件ソフトウェアをダウンロードする必要がある。(甲7、弁論の全趣旨)
(5) ユーザーが、被告のウェブサイト、プロダクト、サービス、関連ソフトウェアを使用等するためには、被告の定めるサービス規約を遵守及び承諾することが条件とされており、ユーザーは被告のサービスの利用等をした時点で上記規約等に同意したものとみなされる。(甲4)
(6) ユーザーが、本件サービスを利用してウェブ会議を開催するためには、被告からライセンスの付与を受ける必要があるところ、ライセンスには無料で提供されるもののほか、「プロ」、「ビジネス」などの名称が付いた有料で提供されるものもある。(甲5、乙77)
2 争点1(被告による被告各標章の使用)について
(1) 被告標章2の使用
ア 別紙表示目録記載2における表示
前提事実(4)のとおり、本件ソフトウェアのサインイン後の画面である別紙表示目録記載2の表示中には、別紙被告使用標章目録記載1の表示があるところ、同表示は、角が丸い略正方形の青い背景の中央に白いビデオカメラ様のイラストが配置された図形部分と、被告標章2と同一である一般的なフォントで記載されたアルファベットの「Zoom」が少し間を空けて一列に並んだものである。このような構成に照らせば、図形部分と文字部分は、取引上不自然であると思われるほどに不可分的に結合しているとは認められず、図形部分及び文字部分のそれぞれについて出所識別機能を有するものと認められる。
したがって、本件ソフトウェアのサインイン後の画面において、被告標章2が使用されているものと認められる。
イ 別紙表示目録記載4における表示
前提事実(4)のとおり、本件ソフトウェア等のダウンロードページである別紙表示目録記載4の表示中には、別紙被告使用標章目録記載2の表示があるところ、同表示は、一般的なフォントで記載された「ミーティング用Zoomクライアント」との文字列である。証拠(甲7)によれば、同表示は、ユーザーに対し、ダウンロードの対象を示すタイトルであるところ、被告表示2のうち「ミーティング用」の部分は、用途、場面を示すものであり、「クライアント」の部分は顧客ないしソフトウェアを示すものであるから、いずれも出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認めるのが相当であり、被告標章2と同一である「Zoom」の部分のみが出所識別機能を有するものといえる。
したがって、本件ソフトウェア等のダウンロードページにおいて、被告標章2が使用されているものと認められる。
ウ 別紙表示目録記載5における表示
前提事実(4)のとおり、本件ソフトウェアのサインイン後の画面である別紙表示目録記載5の表示中には、別紙被告使用標章目録記載3の表示があるところ、同表示は、一般的なフォントで記載された「Zoomミーティング」との文字列である。上記イのとおり、同表示のうち、「ミーティング」の部分は会議を示すものであるから、出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認めるのが相当であり、被告標章2と同一である「Zoom」の部分のみが出所識別機能を有するものといえる。
したがって、本件ソフトウェアの起動時の画面において、被告標章2が使用されているものと認められる。
エ 別紙表示目録記載6における表示
前提事実(4)のとおり、ウェブページから本件サービスを利用する際の当該ウェブページの画面である別紙表示目録記載6の表示中には、別紙被告使用標章記載4の表示があるところ、同表示は、角が丸い略正方形の青い背景の中央に白いビデオカメラ様のイラストが配置された図形部分と、少し間を空けて「ミーティングに参加する-Zoom」の文字列が一列に並んだものである。このような構成に照らせば、図形部分と文字部分は、取引上不自然であると思われるほどに不可分的に結合しているとは認められない。そして、文字部分のうち「ミーティングに参加する」の部分は、会議に参加することを示すものであるから、出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認めるのが相当であり、被告標章2と同一である「Zoom」の部分のみが出所識別機能を有するものといえる。
したがって、ウェブページから本件サービスを利用する際の当該ウェブページの画面において、被告標章2が使用されているものと認められる。
(2) 本件ソフトウェアの「商品」該当性
商標法2条3項が規定する「商品」とは商取引の目的たり得べき物をいうものと解されるところ、認定事実(4)、証拠(甲131、165)及び弁論の全趣旨によれば、本件ソフトウェアを使用した本件サービスの利用は、ウェブブラウザを介して本件サービスを利用する場合と比較して、使用することができる機能が多く、利便性が高いとされていることが認められる。
そうすると、本件ソフトウェアは、ユーザーが本件サービスを利用するに当たり、付加的な価値があると認められ、独立して商取引の目的たり得べき物であるということができるから、商標法2条3項所定の「商品」に当たると認められる。本件ソフトウェアが現在無料で提供されていることなど、被告が主張する事情は、本件ソフトウェアの「商品」該当性を左右するものではない。
(3) 被告による被告各標章の使用について
前提事実(4)及び上記(1)及び(2)によれば、次のとおり、被告各標章につき、被告による商標法2条3項各号の使用行為が認められる。
ア 本件ソフトウェアの起動画面には被告標章1又は4が、サインイン後の画面には被告標章2が、本件ソフトウェアをダウンロードした端末の画面に被告標章3又は5がそれぞれ表示されるところ、このように、被告が被告各標章を付した本件ソフトウェアを提供する行為は、商標法2条3項2号の使用に当たる。
イ 被告は、本件サービスの提供に当たり、本件クラウドプログラムをユーザーに提供し、ユーザーは、本件ソフトウェアを介して、又はウェブブラウザから本件クラウドプログラムに接続して本件サービスを利用するところ、ユーザーの端末における本件ソフトウェアの起動画面等には被告標章1又は4が、ウェブページの画面には被告標章2が表示されるところ、このように、被告が、本件サービスを提供するに当たり、被告標章1、2及び4を表示して本件クラウドプログラムを提供する行為は、商標法2条3項7号の使用に当たる。
ウ 本件ウェブサイトでは、被告標章1、2及び4の表示と共に、本件サービスの内容や機能、優位性等が説明されており、本件ソフトウェアのダウンロードページにおいても、被告標章1、2及び4の表示と共に、本件ソフトウェアの内容ないし機能の説明がされているところ、このように、被告が被告標章1、2及び4を付して本件ソフトウェアや本件サービスに関する内容、機能等を宣伝することは、商標法2条3項8号の使用に当たる。
3 争点2(本件商標と被告各標章の類否)について
(1) 商標の類否判断の基準
商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品又は役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品又は役務の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。そして、商標はその構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから、みだりに、商標構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定することは許されない。もっとも、簡易、迅速を尊ぶ取引の実際においては、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるから、この場合、一つの称呼、観念が他人の商標の称呼、観念と同一又は類似であるとはいえないとしても、他の称呼、観念が他人の商標のそれと類似するときは、両商標はなお類似するものと解するのが相当である(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照)。
(2) 本件商標について
本件商標を全体として観察すれば、均等な大きさであり、かつ、同じ太さの線、同じ高さ、同じ幅から成る4つの部分が一列に並んだ構成が看取され、全体として何らかの文字ないし単語をデザイン化したものと考えることができ、最後の部分がアルファベットの「M」と比較的容易に解することができることなどに照らせば、全体がアルファベット4文字で構成されているものと捉えた上で、「ZOOM」という一般的な単語を表すものと理解することができる。
したがって、本件商標は、アルファベットの黒色の「ZOOM」をデザイン化したものとして、「ズーム」との称呼、及び「(カメラなどの)ズーム機能」との観念が生じる。
これに対し、被告は、本件商標は看者をして特定の文字や数字を表したものと理解することができず、図形を含んだ2つ又は3つの構成部分から成るものとして把握する可能性が考えられるなどと主張する。
確かに、本件商標の中央の二つの文字部分は、同一形状のものが左右対称に並べられることで、アルファベットの「C」を対面させたものや、無限大を表す「∞」の記号をデザイン化したものであると見ることもできるなど、一見すると多様な見方が生じ得るものといえる。しかし、仮に中央の二つの文字部分を上記のように解した場合、本件商標から特定の観念や称呼を導くことは困難であり、本件商標に接した看者においては、本件商標を全体として見てその意味や読み方を抽出しようとするのが合理的であることからすると、本件商標については、上記のとおり、全体としてアルファベットの「ZOOM」をデザイン化したものと理解するのが比較的に無理のない見方であるといえるから、被告の上記主張は採用することができない。
(3) 被告各標章について
ア 被告標章1
被告標章1は、アルファベットの「ZOOM」を青色の丸みのあるフォントで表示したものであり、「ズーム」との称呼、及び「(カメラなどの)ズーム機能」との観念が生じる。
イ 被告標章2
被告標章2は、アルファベットの「Zoom」を一般的なフォントで表示したものであり、「ズーム」との称呼、及び「(カメラなどの)ズーム機能」との観念が生じる。
ウ 被告標章3
被告標章3は、角が丸い略正方形の青い背景の中央に白いビデオカメラ様のイラストが配置され、当該背景部分の下部に上記ビデオカメラ様のイラストの半分ほどの大きさのアルファベットの「Zoom」が白色の一般的なフォントで記載されているものである。
被告標章3は、角が丸い略正方形の青い背景の中央に白いビデオカメラ様のイラストが配置された図形部分と、「Zoom」の文字部分が結合した標章であると認められるところ、上記のような構成からすれば、図形部分と文字部分は、取引上不自然であると思われるほどに不可分的に結合しているとは認められない。そうすると、被告標章3については、その全体として出所識別機能を有するほか、図形部分及び文字部分のそれぞれについても出所識別機能を有するものと認められる。そこで、文字部分を分離して観察すると、「ズーム」との称呼、及び「(カメラなどの)ズーム機能」との観念が生じる。
エ 被告標章4
被告標章4は、アルファベットの「ZOOM」を白色の丸みのあるフォントで表示したものであり、「ズーム」との称呼、及び「(カメラなどの)ズーム機能」との観念が生じる。
オ 被告標章5
被告標章5は、角が丸い略正方形の青い背景の中央に白色の丸みのあるフォントでアルファベットの「ZOOM」が記載され、当該背景部分の下部に上記文字とほぼ同じ大きさのアルファベットの「Zoom」が白色の一般的なフォントで記載されているものである。
被告標章5は、角が丸い略正方形の青い背景の中央に白色の丸みのあるフォントでアルファベットの「ZOOM」が記載された部分と、「Zoom」の文字部分が結合した標章であると認められるところ、上記のような構成からすれば、各部分は、取引上不自然であると思われるほどに不可分的に結合しているとは認められない。そうすると、被告標章5については、その全体として出所識別機能を有するほか、上記各部分のそれぞれについても出所識別機能を有するものと認められる。そこで、「Zoom」の文字のみの部分を分離して観察すると、「ズーム」との称呼、及び「(カメラなどの)ズーム機能」との観念が生じる。
(4) 本件商標と被告各標章の類否
ア 本件商標と被告標章1の比較
本件商標と被告標章1の外観は、上記(2)で説示したとおり、本件商標が多分にデザイン化され、一見すると多様な見方が生じ得るものであるため、外観上の差異があることは否定することができないものの、両者は「ZOOM」をデザイン化したものである点で共通しており、その意味で外観において類似しているものといえる。また、本件商標と被告標章1からは、いずれも「ズーム」との称呼、及び「(カメラなどの)ズーム機能」との観念が生じるから、称呼及び観念において同一である。
イ 本件商標と被告標章2の比較
本件商標と被告標章2は、上記(2)で説示したとおり、本件商標が多分にデザイン化され、一見すると多様な見方が生じ得るものであるため、外観上の差異があることは否定することができないものの、本件商標は「ZOOM」をデザイン化したものとして理解することができるから、アルファベットの「Zoom」の4文字から成る被告標章2とは外観において類似しているものといえ、また、上記アで説示したところと同様、称呼及び観念において同一である。
ウ 本件商標と被告標章3の比較
上記(3)ウのとおり、被告標章3については、文字部分のみを分離して観察することが可能であるから、本件商標と当該部分を比較すると、上記ア及びイで説示したところと同様、外観において類似しているものといえ、また、称呼及び観念において同一である。
エ 本件商標と被告標章4の比較
本件商標と被告標章4の外観は、上記アないしウで説示したところと同様、外観において類似しているものといえ、また、称呼及び観念において同一である。
オ 本件商標と被告標章5の比較
上記(3)オのとおり、被告標章5については、「Zoom」の文字部分のみを分離して観察することが可能であるから、本件商標と当該部分を比較すると、上記アないしエで説示したところと同様、外観において類似しているものといえ、また、称呼及び観念において同一である。
カ 取引の実情
(ア) 証拠(乙93~112、120~225)及び弁論の全趣旨によれば、本件サービスに関し、以下の事実が認められる。
a 被告は、2011年(平成23年)に設立され、2012年(平成24年)から、日本を含む全世界において、企業や個人に対し、「Zoom」の標章を用いて、ウェブ会議及びそれに関連するサービスを提供している。
b 2019年(令和元年)には、日本において、40万人を超えるユーザーにより、800万件を超えるウェブ会議が実施された。
c 2020年(令和2年)には、新型コロナウイルスの感染拡大と政府による緊急事態宣言が発令される中で、日本において、テレワーク導入企業が急増し、これに伴い本件サービスを含むウェブ会議システムの利用率も大幅に伸び、2019年(令和元年)12月末の日本での利用率は44%だったところ、2020年4月末には63%にまで上昇し、その中で、本件サービスのシェアは、同年5月時点で35%、令和3年10月には61%となった。
d 本件サービスについては、2020年(令和2年)6月以降、利用数が飛躍的に増え、同年1年間で、ライセンスを10以上取得している日本国内顧客数が2,500社から20,000社に増加し、同年8月から10月にかけて行われた調査によれば、「Zoom」の認知度は74.7%であった。
e 本件サービスは、2020年(令和2年)のコロナ禍において、企業活動の場面だけではなく、大学の授業等の教育現場でも広く利用されるようになった。
f 「Zoom」は、「Yahoo!検索対象2020」の流行語部門賞を受賞したほか、2020年(令和2年)の「DIMEトレンド大賞」の「IT部門賞」を獲得した。
(イ) 上記(ア)の事実によれば、新型コロナウイルスの感染拡大等に伴う社会状況の変化を受け、本件サービスを含むウェブ会議システムの利用率は大幅に伸び、その中で被告による本件サービスのシェアも大幅に増加した結果、令和2年7月以降におけるウェブ会議サービスとしての「Zoom」の認知度が74.7%という圧倒的な数値に達するなど、「Zoom」を含む被告各標章については、遅くとも同月以降、ウェブ会議サービスに関する事項に使用する場合、一般の需要者において、被告の出所を識別する著名な表示として認識されていたものと認められるから、本件商標と被告各標章の類否を検討する上においても、かかる事情は取引の実情として考慮するのが相当と認められる。
(ウ) これに対し、原告は、商標の類否判断に当たり考慮することができる取引の実情は、指定商品や役務の全般についての一般的、恒常的なものであって、単に当該商標が現在使用されている商品や役務についてのみの特殊的、限定的な事情は含まれないと解すべきであり、被告各標章が周知・著名であるかといった局所的あるいは浮動的な現象は、取引の実情として考慮すべきではないと主張する。
しかし、商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきものであるから、その判断に当たり考慮すべき取引の実情について、指定商品や役務の全般についての一般的、恒常的なものに限定されるものと解すべき理由はなく、原告の上記主張は採用することができない。
キ 以上を前提に、本件商標と被告各標章の類否を検討する。
上記アないしオのとおり、本件商標と被告各標章は、本件商標が多分にデザイン化され、一見すると多様な見方が生じ得るものであるため、外観上の差異があることは否定することができないものの、両者はアルファベットの「ZOOM」又は「Zoom」の文字それ自体ないしこれをデザイン化したものである点で共通しており、その意味でいずれも外観において類似しているものといえ、また、称呼及び観念において同一であるから、両者の外観、観念及び称呼を全体的に考察すれば、一応類似するものということができる。
もっとも、本件証拠上、原告において本件商標をウェブ会議サービスに使用していることは認められないのに対し、上記カのとおり、取引の実情として、被告各標章については、令和2年7月以降、ウェブ会議サービスに関する事項に使用する場合には、一般の需要者において、被告の出所を識別する著名な表示として認識されていたことが認められる。
以上を総合して全体的に考察すれば、被告各標章は、これをウェブ会議サービスに関する事項において使用する場合、令和2年6月までは、一般の需要者において、原告の出所を識別するものとして誤認混同するおそれがあったと認められるものの、同年7月以降については、これが被告の出所を識別する著名な表示として認識されることになった結果、もはや原告の出所を識別するものとして誤認混同するおそれがあると認めることはできない。
なお、原告は、本件ソフトウェアの利用方法等について原告に問い合わせる例が相次いでいることなど、現に誤認混同が生じていると主張するが、原告が主張する事例は、いずれも原告の商号をもって本件サービスを提供するものであると誤認したものと解することができるのであって、本件商標と被告各商標が類似していることに起因するものとは直ちに認め難いから、原告の上記主張は採用することができない。
また、原告は、商標権者の商品等の出所が侵害者であると誤認混同させる場合である、いわゆる「逆混同」も商品の出所に係る誤認混同に当たると主張するが、本件商標が付された原告の製品につき、その出所が被告であると誤認混同するような事例が生じていることや、そのようなおそれがあると認めるに足りる証拠はないから、原告の上記主張は採用することができない。
4 争点3(商品、役務の類否)について
(1) 商品、役務の類否判断の基準
指定商品・役務が類似のものであるかどうかは、それらの商品・役務が通常同一営業主により製造・販売又は提供されている等の事情により、それらの商品・役務に同一又は類似の商標を使用する場合には、同一営業主の製造・販売又は提供する商品・役務と誤認されるおそれがあると認められる関係があるか否かによって判断するのが相当である(最高裁昭和33年(オ)第1104号同36年6月27日第三小法廷判決・民集15巻6号1730頁参照)。
(2) 本件サービスの提供
本件サービスは、本件クラウドプログラムをユーザーに提供することで実現されているところ、本件クラウドプログラムについては、これがユーザーに提供され、ユーザーにおいてパソコンのブラウザやスマートフォンから接続することで本件サービスを利用することができるようになるものであるから、本件クラウドプログラムの提供は「電子計算機用プログラムの提供」に該当し、当該役務と本件商標の指定商品である「電子計算機用プログラム」は、これらに同一又は類似の商標を使用する場合には、同一営業主の製造・販売又は提供する商品・役務と誤認されるおそれがあると認められる関係にあるから、類似するものであると認められる。
これに対し、被告は、被告が被告各標章を付して提供しているのはウェブ会議サービスである本件サービスであり、第38類の「テレビ会議用通信端末による通信、ビデオによる遠隔会議、テレビ会議通信端末による通信、ウェブ会議通信」に該当するとし、ウェブ会議サービスと「電子計算機用プログラム」では、その用途も機能も全く異なるものであるし、その販売方法や提供方法も必ずしも一致しないとして、非類似であると主張する。しかし、本件商標の指定商品である「電子計算機用プログラム」について用途等の限定はなく、本件クラウドプログラムの提供がウェブ会議サービスである本件サービスの提供を目的とするものであるとしても、上記判断を左右するものではない。
したがって、本件サービスの提供における被告標章1、2及び4の使用は、本件商標の指定商品と類似する役務の提供についての使用と認められる。
(3) 本件ソフトウェア
本件ソフトウェアが、商標法が規定するの「商品」に当たることは、上記2(2)のとおりである。
そうすると、本件ソフトウェアは、「電子計算機用プログラム」に当たると認められるから、本件ソフトウェアにおける被告各標章の使用は、本件商標の指定商品と同一の商品についての使用と認められる。
なお、本件ソフトウェアがウェブ会議サービスである本件サービスのみに用いられるものであるとしても、上記(2)と同様に、上記類否の判断を左右するものではない。
(4) 本件ウェブサイト及び本件ダウンロードページ
上記2(3)ウのとおり、被告は、本件ウェブサイト及び本件ソフトウェアのダウンロードページにおいて、本件クラウドプログラムの提供により実現されている本件サービスや本件ソフトウェアの内容、機能等を紹介等しているところ、本件クラウドプログラムの提供における被告標章1、2及び4の使用は、本件商標の指定商品と類似する役務の提供についての使用と認められることは、上記(2)及び(3)のとおりである。
5 争点4(差止請求の可否)について
原告の被告に対する本件商標権に基づく差止請求の可否につき、その判断の基準時は口頭弁論終結時であるところ、上記3のとおり、令和2年7月以降は、被告各標章の使用につき、本件商標との間で出所の誤認混同を認めることはできないから、口頭弁論終結時点において、本件商標権の侵害は認められない。
したがって、原告の被告に対する本件商標権に基づく上記使用の差止請求は理由がない。
6 争点5(商標法26条1項1号又は6号の抗弁)について
被告は、別紙表示目録7の「Zoomのセキュリティ対応」との表示における被告標章2の使用は、商標法26条1項1号又は6号により、本件商標権の効力が及ばないと主張する。
別紙表示目録7は、本件ウェブサイトの表示であり、「Zoomのセキュリティ対応」との表記の下には、小さな文字で「~Zoomのセキュリティ対応、その他のブログ記事、ウェビナー開催情報~」と記載されているところ、かかる記載に加え、本件ウェブサイトが被告のものであること、「Zoom」が被告の略称と解されることも踏まえれば、上記「Zoom」の記載は、いずれも上記各事項の主体である被告自身を指すものとして使用されていると認めるのが相当であり、商標的使用には該当しない。
したがって、別紙表示目録7における被告標章2の使用については、商標法26条1項6号により、本件商標権の効力が及ばない。
7 争点6(登録商標使用の抗弁)について
(1) 被告は、被告による被告各標章の使用は、被告が保有する本件関連商標1及び2の使用であるから、被告の当該商標に係る専用使用権の範囲内の行為であると主張する。
しかし、上記3及び4のとおり、令和2年6月以前の時点における被告による被告各標章の使用は、本件商標と類似する標章を、本件商標の指定商品と同一又は類似する商品又は役務に使用するものであるから、仮に被告が被告標章1について商標登録し、上記使用が被告の保有する登録商標についての指定商品又は役務に係る使用に当たるとしても、本件商標権の侵害行為に係る上記判断を左右するものではない。
なお、本件関連商標2に関しては、令和2年6月よりも後に商標登録されたものであるから、当該商標の使用は、同月以前の本件商標権の侵害行為に係る上記判断を左右するものではない。
(2) また、被告は、被告が訴外トンボから移転を受けた本件関連商標3を使用するものであるとも主張するが、当該移転の登録日は令和6年4月22日であるから、当該商標の使用は、同目録記載2と同様に、令和2年6月以前の本件商標権の侵害に係る判断を左右するものではない。
8 争点7(権利濫用の抗弁)について
(1) 被告は、本件商標に関し、その指定商品である「電子計算機用プログラム」の一部が、不使用を理由に取り消されるべきであり、取消後の本件商標の指定商品は、被告による被告各標章の使用に係る商品及び役務と非類似であるところ、原告が、上記取り消されるべき指定商品が、本件商標の指定商品に含まれていることを奇貨として、被告による本件商標権の侵害を主張することは、権利の濫用に当たると主張する。
しかし、前提事実(2)のとおり、被告が、令和4年5月31日付けで、本件商標権の指定商品の一部につき、不使用を理由に、その商標登録を取り消す旨の審判を請求したものの、いまだ当該指定商品の一部について商標登録は取り消されておらず、また、仮に取り消されたとしても、取消しの効力は請求の登録日から生じるものであるから、令和2年6月以前の被告による被告各標章の使用につき、原告による本件商標権の行使が権利濫用に当たることを基礎付けることになるとはいえない。
(2) また、被告は、本件商標は、「電子計算機用プログラム」に使用されておらず、商標権者としての信用が化体していないにもかかわらず、著名である被告各標章の使用につき本件商標権の侵害を主張することは、権利の濫用に当たると主張する。
しかし、上記3のとおり、被告各標章につき著名性が認められるのは令和2年7月以降のことであり、同年6月以前における被告による被告各標章の使用についての主張は前提を欠くものであるから、採用することができない。
(3) さらに、被告は、本件商標は、先願である本件関連商標3と、外観、称呼及び観念において類似するものであり、指定商品も同一であるから、本件商標には商標法4条1項11号の登録拒絶理由及び無効理由があったところ、原告が、本件関連商標権3を譲り受けて保有する被告に対し、本件商標権を行使することは権利の濫用に当たると主張する。
しかし、本件関連商標3については、令和6年3月28日、不使用を理由に商標登録を取り消す旨の審決がされており、取消しの効力は請求の登録日である令和3年2月26日から効力が発生するものである。そうすると、本件関連商標3について、訴外トンボの信用が化体していたものということはできないし、当該商標と被告各標章が類似するとしても、当該商標を譲り受ける以前の被告による被告各標章の使用につき、これを保護すべき理由もない。
そうすると、被告が主張する上記事情をもって、令和2年6月以前の被告による被告各標章の使用につき、原告による本件商標権の行使が権利濫用に当たるとはいえない。
(4) その他、原告による本件商標権の行使が権利の濫用に当たることを基礎付ける事情を認めるに足りる証拠はなく、以上によれば、被告の上記主張はいずれも採用することができない。
9 争点8(原告の損害及び額)について
上記2ないし8のとおり、令和2年6月までの被告による被告各標章の使用は、別紙表示目録記載7における被告標章2の使用を除き、本件商標権を侵害するものであるから、以下、これによる原告の損害及び額について検討する。
(1) 商標法38条3項による損害額の推定
ア 関連する事情
(ア) 原告及びその製品
証拠(甲1、28、83、84、甲A1~54、乙267~274、283~285、329、330)及び弁論の全趣旨によれば、①原告は、ハンディオーディオ/ビデオレコーダー、マルチエフェクター、デジタルミキサー/マルチトラックレコーダーやその周辺機器等の音楽用電子機器の開発及び販売等をする株式会社であり、令和2年当時は東証JASDAQスタンダードに上場していたこと、②原告の同年の年間売上額は104億円を超えており、そのうち日本での売上げは9億円であったこと、③原告の製品は、日本国内の複数の雑誌、広告で取り上げられた実績があるほか、日本国外において、複数の雑誌等に掲載された実績があること、④音楽、オーディオ機器に関する分野で数多くの表彰を受けてきたこと、⑤原告が提供するソフトウェアが、動画・音声を撮影し端末からこれを出力・送信する機能や、撮影した動画や音声を録画・録音し、保存する機能、保存した動画や音声を編集等する機能を有することが認められるところ、一方で、⑥原告の開発、販売等をする製品は、専門的な機材であり、明らかに一般人を対象としたものではなく、その需要者は映像、音楽の製作に携わっている者であること、⑦原告の製品が紹介されている上記雑誌も、そのような需要者向けのものであること、⑧原告が提供するソフトウェアも、映像や演奏の録画・録音、編集、提供等を目的として利用されるものであることが認められる。
(イ) 市場の同一性等
本件サービスは、ウェブ会議サービスを提供するものであり、需要者として、会社員、学生など幅広く一般人を対象とするものといえるところ、原告の販売等する製品は、上記のとおり、映像、音楽の製作者等を対象としており、全く重ならないとまでは言えないものの、需要者について明確な違いがある。また、本件サービスにおいても、ウェブ会議の性質上、映像や音声のやりとりが行われるものの、上記のとおり原告の製品は専門的な機材であり、その高い性能や価格などの面を考えると、本件サービスに利用される機材、ソフトウェア等と原告の製品等との間の代替性、競合性は低いといえる。
(ウ) 本件商標の顧客吸引力等
上記(ア)の原告の活動実績等に鑑みれば、映像、音楽の分野において、原告及び本件商標には一定の知名度があると認められるものの、原告が取り扱う製品の専門性の高さからすれば、本件サービスの需要者である一般の会社員等を対象にした場合に、原告や本件商標が広く知られているとは認められず、本件商標に高い顧客吸引力があると認めるに足りる証拠はない。他方で、本件サービスが急激に普及した背景には、ウェブ会議という本件サービスの持つ性質が大きく影響したといえるから、被告が受けた利益についても、本件サービス自体の内容が大きく貢献しているものと認めるのが相当であり、本件商標に類似する被告各標章を付したことによる貢献は極めて限定的であるというべきである。
イ 損害額
(ア) 使用料率
商標法38条3項の使用の対価を算定するに当たっては、当該商標権の侵害があったことを前提として当該商標権を侵害した者との間で合意をするとしたならば、当該商標権者が得ることとなるその対価を考慮することができるところ(同条4項)、証拠(甲177)によれば、商品及び役務の区分第9類の商標の使用料率の平均値は売上額の2.7%である。この使用料率の平均値には、通常の合意による使用料率も含まれており、商標権を侵害した者との間で合意をする場合には、平均値より高い使用料率になり得ることからすれば、上記アの事情を踏まえても、原告の受けるべき金銭の額は、被告の売上額の●(省略)●を下回らないものと認める。
(イ) 売上額
a 本件サービスの有償契約につき、平成28年2月1日から令和2年6月30日までの日本における被告の売上額は、●(省略)●であることは、当事者間に争いがない。
そして、上記被告の売上高を被告レートに従い日本円に換算すると●(省略)●となることは当事者間で争いがないから、同額を上記期間の被告の売上額と認める。
b これに対し、原告は、上記米ドルを日本円に換算するに当たり、原告の被告に対する損害賠償債権は、外国の通貨をもって債権額が指定された金銭債権であるから、米ドルと日本円のいずれによっても請求することができるところ、日本円で請求する場合の為替レートは口頭弁論終結時のもので認定するのが相当であると主張する。
しかし、原告の被告に対する債権は、本件商標権侵害の不法行為に基づき発生するものであるから、原告の主張する外国の通貨をもって債権額が指定された金銭債権であるということはできない。そして、商標法38条3項による損害額を推定するに当たり、その基礎となる被告の売上げが米ドルであったとしても、日本で登録された本件商標権について、日本国内の侵害行為を問題にしている以上、被告の損害も日本円で算定するのが相当であり、また、不法行為に基づく損害賠償請求権が、本来、不法行為時に発生するものであることにも照らせば、各売上が生じた当時の為替レートに近いレートである被告レートを用いるのが最も合理的であるといえるから、原告の上記主張は採用することができない。
c なお、被告は、二重請求を防ぐ観点から、共同不法行為者とされる訴外NESICに対する売上額を上記金額から控除すべきと主張するが、本件において請求原因として主張されているのは、被告の単独での不法行為であって、訴外NESICに対する売上額を控除すべき関係にあるとはいえないから、被告の主張は採用することができない。
(ウ) 使用に対し受けるべき金銭の額
a 本件サービスの有償契約について本件商標の使用に対し受けるべき金銭の額は、上記(イ)aの売上額●(省略)●に使用料率●(省略)●を乗じたものであるから、●(省略)●(小数点以下切り捨て)となる。
【●(省略)●×●(省略)●≒166,219,358】
b 原告は、被告が、無償で本件ソフトウェアを提供し、一定の制限付きで利用させた後、有償プランへの移行を推奨し、誘引しており、その結果として有償契約を獲得し、収益を上げていること、本件ソフトウェアの無償でのダウンロードは、単に有償契約の獲得だけではなく、有償アプリの提供に伴う手数料の取得、本件サービスに価値を付加するなどの目的、メリットがあることから、本件商標権侵害による原告の損害は、上記aで計算した金額では評価し尽されていないと主張する。
しかし、原告が主張するような事例がどの程度生じているのか、また、被告がこれによりどの程度の利益を受けているのかを認めるに足りる的確な証拠はなく、さらに、原告が主張するメリットも具体的なものとは言い難い。そして、ユーザーによる無償での本件サービスの利用につき、有償契約への移行という観点から本件ソフトウェアの無償ダウンロードを問題とするのであれば、ユーザーが有償の契約に移行した場合の被告の利益は、現実的には、上記aで検討したものと重なるといえる上、ユーザーの利用が無償で利用することができる範囲にとどまる場合には、原告において財産的損害が生じたということが困難であるともいえる。
したがって、無償で本件ソフトウェアを提供した後、有償契約を獲得した場合について、別途損害を考慮することは相当ではなく、原告の上記主張は採用することができない。
ウ 損害の不発生について
被告は、被告による被告各標章の使用により原告に損害が発生することがあり得ないと主張するが、上記アで認定した事情を考慮しても、原告にはなお損害の発生を観念することができるのであって、被告の上記主張は採用することができない。
エ 小括
したがって、商標法38条3項による原告の損害は、1億6621万9358円であると認められる。
(2) 商標の希釈化、信用毀損による損害
原告は、本件商標権の侵害により、被告サービスないし本件サービスの問合せが原告に多数寄せられており、本件商標と原告との結び付きが希釈化されたほか、本件サービスの音質等の性能が低いことから、原告のブランドイメージが毀損されたとして、令和2年7月以降の原告の売上額の2%に相当する損害が生じている旨主張する。
しかし、本件商標が、日本国内の一般の需要者において著名であったと認めることができないことは、上記(1)のとおりであり、原告の主張する希釈化やブランドイメージの毀損についての具体的な事実を認めるに足りる証拠もない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
10 争点9(被告の不当利得)について
上記2ないし8のとおり、令和2年6月までの被告による被告各標章の使用行為は、本件商標権を侵害するものであるところ、被告は、被告各標章を使用することで法律上の原因なく利益を受け、原告はライセンス料相当額の損失を被ったと認められるから、原告は、被告に対し、民法703条に基づき、利得の返還を求めることができる。
そして、被告が原告に対し支払うべきライセンス料相当額については、本件に顕れた諸事情を考慮すれば、上記9で認定した平成28年2月から令和2年6月までの被告の売上額に使用料率を乗じた金額である1億6621万9358円をもって相当と認め、かつ、被告は、遅くとも本件訴状送達時には、上記利得に関し、悪意の受益者であったと認められる。
11 争点10(消滅時効の抗弁)について
(1) 前提事実(6)のとおり、原告が、平成30年10月15日に、被告に対し、本件サービスに係る問合せが寄せられている旨のメールを送っていることからすれば、原告は、遅くとも同日には、被告各標章の使用による本件商標権の侵害につき、損害及び加害者である被告を知っていたと認められるところ、原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権については、前提事実(7)のとおり、令和4年10月19日付けの訴え変更申立書において訴えを追加したことにより、時効の完成が猶予されたものと認められるから、上記請求権のうち、令和元年10月18日以前に発生した部分については、被告が消滅時効を援用したことにより、消滅したと認めるのが相当である。
これに対し、原告は、商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権については、原告において、本件訴訟を提起した当初から権利行使の意思を有していたことは明白であり、本件訴訟の提起により、同請求権につき、時効の完成が猶予されると主張する。しかし、前提事実(6)のとおり、原告は、本件訴訟の提起時は、被告に対し、被告標章1ないし3の使用の差止め及び広告からの削除のみを求めており、金銭の支払を求めていない以上、本件訴訟の提起をもって、不法行為に基づく損害賠償請求権について、裁判上の請求があったと認めることはできないから、原告の上記主張は採用することができない。
(2) なお、被告は、原告の被告に対する不当利得返還請求権についても、平成26年6月16日(少なくとも平成24年10月18日)以前に生じた分は時効により消滅していると主張するが、被告の主張を前提としても、上記10で認定した平成28年2月から令和2年6月までの不当利得返還請求権については、いずれも時効は完成していないから、主張自体失当である。
12 まとめ
原告は、不法行為に基づく損害賠償請求権と不当利得返還請求権とを選択的として、被告に対し、金銭の支払を求めているところ、上記9及び10によれば、平成28年2月から令和2年6月までの間の被告による被告各標章の使用につき、不法行為により原告の被った損害額と被告の不当利得額は同等であるものの、上記11のとおり、不法行為に基づく損害賠償請求権は、令和元年10月18日以前に発生した部分について時効により消滅しているから、不法行為に基づく損害賠償額につきその1割に当たる金額を弁護士費用として加算したとしても、不当利得額を下回ることは明らかである。
したがって、原告の被告に対する金銭請求については、不当利得返還請求権に基づくものにつきこれを認める。
第4 結論
よって、原告の請求は、主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
(裁判長裁判官 澁谷勝海 裁判官 本井修平 裁判官 浅川浩輝)
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