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更新日:13 時間前

原告 

株式会社村井敬合同設計 


同訴訟代理人弁護士 

庭山正一郎 

金子憲康 

採澤友香 


被告 

綜合商事株式会社 


同訴訟代理人弁護士 

小川憲久 

早川大地 

 

主文


 1 被告は、原告に対し、4620万円及びこれに対する令和6年11月20日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

 2 原告のその余の請求を棄却する。

 3 訴訟費用は、これを10分し、その3を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 

 

事実及び理由


第1 請求

 被告は、原告に対し、1億5388万9130円及びこれに対する令和6年11月20日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等

 1 事案の概要

 本件は、別紙原告商標目録記載1ないし3の各商標(以下「原告商標1」ないし「原告商標3」といい、これらを併せて「原告各商標」という。)に係る商標権(以下、原告商標1から3までに係る商標権を「原告商標権1」ないし「原告商標権3」といい、これらを併せて「原告各商標権」という。)を有する原告が、被告による自身の所有する物件を紹介する別紙被告ウェブページ目録記載1ないし3の各ウェブページ(以下「被告ウェブページ1」ないし「被告ウェブページ3」といい、これらを併せて「被告各ウェブページ」という。)に別紙被告標章目録記載1ないし3の各標章(以下「被告標章1」ないし「被告標章3」といい、これらを併せて「被告各標章」という。)を付す行為が原告各商標に係る商標権を侵害すると主張して、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償金1億5388万9130円(令和元年10月1日から令和6年9月30日までの損害として商標法38条3項に基づき算定される額)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和6年11月20日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

 なお、原告と被告の間においては、原告が被告に対し、本件各商標権に係る未払商標使用料ないし被告による商標の無断使用を理由とする不法行為に基づく使用料相当損害金の支払を求める先行訴訟(以下「前訴」という。)を提起し、その控訴審判決において、被告は、不法行為に基づき、平成28年4月1日から令和元年9月30日までの商標使用料相当損害金の支払を命じられ、同判決は確定した。本件訴訟は、原告が被告に対し、前訴において支払を求めた以後の期間に係る商標使用料相当損害金の支払を求めるものである。

 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(枝番を含む。以下特段の断りのない限り同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

  ⑴ 当事者等

   ア 原告は、建築の設計、監理、コンサルタント業務、不動産の管理等を目的とする株式会社である。(甲1)

   イ 被告は、不動産の保有及び賃貸等を目的とする株式会社である。(甲2)

   ウ 被告代表者であるY(以下「Y」という。)と原告代表者であるX(以下「X」という。)は兄弟であり、Xは平成9年から被告の取締役、平成11年12月1日からはYを含む3人の代表取締役の一人として被告の代表取締役に就任し、被告の不動産事業を担当していたが、平成26年9月15日付けの被告取締役会において代表取締役から解職され、平成27年2月19日付け被告株主総会において取締役からも解任された。(甲43、51、乙109~111)

  ⑵ 原告の商標権

 原告は、原告各商標に係る商標権(原告各商標権)を有しているほか、登録商標を「日本芸術センター」とする商標権(登録番号第5204518号。以下、当該商標を「原告関連商標」という。)を有している。(甲7~12、23)

  ⑶ 被告による不動産事業

 被告は、平成10年頃、不動産事業を開始し、以下の3物件(これらの3物件を併せて「本件各物件」という。)を含む建物を建設し、不動産事業を行っている。(甲4~6、25~27、126~138、143、238、乙39~43、46、79、91)

   ア 足立物件

 被告は、平成18年3月、東京都足立区に地下1階地上22階建の建物(以下「足立物件」という。)を建設した。

 足立物件には、劇場、会議室、ピアノラウンジ、スタジオ等の一般利用者向けの施設及び賃貸住宅兼事務所が設けられているほか、足立区が運営するハローワーク、創業者支援のための創業支援館なども設けられている。

 また、足立物件は、東京芸術センターという名称が付されている。

   イ 神戸物件

 被告は、平成20年1月、兵庫県神戸市中央区に地上37階建の建物(以下「神戸物件」という。)を建設した。

 神戸物件には、芸術劇場、音楽ホール、グランドサロン、会議室、スタジオ等の一般利用者向け施設や賃貸住宅が設けられている。

 また、神戸物件は、神戸芸術センターという名称が付されている。

   ウ 福岡物件

 被告は、平成13年10月、福岡県福岡市博多区に地下1階地上15階建の建物(以下「福岡物件」という。)を建設した。

 福岡物件には、店舗や住居として利用できる区画が設けられている。

 また、福岡物件は、福岡都心共同住宅と福岡芸術センターという2つの名称が付されている。

  ⑷ 被告によるウェブサイトの開設等

 被告は、平成29年9月頃、ウェブサイト(以下「被告ウェブサイト」という。)を開設し、少なくとも令和6年11月5日までの間、同ウェブサイト内において、以下の表示をしていた。(甲25~27、30~33)

   ア 被告ウェブページ1の表示

 被告ウェブページ1には、足立物件の写真が掲載され、その横に「Art Center of Tokyo 東京芸術センター」との文字が記載されており、足立物件の所在地、構造、竣工時期、アクセス方法、フロア構成などが紹介されるとともに、次の記載がある。

 「文化芸術の発信の場としてご利用いただける複合施設」

 「天空劇場(21階・22階)

 最大400名収容可能。

 演劇、演奏会、展示会等多目的に利用可能です。

 スタジオ(2階から4階)

 写真撮影スタジオや映画上映スタジオがあります。

 SOHO(住宅兼事務所)(12階から19階)

 47㎡・64㎡・81㎡の3タイプ、計96戸をご用意しています。」

   イ 被告ウェブページ2の表示

 被告ウェブページ2には、神戸物件の写真が掲載され、その横に「Art Center of Kobe 神戸芸術センター」との文字が記載されており、神戸物件の所在地、構造、竣工時期、アクセス方法、フロア構成などが紹介されるとともに、次の記載がある。

 「劇場や音楽ホール、商業施設も併設する快適で便利な賃貸住宅」

 「賃貸住宅

 172戸24タイプ

 賃貸住宅のロビーにはコンシェルジュがあり、ご入居者やご来館者のみなさまをサポートさせていただきます。

 芸術センター(1階~5階)

 芸術に親しめる各種施設をご用意しています。」

   ウ 被告ウェブページ3の表示

 被告ウェブページ3には、福岡物件の写真が掲載され、その横に「Art Center of Fukuoka 福岡芸術センター」との文字が記載されており、福岡物件の所在地、構造、竣工時期、アクセス方法、フロア構成などが紹介されるとともに、次の記載がある。

 「JR博多駅より徒歩10分 SOHOでの使用が可能な家具、家電も完備した賃貸住宅」

 「住居

 112戸8タイプ。生活に必要な家具、家電もついています。」

  ⑸ 前訴の概要

 原告は、被告に対し、主位的に、商標使用許諾契約に基づき、平成28年4月1日から同年9月末日までの未払商標使用料453万6000円及び同契約終了後の商標の無断使用を理由として、不法行為に基づき、同年10月1日から令和元年9月末日までの商標使用料相当損害金2721万6000円の各支払を、予備的に、上記期間を通じて商標の無断使用を理由として、不法行為に基づき、平成28年4月1日から令和元年9月末日までの商標使用料相当損害金3175万2000円の支払を求める訴訟を提起した(東京地方裁判所平成31年(ワ)第2614号商標使用料等請求事件)。東京地方裁判所は、令和4年10月25日、商標許諾契約に係る契約書の成立の真正が認められないこと、原告の被告に対する商標権の行使が権利濫用であるなどとして、原告の請求を棄却する判決をした。(乙1)

 原告は、上記判決を不服として控訴したところ(知的財産高等裁判所令和4年(ネ)第10117号商標使用料等請求控訴事件)、知的財産高等裁判所は、令和6年4月10日、商標使用許諾契約は利益相反取引として無効であるとしつつ、原告の被告に対する商標権の行使は権利濫用に当たらないとして、原判決を変更し、予備的請求を全部認容する判決をした。(甲3)

 3 争点

  ⑴ 被告各ウェブページに被告各標章を付すことが「使用」に当たるか(争点1)

  ⑵ 被告各標章が「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に当たるか(争点2)

  ⑶ 原告による不法行為に基づく損害賠償請求権の行使が権利の濫用として許されないか(争点3)

  ⑷ 損害の発生及び損害額(争点4)

 4 争点に関する当事者の主張

  ⑴ 争点1(被告各ウェブページに被告各標章を付すことが「使用」に当たるか)について

 (原告の主張)

 被告は、原告各商標の指定役務に含まれる建物の貸与、音響用又は映像用スタジオの提供、会議室及び展示施設の貸与に関し、被告各ウェブページにおいて原告各商標と同一の被告各標章を表示しており、当該表示行為は、役務に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為であるから、使用に当たる。

 (被告の主張)

 被告各ウェブページに被告各標章が表示されていたことは認めるが、その余は否認ないし争う。

 被告の所有する本件各物件の名称は、それぞれ東京芸術センター、神戸芸術センター及び福岡芸術センターであるところ、被告各ウェブページにおいて、被告各標章は、被告が所有する物件を紹介するために使用されているにすぎず、原告各商標の指定役務である建物の貸与、音響用又は映像用スタジオの提供、会議室及び展示施設の貸与に関する表示ではない。

  ⑵ 争点2(被告各標章が「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に当たるか)について

 (被告の主張)

 被告各ウェブページにおける被告各標章の表示は、被告が所有する物件名を表示したものにすぎず、役務の提供について使用していないのであるから、これらの表示が原告各商標権の出所表示機能を侵害することはない。

 (原告の主張)

 被告ウェブサイトにおける被告各標章が掲載された被告各ウェブページにおいては、賃借人や利用者を誘引する文言が記載されており、被告各標章は、何人かの業務に係る役務であることを認識することができる態様により使用されているといえる。

  ⑶ 争点3(原告による不法行為に基づく損害賠償請求権の行使がいずれも権利の濫用として許されないか)について

 (被告の主張)

 本件における原告の商標権侵害に基づく損害賠償請求は、以下で述べるとおり、権利濫用である。

   ア 正当に商標権が帰属すべき者に対して商標権を行使していること

 原告各商標はいずれも本件各物件の名称と同一であるところ、いずれの物件も被告の事業としてその建設及び運営が進められたものであり、真の原告各商標権の帰属主体は被告である。

 特に、原告商標1は、Xが、被告の代表取締役として被告名義で商標登録出願を行い、登録査定を受けた後、原告に出願人名義を変更した結果、原告が商標権者となっている。このような出願人名義の変更は、被告との関係で利益相反取引となるところ、被告の他の取締役は出願人名義変更の事実を認識しておらず、被告取締役会において、当該取引を承認する決議は行われていないのであるから、出願人名義の変更は無効であり、原告商標1の商標登録出願により生じた権利はいまだ被告にある。

 また、原告商標2及び同3は、被告所有の物件名称として決定されたものを、原告が被告に無断で商標登録出願及び設定登録したものである。

 そして、原告各商標は、いずれも本件各物件の名称が決定されて以降、現在に至るまで、本件各物件の名称として一般に使用されており、原告も本件各物件の存在を前提とした使用をしている。

 このように、原告各商標は、本件各物件の名称として周知されているものであって、原告独自の信用が化体したものではなく、本来、本件各物件の所有者である被告に正当に帰属すべきものであり、原告が被告の商標権侵害を主張し、損害賠償請求を行うことは、権利の濫用として許されない。

   イ 不正目的をもって商標権が取得・行使されていること

 原告各商標の商標登録出願は、本件各物件を所有する被告名義で行うのが自然であり、原告による名義人変更や商標登録出願は、本来行う必要がなく、少なくとも被告にとっては何の利益もない。他方で、原告は商標権者となることにより、使用料を請求する名目を有することになり、かつ、被告による自身のウェブサイトへの自社保有物件名の掲載を抑止することが可能となり、被告の事業運営への影響力という利益を得ることができる。

 加えて、原告商標1において被告名義で商標登録出願後、登録査定がされていることから、原告各商標について、被告名義で商標登録出願ができないという事情も存在しない。

 このように、被告にとって、あえて行う必要がなく、一方的に原告にとって有利な名義変更や商標登録出願が原告により行われているのは、原告が被告から利益を得るためや、被告の事業運営に影響力を行使して、利益構造を維持するためという不正な目的に基づくものというほかない。

   ウ 被告の使用態様からして実質的な損害がないこと

 被告ウェブサイトは、Xが被告名義で虚偽の内容を記載したウェブサイトを掲載し続けていたことから開設したものであり、被告において何らかの利益を享受しようという意図はない。被告は、被告各ウェブページを用いて本件各物件の賃借人の募集等を行っていないし、原告又は原告の関連会社が本件各物件を不法に占有していることから、賃借人の募集等を行うことができていない。

 他方で、原告又は原告の関連会社は、本来使用権原が無いにもかかわらず、被告に無断で本件各物件の貸与等の役務の提供を行っている。

 このように、被告ウェブサイトの開設は、Xによる虚偽内容のウェブサイトの掲載が原因である上、原告各商標の使用態様や被告ウェブサイトの機能、効果、原告による役務の提供状況に鑑みても、原告に実質的な損害はなく、原告による商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求は、権利の濫用というべきである。

 (原告の主張)

   ア 原告各商標権の帰属すべき主体について

 被告は、原告商標1について、被告から原告に対する出願人名義変更が無効であり原告商標1の商標登録出願により生じた権利はいまだ被告にあると主張するが、原告商標1の設定登録日から5年が経過していることから無効の抗弁を提出することはできない。

 また、被告が述べる本件各物件の名称の決定、本件各物件の管理運営及び広報活動による一般への原告各商標の周知は、従業員のいない被告に代わり、全て原告が担ってきたのであり、原告こそが、本件各物件に係る事業を遂行し、その信用を形成してきた。このような原告の役割と貢献に鑑みれば、原告各商標を原告に帰属させることは何ら不合理ではないし、被告においても原告の商標登録出願を認識していた。

 さらに、節税等の目的で、知的財産権を含む資産を関係会社や子会社に分配して保有させるなどして利益を関係会社等に分散させることは、企業経営者の経営判断として一般に採用し得る手法であって、商標権を、事業主体である被告ではなく、その事業運営を請け負う原告が取得し、被告からその商標使用料の支払を受けることが直ちに不自然であるとはいえず、被告が本件各物件の所有者であるからといって、原告各商標権が「被告に正当に帰属すべきもの」とはいえない。

   イ 不正目的をもって商標権が取得・行使されていないこと

 上記アのとおり、原告が被告の取締役に無断で原告各商標の商標登録出願や登録をしたということは認められず、また、原告各商標の商標登録出願を原告がしたことが不合理であるということも認められない。

 したがって、原告に原告各商標権の取得及び行使について「不正な目的」があるという主張は、被告の根拠のない憶測であって、失当である。

   ウ 被告の使用態様について

 上記⑵(原告の主張)のとおり、被告各標章が掲載された被告各ウェブページは、賃借人や利用者を誘引する文言が記載されるなど、広告的機能を有しているところ、仮に、被告が述べるように、原告が運営するウェブサイトに誤った情報が掲載され、これが訂正されないために被告ウェブサイトが開設され、被告において何らかの利益を享受しようという意図がないとすれば、当該誤った情報を訂正するような情報を掲載すれば足りるはずであるが、そのような情報は被告ウェブサイトに掲載されておらず、専ら被告の不動産事業を広告する情報を掲載している。

 また、被告は、原告が本件各物件の管理運営業務を継続していることにより、当該業務の対価としての報酬を支払わずに本件各物件の賃料収入を収受し続けている。

 このような被告の被告各標章の使用態様からすれば、原告による商標権侵害に基づく損害賠償請求が権利濫用であるとはいえない。

  ⑷ 争点4(損害の発生及び損害額)について

 (原告の主張)

   ア 商標法38条3項による損害額の算定

 被告の原告各商標権の侵害により原告に生じた損害は、商標法38条3項により使用料相当額をもって算定されるべきである。

 原告が把握する直近(平成26年10月1日から平成27年9月30日まで。以下「平成27年9月期」といい、同様の方法で会計年度を表記する。)の本件各物件における各事業の年間売上額に、全商標分類のロイヤルティ率の平均値である2.6%を乗じた金額は以下(ア)ないし(ウ)のとおりである。

 したがって、その合計額は、1年当たり3077万7826円であり、令和元年10月1日から令和6年9月30日まで5年間の損害額は、1億5388万9130円となる。

 (ア) 足立物件

 年間売上額  6億9511万5749円

 2.6%を乗じた金額  1807万3009円

 (イ) 神戸物件

 年間売上額  3億9565万0063円

 2.6%を乗じた金額  1028万6902円

 (ウ) 福岡物件

 年間売上額  9299万6740円

 2.6%を乗じた金額  241万7915円

   イ 損害不発生の抗弁について

 被告が損害不発生の抗弁の根拠として主張する被告各標章が原告との出所誤認を生じさせないことや、被告が被告ウェブサイト上で賃借等の募集をしていないことなどの事情は、損害の不発生を基礎付けるものではない。

 (被告の主張)

   ア 損害不発生の抗弁

 原告各商標が商標登録出願及び登録されたのは、被告や自治体により本件各物件の名称が決定された後であり、かつ「東京芸術センター」、「神戸芸術センター」及び「福岡芸術センター」の言葉は、被告のみならず第三者においても、専ら本件各物件の建物名称を指すものとして認知されており、これらの言葉を聞いたり、見たりして需要者が想起するのは本件各物件そのものである。そのため、原告との出所誤認は生じず、原告各商標独自の顧客吸引力は認められない。

 また、原告各商標は、標準文字商標であり意匠性はない上、構成も地名、芸術という普通名詞、センターという場所を示す名詞を組み合わせたものにすぎず、建物名称として特徴的なものとはいえない。本件各物件の賃料・使用料収入のうち相当の部分は建物利用そのものに関する対価であって、原告各商標を使用する対価は含まれておらず、取引の実態としても、当該建物を利用するかどうかは、その立地、床面積、間取り、設備、価格、周辺環境等の事情を重視して判断するのが通常であり、原告各商標の存在を理由として本件各物件を利用する者は想定し難く、本件各物件に関し原告各商標には顧客吸引力は認められないし、被告の売上への寄与もない。

 さらに、被告が所有する本件各物件の名称を自社のウェブサイトのページである被告各ウェブページに掲載する行為によって、使用料が発生することはおよそ観念し難く、また、被告において賃借人等の募集も行っていないのであるから、原告各商標の使用は被告の売上に全く貢献していない。

 したがって、得ベかりし利益としての使用料相当額の損害は原告に生じていない。

   イ 損害額について

 原告の主張する平成27年9月期の本件各物件の売上額は否認する。

 原告が売上額の根拠とする減損分析資料(甲28)には作成名義人とされるAⅰ公認会計士の記名や押印もないことから、その成立の真正を争う。また、同資料に記載された金額の根拠もないことから、信用性も認められない。

 上記アのとおり、原告各商標の顧客誘引力は乏しく、かつ、被告の売上げに対する貢献はないし、被告ウェブサイトでの原告各商標の掲示が、原告による本件各物件における無権原での事業を阻害している事情はないのであるから、年間2.6%という使用料率は著しく高率であり、本件においては、0.25%を上回ることはない。

 また、原告は前訴において、原告と被告との間で締結された商標使用許諾契約における使用料をもって、使用料相当損害金であると主張していたことからすれば、原告において同契約に定める使用料が相当であると認識していたというべきであり、商標法38条3項に基づく使用料相当損害金は、前訴の金額を下回る金額が損害とされるべきである。

第3 当裁判所の判断

 1 認定事実

 前記前提事実並びに後掲証拠(枝番を含む。以下特段の断りのない限り同じ。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認定することができる。

  ⑴ 被告における不動産事業開始の経緯

   ア 被告は、昭和42年6月7日、X及びYの父が創業者として設立した警備会社(以下「本件警備会社」といい、その創業者であるX及びYの父を、単に「創業者」という。)の株式の保有及び管理を目的として設立された株式会社である。

   イ 被告は、本件警備会社の株式を含む投資有価証券以外の財産をほとんど有していなかった。しかし、創業者が亡くなった後、被告の株式を承継したX及びYを含む創業者一族は、本件警備会社の将来の発展及び株価の上昇を見越すと、創業者の妻が死亡し、その子らが相続する段階で、被告の株式について多額の相続税が課されることを懸念するようになった。そこで、創業者一族は、被告の株式に係る相続税の評価に際し、類似業種比準方式(非上場企業の株価の評価方法の一つで、事業内容が類似している上場企業の株価と比較することで算定する手法)を受けられるようにすることで、相続税を節税することを考え、平成9年12月頃に、被告において建物を建設して所有し、当該建物を利用して不動産賃貸事業及び展示ホール等の貸館事業(不動産事業)を行うこととした。(甲43、153、157、237、238、239)

   ウ 被告は、不動産事業の運営を、不動産事業について知見を有していたXに任せることとし、Xは、平成9年12月3日、被告の不動産事業の担当として取締役に就任し、平成11年12月1日には被告の代表取締役に就任した。被告は、不動産事業に従事する従業員を雇用しておらず、同事業の運営は、Xが経営する原告ないしその関連会社に行わせることとされ、原告と被告との間で、物件の管理等の事業全般に関する業務を原告に委託し、これに対し被告が報酬を支払う旨の契約(以下「本件各業務委託契約」という。)が締結された。(甲43、51、126~138、153、198、234、238)

  ⑵ 本件各物件の名称及び原告各商標権等の取得の経緯

   ア 足立物件

 (ア) 名称

 被告は、足立区が平成12年頃に実施した「足立区本庁舎跡地の開発・整備事業プロポーザル」との名称のコンペティションに、官民パートナーシップ事業を行う施設として足立物件の建設計画を提案し、平成14年7月頃に採用された。

 Xは、被告代表者として、足立区に対し、足立物件の名称を「東京芸術センター」とすることを提案し、足立物件が竣工する平成18年3月までには、正式名称が「東京芸術センター」と決定された。(甲18、143~145、238、乙2、44、81、82)

 (イ) 原告商標権1の取得

 被告は、平成17年3月7日、出願人名を被告、出願人住所を原告の本店所在地とする原告商標1の商標登録出願をし、同年11月18日、登録査定を受けた。その後、被告は、同年12月6日、特許庁に対し、出願人名義を被告から原告に変更することを求める旨の出願人名義変更届を提出し、平成18年1月27日、原告を商標権者とする原告商標1の設定登録がされた。(甲7、8、242~244、乙4~7、116~118)

   イ 神戸物件

 (ア) 名称

 被告は、平成16年12月、神戸市による「JR新神戸駅前布引車庫跡地土地利用計画」との名称のコンペティションに、布引車庫跡地を利用して芸術・文化発信の拠点となる「神戸芸術センター」の建設計画である「神戸芸術センタープロジェクト」を提案し、採用された。

 神戸物件は、平成20年1月に竣工したところ、その名称は、被告が提案した「神戸芸術センター」が継続して使用されることとなった。(甲19、41、143、144、乙45)

 (イ) 原告商標権2の取得

 原告は、平成18年6月7日、原告商標2について商標登録出願をし、同年12月22日、原告を商標権者とする原告商標2の設定登録を受けた。(甲9、10)

   ウ 福岡物件

 (ア) 名称

 福岡物件は、平成13年10月に竣工し、福岡都心共同住宅との名称を用いて家具家電付賃貸住宅事業が行われていたが、平成20年1月に「神戸芸術センター」が竣工したことを機に、被告が東京、神戸及び福岡の3拠点体制により芸術文化事業を実施していることを明確にするため、同年2月頃、「福岡芸術センター」の名称も併用されることになった(甲21、38、143)。

 (イ) 原告関連商標の取得

 原告は、平成19年12月4日、原告関連商標(日本芸術センター)の商標登録出願をし、平成21年2月20日、原告を商標権者とする原告関連商標の設定登録を受けた。(甲23、弁論の全趣旨)

 (ウ) 原告商標権3の取得

 原告は、平成26年7月25日、原告商標3の商標登録出願をし、平成27年7月3日、原告を商標権者とする原告商標3の設定登録を受けた。(甲11、12)

  ⑶ 原告各商標の使用及び被告による使用料の支払

   ア 原告は、原告商標1、原告商標2及び原告関連商標の設定登録を受けた当初、被告に対し、これらの商標の使用を無償で許諾していたが、被告の税務を担当する税理士から、商標の無償での使用許諾は原告から被告への寄付に該当し、税務上問題がある旨の指摘を受けた。

 そこで、Xは、原告と被告との間の商標の有償使用に係る契約を締結することとし、被告が原告に対し、原告各商標の使用料として本件各物件の年間売上の0.5%程度を限度として支払うことを決議した旨の平成20年2月23日付け被告取締役会議事録を作成し、また、同年10月1日付けで、原告代表取締役であるXの記名押印及びXとは別の被告代表取締役の記名押印のある「商標使用に関する契約書(甲23。以下「本件商標使用許諾契約書」といい、同契約書上の契約を「本件商標使用許諾契約」という。)を作成した。(甲22、23、238、弁論の全趣旨)

   イ 本件商標使用許諾契約書においては、原告商標1、原告商標2及び原告関連商標が対象商標とされ、「福岡芸術センター」の名称は、原告関連商標により保護されるものとされていた。原告商標1の使用料は、1か月当たり31万5000円(平成18年1月27日からの分を含む額であり、うち消費税が1万5000円)、原告商標2の使用料は、1か月当たり31万5000円(平成18年12月22日からの分を含む額であり、うち消費税が1万5000円)、原告関連商標の使用料は、1か月当たり10万5000円(うち消費税が5000円)とされていた。

   ウ 被告は、原告に対し、平成21年8月20日から平成28年2月10日までの間、原告商標1、原告商標2及び原告関連商標の商標使用料の名目で、本件商標使用許諾契約書所定の金員を支払った。(甲148、184~197)

   エ 平成22年10月1日から平成23年9月30日を事業年度とする被告の確定申告書の付属明細書には、「未払金の内訳書」として、原告に対する未払金として「その他-業務委託費(神戸芸術センター商標権使用料)」、「その他-業務委託費(東京芸術センター商標権使用料)」、「その他-業務委託費(日本芸術センター商標権使用料)」が記載されていた。

 また、Yは、平成23年12月23日の被告株主総会において、上記未払金が存在する前提で作成された貸借対照表や損益計算書等の報告を受けていた。(甲113、148、153、171、184~197、乙29)

  ⑷ 被告ウェブサイト作成の経緯

 Xは、遅くとも平成26年9月15日までに、被告が管理及び運営するウェブサイト(以下「旧ウェブサイト」という。)を開設した。

 旧ウェブサイトには、トップページに被告の商号とともに、本件各物件を含む複数の物件名が表示され、会社概要のページには、被告の所有不動産として、神戸芸術センター、東京芸術センター、福岡都心共同住宅等の名称が記載されていた。

 旧ウェブサイトは、平成27年2月19日にXが被告の取締役を解任された後、更新されないままとなっていたところ、被告は、平成29年9月頃、新たに、被告各ウェブページを含む被告ウェブサイトを開設した。

 (甲25~27、30~33、乙39~43、106、107)

  ⑸ Xの被告取締役解任の経緯等

   ア 平成25年11月13日に創業者の妻が死亡した。同人は、その保有する被告の株式の一部を第三者(財団)に遺贈していたところ、これが判明したことを機に、創業者一族の間で相続をめぐる紛争が生じた。(乙67、68)

   イ Xは、創業者の妻が行った遺贈の効力を争い、平成26年9月12日、その遺言執行者に対し、被告の取締役会の決議を経ることなく、取締役会の決定事項であるとして、遺言執行者からの株式譲渡承認請求を拒絶する意思を表明した。そこで、被告は、平成26年9月15日付け取締役会においてXを代表取締役から解職し、平成27年2月19日付け株主総会において同人を取締役から解任した。(乙109~111)

   ウ Yは、Xが行っていた業務の内容を把握するため、原告に対し、被告の運営及び取引に係る書類等の引渡し又は開示を、原告の関連会社に対し、被告との間の取引に係る書類等の引渡し又は開示をそれぞれ求めたが、いずれも拒否された。そこで、被告は、平成28年5月23日付け解約通知書をもって、本件各業務委託契約並びにその他全ての契約を解除する旨の意思表示をし、同通知書は、同月25日、原告及びその関連会社に到達した。(乙23~27)

   エ 他方で、原告は、平成28年1月に被告名義の預金口座の代表者名義がXからYに変更されて以降、被告が本件各物件の公租公課等の支払を停止したため、同年4月3日以降、複数回にわたり支払を督促したものの、被告がこれに応じないことから、同年9月12日、被告に対し、原告各商標の使用許諾を停止する旨通知した。(甲24)

 2 争点1(被告各ウェブページに被告各標章を付すことが「使用」に当たるか)について

 前提事実⑷のとおり、被告各ウェブページには、原告各商標と同一の表示である被告各標章が付されているほか、本件各物件の特色や賃貸住宅の特色、提供する役務の内容などが記載されており、原告各商標の指定役務に含まれる建物の貸与について、申込みの誘因を行う態様で用いられていることが認められる。

 よって、被告が被告各ウェブページに被告各標章を付すことは、役務に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為であるといえるから、「使用」に当たると認められる。

 3 争点2(被告各標章が「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に当たるか)について

  ⑴ 上記2のとおり、被告各標章は、原告各商標の指定役務に含まれる建物の貸与について、申込みの誘因を行う態様で用いられていることからすると、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」であるとは認められない。

  ⑵ これに対し、被告は、被告ウェブサイトにおける被告各ウェブページの表示は、被告が所有する本件各物件の名称を表示したにすぎない旨主張する。

 しかしながら、前提事実⑷のとおり、被告各ウェブページにおいては、本件各物件の特色や賃貸住宅の特色、提供する役務の内容が記載されているのであって、このような表示は、単に本件各物件の名称を表示したものであるということはできない。

 よって、被告の上記主張は採用することができない。

 なお、被告は、被告ウェブサイトは、被告の代表取締役を解任されたXが、自身が被告の代表取締役であるといった虚偽の内容の旧ウェブサイトを掲載し続けていたため開設したものであり、利益を享受しようとする意図がないとか、本件各物件はいずれも原告又は原告の関連会社が不法に占有されており、被告において本件各物件を用いた事業をすることができる状況になく、また、実際に本件各物件について賃借人の募集等の役務の提供を行っていないなどとも主張するが、これらの主張に係る事情は、被告ウェブサイト上の被告各ウェブページの内容ないし被告各標章の表示態様に関するものではなく、前記認定を左右するものではない。

 4 争点3(原告による不法行為に基づく損害賠償請求権の行使が権利の濫用として許されないか)について

  ⑴ 原告が正当に商標権が帰属すべき者に対して商標権を行使しているとの主張について

   ア 被告は、原告各商標は、本件各物件の名称として周知されているものであって、原告独自の信用が化体したものではなく、本来、本件各物件の所有者である被告に正当に帰属すべきものであるとして、原告が商標権侵害を理由に損害賠償請求することが権利の濫用に当たると主張する。

   イ 確かに、前提事実⑶及び認定事実⑵のとおり、本件各物件は、いずれも被告の事業としてその建設及び運営が進められたものであり、原告各商標は、いずれも本件各物件の名称と同一であるから、一般論として、不動産事業を行うに当たり、事業対象である不動産に付された名称を商標権として権利化するのであれば、その帰属を同一の者とすることは、権利関係の複雑化を避ける意味で、合理的であるといえなくもない。

 もっとも、認定事実⑴イのとおり、被告の不動産事業は、創業者一族において、被告の株式に係る相続税を節税することを目的として始められたものであり、しかも、同ウのとおり、被告の不動産事業は、これに従事する従業員を被告において雇用しておらず、不動産事業について知見を有していたXに任され、Xが代表者である原告ないしその関連会社に事業運営が委託されていたことが認められる。

 このような事情を前提にすると、いずれも創業者一族により経営されている被告及び原告において、本件各物件に係る所有権の帰属と商標権の帰属が分属されることになっても、直ちに不都合が生じることは想定されておらず、むしろ、被告の資産価値を減少させることにより被告株式の評価額が減少する関係にあることからすると、資産として計上されるべき知的財産を、実際に当該知的財産を利用する業務を行う関連会社等に分散させることは、経営者の経営手法として一般に採用し得る手法であるといえる。そうすると、本件の事実関係を前提にする限りは、実際の事業を行う原告において原告各商標を取得することが明らかに不自然、不合理であるとまでは言い難い。

   ウ これに対し、被告は、X以外の被告の取締役は、原告商標1に係る出願人名義変更の事実を認識していなかったとか、原告商標2及び3は、原告が被告に無断で商標登録出願及び設定登録したと主張する。

 しかしながら、前記イのとおり、被告における不動産事業は専らXに任されていたのであるから、X以外の被告の取締役において、事業の詳細についての認識を欠いたとしても不自然ではなく、むしろ、Xは被告の代表取締役でもあったのであるから、X以外の被告の取締役が詳細を承知していないことが、直ちに原告が被告に無断で行ったことになるものでもない。

 そして、認定事実⑶のとおり、原告商標1、原告商標2及び原告関連商標が、税務上の問題により、原告から被告への無償での使用許諾から、本件商標使用許諾契約書に基づく有償での使用許諾へと変更され、かつ、被告においては、同契約書に対応する支払及び会計処理が行われ、そのような会計処理を前提とする決算書類が被告の株主総会において報告されるなど、本件各物件に係る所有権の帰属と商標権の帰属が異なることについては、客観的に明らかにされていたことが認められるし、そのことは、被告の代表取締役であったYにおいても、容易に知り得た事実であったことが認められる。

 しかるに、Yを含む被告の取締役において、被告が本件各業務委託契約を解除する平成28年5月以前に異議を述べたことはうかがわれないし、その他、被告内において、本件各物件に係る所有権の帰属と商標権の帰属が異なることについて疑義が生じたり、問題視された形跡は見当たらない。

 そうすると、本件各物件に係る所有権の帰属と商標権の帰属が異なることについては、被告においては所与のものとして受け入れられていたというべきであって、これに反する被告の上記主張は採用することができない。

   エ なお、被告は、出願人名義の変更は無効であり、原告商標1の商標登録出願により生じた権利はいまだ被告にあるとも主張する。

 確かに、前記認定事実⑵ア(イ)のとおり、原告商標1は、当初、被告名義で登録出願がされ、登録査定を受けた後、原告への出願人名義変更がされているところ、当該出願人名義変更は、原告商標1の設定登録を受ける権利を被告から原告に移転するものであるから、利益相反取引に該当し、被告の取締役会において承認を得ていない以上、被告は、当該出願人名義変更についての無効を主張することができたといえる。

 もっとも、原告商標1の設定登録日である平成18年1月27日からすでに5年が経過していることから、無効審判により無効とすることはできず(商標法46条1項4号、47条)、当該事由をもって、原告商標1が無効とされるべき商標であると主張することはできないのであるから、当該出願人名義変更の存在をもって原告商標権1の行使を制限すべきであるとはいえない。

   オ 以上によれば、原告各商標が、本件各物件の名称を商標とするものであることを考慮に入れたとしても、原告による損害賠償請求権の行使が権利濫用に該当するとは認められない。

 よって、被告の上記主張はいずれも採用することができない。

  ⑵ 不正目的をもって商標権が取得・行使されているとの主張について

 被告は、被告にとって、あえて行う必要がなく、一方的に原告にとって有利な名義変更や商標登録出願が原告により行われているのは、原告が被告から利益を得るためや、被告の事業運営に影響力を行使して、利益構造を維持するためという不正な目的に基づくものであると主張する。

 しかしながら、被告における不動産事業の実態に照らし、実際の事業を行う原告において原告各商標を取得することが不自然、不合理であるとは言い難いことは、上記⑴で説示したとおりである。

 そして、証拠(甲3)によれば、本件商標使用許諾契約が無効となったのは、同契約が利益相反取引であり、取締役会の承認等を得られていなかったからであるところ、本件商標使用許諾契約当時、被告の不動産事業を任されていたXにおいて、取締役会の承認を得られないような事情はうかがわれない。また、Xにおいて、本件各物件に係る所有権の帰属と商標権の帰属が異なることについて、殊更に隠匿しようとしていたような事情は見当たらず、むしろ、上記⑴のとおり、当該事実は会計書類等により客観的に明らかになっていたことが認められる。さらに、本件商標使用許諾契約に定められた商標使用料は、証拠(甲14~16)により認められる被告の平成25年9月期から平成27年9月期までの不動産事業の各期の売上高である約26億ないし27億と比較しても、相当に低廉であり、原告各商標の構成が一般的な普通名詞の組み合わせたものであり、顧客誘引力が高いものであるとはいえないことを考慮しても、高額であるとはいえない。

 これらに加えて、認定事実⑸ウ及びエのとおり、原告が原告各商標権の行使に至ったのは、被告から本件各業務委託契約を解除され、本件各物件の公租公課等の支払を拒まれたことから、原告各商標の使用許諾を停止したことによるものであり、それ自体、被告を害するなどの不当な目的に基づくものとはいえないことを踏まえると、原告による損害賠償請求権の行使が権利濫用に該当するとは認められない。

 よって、被告の上記主張は採用することができない。

  ⑶ 被告の使用態様からして実質的な損害がないとの主張について

 被告は、被告ウェブサイトの開設は、Xによる虚偽内容のウェブサイトの掲載が原因である上、原告に実質的な損害はなく、原告による損害賠償請求権の行使は権利濫用である旨主張するが、被告が主張するウェブサイト開設の経緯や実質的な損害の有無等に係る事情は、原告による権利行使が権利濫用であることを基礎付けるものとはいえない。

 よって、被告の上記主張は採用することができない。

 5 争点4(損害の発生及び損害額)について

  ⑴ 商標法38条3項による損害額の算定

   ア 認定事実⑶のとおり、原告は、被告による本件各物件に原告商標1、原告商標2及び原告関連商標を使用することに対して受けるべき金銭の額を本件商標使用許諾契約書に記載された額であると認識し、実際にその支払を受けていたことに加え、前記4⑵で説示したとおり、同金額が不当に高額であるとも認められないことを踏まえれば、原告各商標の使用に対し受けるべき金銭に相当する額は、本件商標使用許諾契約書に記載された額と認めるのが相当である。なお、原告商標3については、本件商標使用許諾契約書作成時に商標登録出願されておらず、認定事実⑶イのとおり、原告関連商標による保護が想定されていたが、原告商標3と被告標章3とは同一であることからすれば、原告商標3の使用料は、本件商標使用許諾契約書の原告関連商用の使用料に記載された額と認めるのが相当である。

 そうすると、原告商標1及び原告商標2についてはそれぞれ月額30万円(税抜き)、原告商標3については月額10万円(税抜き)となり、これらに本件における不法行為当時の消費税率10%を加算した額は月額77万円となる。そして、侵害期間である令和元年10月1日から令和6年9月30日までの60か月間の金額は4620万円となる。

   イ これに対し、原告は、原告が把握する直近の会計年度である平成27年9月期の本件各物件の年間売上額に、全商標分類のロイヤルティ率の平均値である2.6%を乗じた金額が商標法38条3項による損害額である旨主張する。

 しかしながら、原告が平成27年9月期の本件各物件の年間売上額の認定根拠とする減損分析資料(甲28)については、成立の真正が争われているところ、同資料は、作成者とされるAⅰ公認会計士の署名押印等がなく、作成経緯も明らかでないことからすると、同資料の成立の真正を認めることはできない。そうである以上、平成27年9月期の本件各物件の年間売上額が原告の主張する金額であると認めることはできない。

 また、仮に、被告の平成27年9月期の本件各物件年間売上額が原告主張のとおりであることを前提にしても、全商標分類のロイヤルティ率に基づいて使用料相当損害金を算定すべき事情はうかがわれないことからすれば、いずれにせよ、かかる事情は上記アの結論を左右するものではない。

  ⑵ 損害不発生の抗弁について

 被告は、原告各商標は本件各物件の建物名称と同一であり、特徴的なものではなく、顧客吸引力が全く認められないこと、本件各物件を用いた事業収入は建物利用そのものに対するものであり、また、被告各ウェブページにおいて賃借人等の募集も行っておらず、被告における原告各商標の使用が被告の売上に全く寄与していないことが明らかであるから、得ベかりし利益としての使用料相当額の損害は原告に生じていない旨主張する。

 しかしながら、原告各商標が本件各物件の建物名称と同一であり、その構成が一般的な普通名詞を組み合わせたものであるとしても、普通名詞単独ではなく、組み合わせにより構成されているものである以上、原告各商標の顧客誘引力が全くないということはできないし、前記2で述べたとおり、被告各標章は、物件の特色や賃貸住宅の特色、提供する役務の内容などが記載されている被告各ウェブページに付されており、原告各商標の指定役務に含まれる建物の貸与について、申込みの誘因を行う態様で用いられていることも踏まえると、被告における被告各商標の使用が被告の売上に全く寄与していないともいえない。

 そうすると、原告各商標に顧客吸引力が全くなく、原告商標と類似する被告各標章を使用することが、被告の提供する役務の売上に全く寄与していないことが明らかであるとは認められず、被告の上記主張は採用することができない。

第4 結論

 以上によれば、原告の請求は、主文掲記の限度で理由があるからこれを認容することとし、その余の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

 東京地方裁判所民事第29部

 (裁判長裁判官 澁谷勝海 裁判官 塚田久美子 裁判官 浅川浩輝)

 
 
 

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