令和8年3月18日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和7年(ワ)第70439号 商標権侵害による損害賠償(不当利得返還)請求
事件
口頭弁論終結日 令和8年2月24日
判 決
原 告 Ai
被 告 神 戸 ポ ー ト 株 式 会 社
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は、原告に対し、100円及びこれに対する令和7年8月21日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨本件は、別紙商標権目録記載の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を有する原告が、被告による別紙被告標章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)の使用により本件商標権が侵害されたと主張して、被告に対し、民法709条に基づき、損害賠償金100円(商標法38条3項により算定される損害)及びこれに対する令和7年8月21日(不法行為の後の日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金を、選択的に、被告が被告標章を使用することで法律上の原因なく利益を受け、原告はライセンス料相当の損失を被ったと主張して、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、100円及びこれに対する同日から支払済みまで上記割合による利息の支払を求める事案である。2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨に
5 より容易に認定できる事実)
(1) 原告は、本件商標権を有している。(甲7、8)
(2) 被告は、被告のウェブサイトにおいて、被告標章を使用し、恐竜の知識に関する検定を提供していた。(甲2、弁論の全趣旨)
(3) 原告は、訴状において、被告の「住所(所在地)」として、被告の法人登録上の所在地を表記するとともに、被告の「氏名」として、「神戸ポート株式会社 取締役代表Bi」との記載に併せて、「(旧社名 株式会社ルート)」と表記していた(以下、同表記において旧社名として表示された会社を「訴外会社」という。)。その後、原告は、令和7年11月10日付け「訴状訂正 申立書」において、訴状における被告の表記から訴外会社の表示を削除する旨の訂正を行い、同書面は、令和8年2月24日の本件第3回口頭弁論期日において陳述された。(当裁判所に顕著な事実)3 争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 本件訴えの適否(本案前の争点)(争点1)(被告の主張)原告は、訴状において、被告につき、被告の商号を記載するとともに、旧社名として訴外会社名を記載していたが、被告は訴外会社名を商号として用いたことはなく、訴外会社とは別個の法人である。したがって、原告は、実体として存在しない法人を当事者として特定し、訴えを提起したものであるから、本件訴えは不適法である。また、当初の表記を被告の商号に訂正することは、単なる誤記の訂正の範疇を超え、別法人である被告を新たな当事者とする訴えの変更に当たるため許されない。(原告の主張)争う。
(2) 本件商標権侵害の有無(争点2)(原告の主張)
5 本件商標と被告標章は、外観、称呼、観念において、いずれも「恐竜検定」と認識することができるから、類似しており、被告が被告ウェブサイトにおいて被告標章を使用し、恐竜に関する検定を提供することは、本件商標権の侵害に当たる。(被告の主張)否認ないし争う。
(3) 原告の損害(争点3)(原告の主張)被告による本件商標権の侵害により、原告は、ライセンス料相当額である100円の損害を被った。(被告の主張)否認ないし争う。
(4) 被告の不当利得(争点4)(原告の主張)被告は被告標章を使用することで法律上の原因なく利益を受け、原告はライセンス料相当額である100円の損失を被ったから、被告は同額を原告に返還すべきである。(被告の主張)否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件訴えの適否)について
被告は、原告が、訴状の被告氏名欄に、被告の商号を記載するとともに、旧社名として訴外会社名を記載していたことを理由に、本件訴えは存在しない法人を当事者として特定して提起されたものであるから、不適法であり、被告への訂正も許されないと主張する。
5 しかし、前提事実(3)のとおり、原告は、訴状において、被告の特定事項とし
て、被告の所在地について被告の法人登録上の所在地を記載し、被告の名称についても被告の商号及び代表取締役の氏名を記載していることからすれば、原告が被告を当事者として訴えを提起したことは明らかであり、被告の特定に欠けるところはない。訴外会社に係る表記は単なる誤記であることが明らかであり、これを削除して当事者の表示を訂正することも許される。したがって、被告の上記主張は採用することができない。
2 争点2(本件商標権侵害の有無)について
(1) 本件商標と被告標章の類否について
ア 商標の類否判断の基準商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品又は役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品又は役務の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。そして、商標はその構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから、みだりに、商標構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定することは許されない。もっとも、簡易、迅速を尊ぶ取引の実際においては、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずる
5 ことがあるから、この場合、一つの称呼、観念が他人の商標の称呼、観念
と同一又は類似であるとはいえないとしても、他の称呼、観念が他人の商標のそれと類似するときは、両商標はなお類似するものと解するのが相当である(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照)。イ 本件商標本件商標は、横長の長方形の枠で囲われた標章であり、枠内の上から3分の2程度の位置に線が引かれ、この線で区切られた上側の部分は背景が赤色に、下側の部分は背景が白色になっている。上側の部分の中央部には、白色の文字で「恐竜検定」の文字が配置され、その下に同文字よりも小さい文字の「study of dinosaur」の文字が2段で表記されている。下側の部分には、左側4分の1程度の部分に、黒色の恐竜の頭蓋骨様のイラストが描かれるとともに、その右側の残り4分の3程度の部分には黒色の文字で「一級 恐竜博士」の文字と同文字よりも小さい文字の「1st. professorof dinosaur」の文字が上下2段で表記されている。本件商標は、イラスト及び複数の文字で構成される結合商標であるところ、上記のとおり、長方形の枠で囲われた標章であり、イラスト及び文字部分が当該枠内に大小こそあれ整然と配置されるとともに、背景と文字及びイラストが3色で色分けされ、一体としてまとまりよくデザイン化されているものといえるから、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほどに不可分的に結合していると認めるのが相当である。そうすると、本件商標は、その構成部分全体によって出所識別機能を有するものであると認められる。ウ 被告標章被告標章は、標準的な文字で記載された「恐竜検定」との標章である。
5 エ 本件商標と被告標章の比較
(ア) 外観本件商標は上記イのとおりの構成の外観を有しており、被告標章は標準的な文字で記載された「恐竜検定」との外観であるから、本件商標と被告標章は外観において類似しない。(イ) 称呼本件商標からは、「きょうりゅうけんてい スタディオブダイナソーいっきゅうきょうりゅうはかせ ファーストプロフェッサーオブダイナソー」との称呼が生じるのに対し、被告標章からは「きょうりゅうけんてい」との称呼が生じるから、本件商標と被告標章は称呼において類似しない。(ウ) 観念本件商標からは、「恐竜の知識に関する検定試験 恐竜に非常に詳しい人」との観念が生じるのに対し、被告標章からは「恐竜の知識に関する検定試験」との観念が生じるから、本件商標と被告標章は観念において類似しない。オ 小括上記エのとおり、本件商標と被告標章は、外観、称呼、観念のいずれにおいても類似せず、本件証拠上、類否の判断を左右するような取引の実情も認められないから、本件商標と被告標章は類似するとは認められない。
(2)
(原告の主張)
についてこれに対し、原告は、本件商標から「恐竜検定」の部分を抽出した上で、これとの比較において被告商標が本件商標に類似する旨主張するものであると解される。しかし、前記(1)イで説示したとおり、本件商標は、複数の文字ないし図柄
5 から構成され、中でも「恐竜検定」は最も大きな文字で記載されているもの
の、全体が枠で囲まれ、その中に恐竜及びその知識に関わる図柄や言葉が一体としてまとまりよくデザイン化され、その全体のデザイン自体が看者に強い印象を与えるよう構成されており、かつ、当該デザインの全体をもって登録商標として権利化されているのであって、このような本件商標の構成からすれば、その一部のみを抽出し、これとの比較において商標の類否を判断することは相当ではないというべきである。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(3) 本件商標権の侵害について
上記(1)のとおり、本件商標と被告標章は類似しないから、その余の点について判断するまでもなく、被告による被告標章の使用が本件商標権を侵害すると認めることはできない。
3 小括
以上によれば、被告による被告標章の使用は本件商標権を侵害しないから、その余の争点を判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。
第4 結論
よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第29部裁判長裁判官澁 谷 勝 海裁判官本 井 修 平裁判官塚 田 久 美 子
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