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原告
株式会社ビゴメントソフトウェア
代表者代表取締役
訴訟代理人弁護士
田中豊
同
鈴木龍司
同
北村亮典
被告
株式会社ネットカムシステムズ
(以下「被告会社」という。)
代表者代表取締役
被告
A
(以下「被告A」という。)
両名訴訟代理人弁護士
宇野総一郎
同
田中昌利
同
中村慶彦
同
岡田紘明
主文
1 被告会社は、別紙「原告プログラム目録」記載1及び2の各プログラムを使用してはならない。
2 被告会社は、別紙「被告プログラム目録(裁判所特定)」記載の各プログラムが記録された一切の記録媒体からこれらのプログラムを消去せよ。
3(1) 原告の請求の趣旨第3項に係る請求のうち、主位的請求をいずれも棄却する。
(2)ア 被告会社は、別紙「被告製品目録(裁判所特定)」記載のファイル群又はシステムを製造し、販売し、その他の方法で事業上利用してはならない。
イ 被告会社は、前項のファイル群又はシステムを廃棄せよ。
4 被告会社は、原告に対し、1001万4000円及びこれに対する令和4年3月23日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
5 原告の被告会社に対するその余の請求及び被告Aに対する請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は、原告と被告会社との間においては、原告に生じた費用の5分の1を被告会社の負担とし、その余は原告の負担とし、原告と被告Aとの間に生じたものは、全部原告の負担とする。
7 この判決は、第1項、第3項(2)ア及び第4項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 主文第1項同旨
2 被告会社は、別紙「被告プログラム目録(原告特定)」記載の各プログラムが記録された一切の記録媒体からこれらのプログラムを消去せよ。
3(1) 主位的請求
ア 被告会社は、別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1の製品等を製造し、販売し、その他の方法で事業上利用してはならない。
イ 被告会社は、別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1の製品等を廃棄せよ。
(2) 予備的請求
ア 被告会社は、別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載2の製品等を製造し、販売し、その他の方法で事業上利用してはならない。
イ 被告会社は、別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載2の製品等を廃棄せよ。
4 被告らは、原告に対し、連帯して1億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告会社につき令和4年3月23日、被告Aにつき同月22日)から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本判決で用いる略称
本文中に別途定めるほかは、次のとおりの略称とする。
・ 原告プログラム : 別紙「原告プログラム目録」記載のプログラムの総称
・ PDプログラム : 別紙「原告プログラム目録」記載1のプログラム
・ ICプログラム : 別紙「原告プログラム目録」記載2のプログラム
・ クライム社 : 株式会社クライムメディカルシステムズ
・ 本件クライム社製品: 製品名を「mammary」とするマンモグラフィ画像診断システム
・ Bクリニック :
・ C病院 : 福山市民病院
・ D病院 : 三豊総合病院
・ Eクリニック :
・ F病院 : JR広島病院
・ Gクリニック : 医療法人社団マンマ・ミーア乳腺クリニックプレスティアたまプラーザ
・ H氏 :
・ N氏 :
・ アストロ社 : 株式会社アストロステージ
・ 不競法 : 不正競争防止法
2 原告の請求(訴訟物)
(1) 被告会社による原告プログラムを複製、使用して別紙「被告プログラム目録(原告特定)」記載のプログラムで構成された別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1の製品等(主位的)又は同記載2の製品等(予備的)の製造販売等をすることが、
① 原告プログラムに係る原告の著作権(複製権・譲渡権)侵害行為であること、
② 原告プログラムのライブラリファイルが不正に取得又は提供されたことを知り又は容易に知り得た上で同ファイルを使用したものであって、不正競争(不競法2条1項5号又は8号、10号)であること、
③ 原告プログラムの正規ユーザのユーザID及びパスワードを不正に取得して別紙「被告プログラム目録(原告特定)」記載のプログラムに埋め込んで原告プログラムの実行を可能とするプログラムを作成したものであって、不正競争(不競法2条1項18号)に当たること、
のいずれか(上記①ないし③は選択的)を前提とする、被告会社に対する、
ア 著作権法112条1項又は不競法3条1項に基づく、原告プログラムの使用の差止請求
イ 著作権法112条2項又は不競法3条2項に基づく、別紙「被告プログラム目録(原告特定)」記載のプログラムの消去請求
ウ 著作権法112条1項、2項又は不競法3条1項、2項に基づく、
【主位的請求】
別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1の製品等の製造販売等の差止請求及び同製品等の廃棄請求
【予備的請求】
別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載2の製品等の製造販売等の差止請求及び同製品等の廃棄請求
(2) 被告会社による上記(1)の行為について、著作権侵害もしくは不競法違反の不法行為が成立するとともに、被告会社の取締役である被告Aに共同不法行為もしくは会社法429条に基づく損害賠償責任が成立すること、又は、被告会社による別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1の製品等(主位的)又は同記載2の製品等(予備的)の製造販売等が被告らの一般不法行為に当たることを前提とする、被告らに対する、損害賠償金1億円(明示的一部請求)及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告会社につき令和4年3月23日、被告Aにつき同月22日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の連帯しての支払請求
3 前提事実(争いのない事実及び証拠〔枝番を含む。以下同じ〕により容易に認定できる事実)
(1) 当事者等
ア 原告は、平成16年4月1日に設立され、コンピュータソフトウェアの研究・開発・販売・保守等を目的とする株式会社である。
イ 被告会社は、平成18年7月7日に設立された、コンピュータ・ソフトウェアの企画、開発、販売、保守等を目的とする株式会社である。
ウ クライム社は、医療用システムの標準規格であるDICOMに準拠した画像ネットワークシステムの開発、販売等を業として行う株式会社である。
被告Aは、クライム社の従業員(退職前は開発課課長)であったが、平成21年10月31日に同社を退社し、同年11月1日、被告会社の取締役に就任し、平成27年7月6日から被告会社の代表取締役を務める者である。
(2) 原告プログラムの開発及び利用許諾等
ア 原告は、医療用システムの開発キット(医療用システムの開発の際、その一部として組み込むことによって開発手順を一部簡略化することのできるもの。)として、原告プログラム(PDプログラム及びICプログラム)を開発した。原告プログラムの概要は、別紙原告プログラム目録記載のとおりであり(ただし、作成者を原告とする点について、被告らは争っている。)、PDプログラム(Power DICOM)及びICプログラム(Image Clarity)のいずれも対象OSを Windows とするアプリケーション開発キットで、医療用システムの標準規格であるDICOMに準拠しているが、PDプログラムは、医療情報データの読込み、解析、作成及びネットワークによる送受信等を機能とするもの、ICプログラムは医療画像データの読込み、表示及び加工等を機能とするものである。
原告は、その事業として、原告プログラムを第三者に利用許諾し、その対価を受領している。
イ 原告は、平成18年2月2日、クライム社に対し、原告プログラムの利用を許諾した。(甲15)
ウ クライム社は、医療用システムの開発キットである原告プログラムを使用して本件クライム社製品(製品名を「mammary」とするマンモグラフィー画像診断システム)を開発し、医療機関等に販売するようになった。
(3) 被告会社による競合製品の製造販売
被告会社は、平成24年3月、メディカル事業部門を立ち上げ、同年9月頃から、本件クライム社製品と競合するマンモグラフィー読影診断ワークステーションである製品名を「mammodite」とする製品の販売を開始した(甲26、弁論の全趣旨。ただし、同製品の構成については争いがあり、原告は、自らが複数の医療機関で採取したとするプログラムで構成されたファイル群又はシステムこそ「mammodite」の正規品にして、原告プログラムが複製、使用されているとして、これを別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1として特定する。これに対し、被告らは、「mammodite」の正規品は、原告の主張とは構成を異にしており、原告プログラムとは異なる開発キットを使用して開発されたもので、原告プログラムを含むものではないとした上、原告が上記のとおり摘示するファイル群又はシステムは、「mammodite」の動作不良時等に用いるテストツールである旨主張する。このような双方の主張のもと、原告は、あくまで主位的には、上記原告の主張に係る構成を有する別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1の製品等の製造販売等を差止め等の対象とする一方、訴えの変更をもって、予備的に、被告らがテストツールとするファイル群又はシステムを別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載2として特定し、その製造販売等の差止め等の請求を追加した。以下では、構成に関わらず、被告が「mammodite」の製品名で販売している製品を意味する場合は、単に「mammodite」ということとする一方、当該製品名の製品につき、その構成をめぐって大きく見解が相違している中で、「被告製品」などの略称や定義づけは、その対象とするところが定まらないため、あえて避けるものとする。)。
H氏を含むクライム社の複数の従業員は、同年2月頃にクライム社を退職して同年3月に被告会社に転職し、同社メディカル事業部に配属された。
(4) 別件訴訟
クライム社は、被告らが、本件クライム社製品のプログラムを無断で使用し又は複製して mammodite を製造販売等しており、当該行為が不正競争又は著作権侵害であると主張し、被告らに対し、mammodite の製造販売等の差止め及び損害賠償金の支払等を求める訴訟を令和2年2月に提起した(当庁令和2年(ワ)第1539号)。
当裁判所は、令和6年7月30日、クライム社の請求をいずれも棄却する判決をした。
クライム社は、これを不服として控訴し、同事件は控訴審において現在係属中である。
(5) 被告らは、令和7年7月22日付け第12準備書面をもって、原告に対し、令和3年6月18日以前に発生した別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載2の製品等の製造販売に係る不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
4 争点
(1) 被告会社の著作権侵害の成否(争点1)
(2) 被告会社の不正競争の成否(争点2)
ア 不競法2条1項5号又は8号、10号の不正競争の成否
イ 不競法2条1項18号の不正競争の成否
(3) 差止め及び廃棄の必要性並びに対象の特定(争点3)
(4) 被告Aの共同不法行為の成否(争点4)
(5) 被告Aの会社法429条に基づく損害賠償責任の成否(争点5)
(6) 被告らの一般不法行為の成否(争点6)
(7) 原告の損害額(争点7)
(8) 消滅時効の成否(争点8)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告会社の著作権侵害の成否)について
【原告の主張】
(1) 原告プログラムの著作物性及び著作権者
原告プログラムは、原告において、「C++」というプログラム開発言語を用いてソースコードファイルを記述し、コンパイル、リンク等の処理を経て作成され、他のファイルと組み合わせて、一つの実行可能なプログラムファイルを構成できるものである。PDプログラムは、医療用システムの標準規格である「DICOM」に準拠したシステム開発をサポートするための種々の機能を有する総合的な開発キットとしてのプログラムであり、ICプログラムは、「DICOM」に準拠した医療用画像ファイルの読込み、表示、加工等の機能に特化したプログラムであり、原告プログラムの実行には、相当程度高度かつ複雑な演算処理を要するため、そのソースコードは、PDプログラムは全約3万6000行、ICプログラムは全約4万2000行にわたる長大な記述となっているところ、次のとおり、①エラー処理の方法、②機能の統合(クラス化)、③マルチスレッドプログラミング、④データの保存と通信に用いる様式の統一、⑤メモリ使用量を少なくするデータ受信方法に係る部分に係るソースコードの記述部分は、多数の選択の幅のある中から、原告が一定の意図のもとに指令を表現し、それらを組み合わせ、配列・構造化したものであるから、その全体にわたって原告の個性が表れている。よって、原告プログラムには、著作物性が認められるし、その著作者にして、現著作権者は原告である。
ア エラー処理の方法と表現
原告プログラムは、DICOM規格に則った医療用画像データの処理をその機能とするものであるが、実際の医療現場では、出力側のプログラムの設計ミスやバグの発生により、処理の対象となる画像データが厳密にDICOM規格に合致していないことがあり、このようなDICOM規格違反の画像データに対する取扱方法は、画像処理プログラムによって異なる。原告プログラムは、エラー処理とLOGの出力との関連付け、LOGメッセージとエラーの重大性との対応において、他のプログラムとは異なっており、後者については、全88個のエラーメッセージ(PDプログラムにつき79個、ICプログラムにつき9個。当時)を、4つの重大性レベルのカテゴリのいずれに帰属させるかという選択の結果が指令の表現とその組み合わせとして各行に記述されている。
イ 機能の統合(クラス化)
「C++」言語を含むオブジェクト指向のプログラミング言語では、データや操作に対して、「クラス化」と呼ばれる構造化を行い、プログラムの各機能を記述することになるところ、ICプログラムでは、プログラム中の各種の機能が、複数の「クラス」に統合されて記述されているが、プログラムに含まれる多数の機能について、ユーザの利便性のためにいくつの、どのようなクラスを設けるか等について多様な選択の幅がある。
ウ マルチスレッドプログラミング
原告プログラムは、複数の処理を並列的に行う「マルチスレッドプログラミング」の手法が採用されている。同手法に対応したプログラムでは複数の処理が並列して行われるため、当該プログラムに含まれる膨大な数の個々の機能(処理)につき、他のいずれかの処理と同時に行って差し支えなく、他のいずれかの処理についてはその完了を待つことにするかを、現実的なものに絞ったとしてもなお多数ある選択の幅の中から、ただ1通りが選択され、その結果が具体的な記述となっている。
エ 画像データの保存と通信に用いる様式の統一
DICOM規格では、データの保存とデータの通信が異なる概念を用いて表されているため、開発キットのユーザは、保存と通信に関する異なる2つの様式に合わせてプログラミングをしなければならない。原告プログラムは、この点を見直し、データの保存とデータの通信に関して、扱うデータや機能を統一的な格納様式でプログラム中に格納することとして利便性を向上させるため、一般的なDICOM規格における整理とは異なる形式で整理することとし、処理の順序、関数の切出し・展開、ログの記録等について原告独自の整理に基づいてプログラミングされている。
オ メモリ使用量を少なくするデータ受信方法
原告プログラムの処理対象とするDICOM画像データは、相当大容量となる場合もある。大容量のデータの受信には、プログラムのメモリ使用量が膨大となってプログラムの処理速度が遅くなり、他のプログラムの動作が著しく妨げられる等の支障が生じる。原告プログラムは、このような支障が生じることを避けるため、DICOM画像データの受信処理を行う際、データの内容を分析しながら、部分ごとに処理を進めるよう、固有の方法でプログラムを記述し、受信するDICOMデータをどのような観点で分析し、その結果を踏まえていかなる順序、方法で受信処理を進めることとするかについては、膨大な選択の幅がある。
(2) 被告会社が原告プログラムを複製したこと
ア 被告会社は、原告プログラムのライブラリファイルを、①違法にデッドコピー(被告会社の開発環境への無許諾コピー)し、②違法にリンク(mammodite、つまり、別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1の製品等への組込み)するという方法により、原告プログラムを複製した。被告会社による複製の事実は、以下の点から明らかである。
(ア) 複製の立証方法
原告プログラムは、アプリケーション開発キットであり、機械語形式で提供されるものであり、原告プログラムを利用しようとする者は、プログラムの開発にあたり、既にコンパイルの過程を経て機械語で記述されたオブジェクトファイルとしての原告プログラムと自らソースコードを記述してコンパイルして作成した他のオブジェクトファイルとをリンクし、原告プログラムの果たす機能について独自のソースコードを記述作成しない。したがって、被告会社がmammodite の開発において、原告プログラムを上記リンクの方法により再製しても、原告プログラムのコンパイル前のソースコードが含まれることはなく、本件では、オブジェクトファイルとしての原告プログラムにつき、コピーファイルを作成し、かつ、リンクにより機械的に再製し、mammodite、つまり、別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1の製品等のプログラムを制作したことをもって、原告プログラムを複製したといえる。
(イ) 原告プログラムの複製を示す事情が存在すること
原告は、クライム社が、Bクリニックにおける mammodite、つまり、別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1の製品等から本件クライム社製品への入替えの際、平成30年9月にBクリニックから持ち帰った被告会社残置に係るプログラムについて、バイナリダンプを行い、機械語で記述された同プログラムを16進数の数字及び文字列の各表示に変換して分析した。その結果、次のとおり、原告プログラムを示す文字列等が検出された。
① 乱数表
原告プログラム(PDプログラム及びICプログラム)の乱数表と完全に一致する文字列が検出された。
② ユーザID及びパスワード
原告は、正規ユーザに原告プログラムを提供する場合、ユーザ固有のID及びパスワードを発行しているところ、上記分析対象のプログラムから、クライム社に対して発行したユーザID(8桁の文字列)とパスワード(16進数の64桁の数字列)が検出された。
③ 原告プログラムのソースコードファイル名
プログラムの開発段階で作成するソースコードファイルには、システム開発において広く用いられる単語や表現を使用することによって、内容がある程度客観的にわかるような名称のファイルを使用することがあり、ソースコードファイル名は、コンパイルやリンクを経てプログラムファイルとなった段階でも、プログラムをバイナリダンプした際に文字列が検出されることがある。上記分析対象のプログラムから、原告プログラムの開発段階で使用した22個のソースコードファイル名(PDプログラムにつき全29ファイル中の10ファイル、ICプログラムにつき全12ファイル)と完全に一致する文字列が検出された。
④ LOGメッセージの文字列
原告プログラムは、作動状況やデータの処理状況を記録して残すためのLOGの機能を有し、その挙動を記録するため挙動ごとに固有のメッセージを備えているところ、上記分析対象のプログラムの文字列には、原告プログラムに記録された86種すべてのLOGメッセージと完全に一致する文字列が検出された。
⑤ 原告の商号等に係る文字列等
上記分析対象のプログラムには、原告の商号の英語表記(当時)である「Vigoment Software Inc.」の文字列と、国際標準OSIに係る組織登録番号(プログラムの国際標準との関係で原告を同定するために用いられる、固有の数字列)である「1.2.392.200190」が検出された。
また、令和3年2月22日に、Gクリニックに納入されていた被告の製品のプログラムファイルのデータを原告代表者が採取して分析した結果、上記と同様、原告プログラムの乱数表との一致、ID及びパスワードとの一致、原告プログラムのソースコードファイル名との一致、原告プログラムのログメッセージとの一致が確認され、原告の商号及び国際標準登録IDが検出され、合計27個のファイルに原告プログラムが使用されていたことが明らかとなった。
以上から、別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1の製品等を構成するプログラムである別紙「被告プログラム目録(原告特定)」記載のプログラムに原告プログラムが使用されているといえる。
(ウ) 機械語レベルで一致し、一致部分に創作性があること
原告プログラムのライブラリファイルと別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1の製品等を構成するプログラムファイルとを、機械語レベルで比較解析したところ、後者を構成するプログラムのうち少なくとも15のプログラムにおいて、原告プログラムに含まれる合計18の関数と完全に一致する機械語の記述が存在した。
プログラムの作成では、すべての指令を全部書き下すのではなく、一部の指令を「関数」(サブルーチン)として切り出すことがあるところ、上記18の関数は、ソースコード全体の中から関数として切出されたものであるが、切出しの範囲や関数としての入力値(引数)と出力値(戻り値)の設計・表現については様々な選択の幅があるから、上記18の関数に係るソースコードの記述は創作性がある。また、上記18の関数においては、プログラムの動作や処理結果に関する記録を「ログ」として出力するものと(11の関数)、出力しないもの(7の関数)があるが、11の関数の記述方法には多様な選択の幅がある上、エラー処理との関連付けもされており、その記述部分には作成者の個性が表れている。また、ログを出力しない7の関数についても、原告プログラムと別のプログラムでは、同様の機能を有する関数についてログを出力させるものもあり、プログラム全体の設計や構想において、その記述には作成者の個性があるといえる。
このように、機械語レベルの記述の比較において上記のとおり一致する部分の原告プログラムの記述部分には創作性がある。
イ 以上から、被告会社は、別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1の製品等の製造販売において原告プログラムを複製した。
ウ 被告らは、Bクリニックに納品されたのは被告の正規品たるmammodite ではなく、「テストツール」のプログラムであると主張する。しかし、被告らが「テストツール」とする内容は不合理に変遷している。また、Bクリニックに納入された被告会社の製品は、平成26年4月から7年以上にわたって医療業務に使用されて稼働していたことから正規品にほかならない上、Bクリニック以外にも2つの医療機関(D病院及びGクリニック)から採取されたプログラムにも、原告プログラムが含まれていたことからすれば、Bクリニックに納品されていたのは、被告の正規品である mammodite、すなわち、別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1の製品等である。よって、被告らの上記主張は失当である。
(3) 被告らが「テストツール」と称する製品等において原告プログラムを複製したこと
仮に、原告プログラムが別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1の製品等において複製されたものと認められないとしても、少なくとも被告らが「テストツール」と称する別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載2の製品等は、医療現場に納品されて業務上使用されており、これを構成するプログラムには、上記(2)で指摘した理由から原告プログラムが使用されているといえ、各プログラムの一致部分は原告プログラムの創作性のある表現部分である。
そうすると、被告会社は、別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載2の製品等及びこれを構成する別紙「被告プログラム目録(原告特定)」記載のプログラムにおいて、原告プログラムを複製したといえる。
【被告会社の主張】
(1) 著作権者
原告代表者は、平成16年3月までアストロ社の取締役を務め、同年4月1日に原告を設立したが、原告は、アストロ社のプログラム(「ASCOMM V2」及び「ImagePulse V1」)を流用して原告プログラムを作成したものと推認できる。
そうすると、原告プログラムに著作物性があるとしても、原告は原告プログラムの著作権を有していない可能性が極めて高い。
(2) 原告プログラムに著作物性がないこと
原告プログラムについて、創作性のある表現部分であると原告が主張する記述部分は、次のとおり、いずれも作者の個性が表現されているとはいえないから、原告プログラムは著作物性がない。
ア エラー処理の方法と表現
エラーメッセージをどのようにカテゴリ分けするかという点は、単なるアイデアのレベルの問題にすぎず、ソースコードの具体的記述において作者の個性が表現されているか否かとは無関係である。また、4つのカテゴリについて用いられた言葉(「Fatal」、「Invalid」、「Warning/Notice」、「Message」)、英語としてごくありふれた言葉であり、これらの表現自体について、作者の個性が表れているとは到底いえない。
イ 機能のクラス化
プログラムにおいてどのようにクラスを設けるかというのは、単なるアイデアのレベルの問題にすぎず、ソースコードの具体的記述において作者の個性が表現されているか否かとは全く無関係である。また、機能をどのように抽出・分類してファイルごとに区分、整理するのかという点は、ソースコードの具体的記述そのものではなく、単にソースコードをどこで区切るかという話でしかなく、そのファイルごとの区分、整理の仕方は著作物性の有無に影響するものではない。原告の指摘する記述内容は、プログラミングにおけるごくありふれた記述の方法を説明するものにすぎず、プログラミングというものがアルゴリズムを用いて一定の機能を実現しようとするものである以上、非常に単純なプログラムであっても、関数について配列・構造化が行われることは通常のことである。
ウ マルチスレッドプログラミング
個々の機能について他の処理と並列的に行うか否かという点は、単なるアイデアのレベルの問題にすぎず、ソースコードの具体的記述において作者の個性が表現されているか否かという点と全く無関係である。
エ データの保存と通信に用いる様式の統一
原告が指摘する内容は、単に原告プログラムの機能を述べるものにすぎず、ソースコードの具体的記述において作者の個性が表現されていることとは関係がない。
オ メモリ使用量を少なくするデータ受信方法
原告が指摘する内容は、DICOM画像データの受信処理を行うに当たっての機能の違いを述べるものにすぎず、ソースコードの具体的記述において作者の個性が表現されていることを説明するものではない。
(3) mammodite の正規品について原告プログラムの複製はないこと
ア 前提として、原告が創作的な表現部分であると主張する原告プログラムの部分と、複製されたと主張する被告プログラムの部分は完全に異なっているので、原告プログラムが複製されたことの主張立証はない。
イ 原告が分析したプログラムは mammodite の正規品ではないこと
原告は、原告プログラムが含まれていたと指摘する、クライム社がBクリニックから入手したプログラムが mammodite の正規品であると主張するが、Bクリニックから採取されたプログラムはmammodite の正規品のプログラムではなく、テストツールのプログラムである。
すなわち、被告会社には、平成30年当時からメインサーバーと検証サーバーという2つのサーバーがあり、メインサーバーは、出荷用の製品が格納されているサーバーであり、顧客に納品するための製品をセットアップする際に使用され、検証サーバーは、検証用のテストツール、開発中の製品、テスト画像、社内資料等が格納されているサーバーであり、新機能の実装を行ったり、テストツールを用いた動作検証や性能比較など、様々な用途に使用されるものであった。そして、mammoditeの正規品のセットアップは、①顧客に納入する予定の新しいパソコンを準備し、初期設定等を行う、②社内ネットワークに接続し、更に納入用パソコンについてWindowsアップデートを行う等の設定を行う、③メインサーバーに保存されているドライブデータをコピーした上で、「ncam.bat」を実行することにより、メインサーバーに保管されているデータを上記納入用パソコンにダウンロードする、④ダウンロードの完了後、更に各種設定を行う、という手順を経る。しかし、Bクリニックでは、人為的なミスによって、上記③の手順において、メインサーバーでなく検証サーバーに保存されている「ncam.bat」が実行され、テストツールのプログラムファイルがインストールされることになった。実際、他の医療機関(平成28年3月13日納入のC病院、平成30年4月5日納入のEクリニック、平成31年3月24日納入のF病院のほか3医療機関)に納入された被告の製品は、いずれもメインサーバーに保存されている「ncam.bat」を実行する形で正常にセットアップが行われた(なお、D病院には、平成29年3月23日に被告の正規品が納入され、不具合の報告を受けた後、同月27日に切替ツールが使用され、正規のソフトウェアからテストツールへの切替えが行われたことはあるが、その後、テストツールは削除され、正規のソフトウェアが稼働された。)。
このように、Bクリニックから入手した製品は mammodite の正規品ではないから、その分析結果をもって、mammodite の正規品、すなわち、原告が主張するところの別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1の製品等及びこれを構成するプログラムについて、原告プログラムが複製されたとはいえない。mammodite の正規品の開発には、原告プログラムは用いられておらず、同じく医療用システムの標準規格であるDICOMに準拠した開発キットであるDCMTKを使用して開発されたもので、原告がテストツールとの関係で主張するような原告プログラムとの一致点も確認されなかったのであるから、原告プログラムの著作権を侵害するものでないことは明らかである。
なお、原告は、D病院及びGクリニックから入手した被告の製品のプログラムにも原告プログラムのファイルが含まれていたと主張するが、両医療機関から原告が分析対象としたプログラムを入手したとする入手経緯自体が疑わしく、これらの分析結果は信用できない。
ウ オブジェクトコードの対比によって複製は判断できないこと
プログラムの著作物において、創作者が直接的に表現に関与しているのは、ソースコードであって、オブジェクト・プログラムではないからプログラムの著作権侵害の有無が問題になっている場合には、ソースコードが複製されているか否かという点が問題となるのであって、機械語レベルでの比較を行うのは誤りである。そして、被告は、原告プログラムのソースコードをmammodite のプログラムの開発において記述していないから、それらプログラムと原告プログラムとの比較において、ソースコードが一致することはない。
また、仮に機械語レベルで同一であると捉え得る部分があるとしても、その部分がソースコードにおいてどの部分に対応するのかを把握することは困難であるため、その部分が創作性のある部分なのか否かを判断することはできないから、複製の有無を判断することはできない。
エ 以上から、mammodite の正規品、つまり、原告が別紙被告製品等目録(原告特定)記載1として特定する製品において、原告プログラムが複製されたとはいえない。
(4) テストツールにおいて原告プログラムの著作権侵害は認められないこと
上記(1)(2)のとおり、原告プログラムの著作物性及び原告が著作権者であることが否定されるべきである上、被告会社は、mammodite の正規品同様、テストツールのプログラムの作成にあたっても、原告のプログラムのソースコードは記述しておらず、テストツールに原告のプログラムのソースコードは複製されているとはいえないから、著作権侵害が認められる余地はない。
2 争点2(被告会社の不正競争の成否)について
(1) 争点2-1(不正競争2条1項5号又は8号、10号の成否)について
【原告の主張】
ア 営業秘密該当性
(ア) 原告プログラムのライブラリファイルは、原告の事業所内に1台だけある開発専用パソコン中にローカルファイルとして保存されており、社外はもとより、社内のネットワークを通じて他のパソコンからアクセスすることもできないよう管理されている。また、当該パソコンの使用にはIDとパスワードの入力が必須であるが、これらは原告代表者と取締役2名のみが管理し、いずれも安易に第三者に共有してはならないことを明確に認識している。そして、原告プログラムは、開発キットとしてベンダー向けに販売、ライセンスされるもので、第三者に対する開示が想定されたものではあるが、原告は、第三者への開示に際し、開示先に対して契約上の秘密保持義務を負わせている。具体的には、顧客に対して提供するパッケージの裏面に記載された「製品使用許諾契約書」(4条)において、製品を第三者に開示することを禁止する規定をおくなどして顧客に秘密保持義務を課している。よって、秘密管理性がある。
(イ) 原告プログラムのライブラリファイルは、プログラム開発における特定の機能を実現するものであり、ベンダーは、原告プログラムを自ら開発したプログラムの一部と組み合わせることにより、当該機能を自ら開発する場合に要するコストを削減することができ、原告の事業はこれを販売・ライセンスすることによって成立している。よって、原告プログラムのライブラリファイルは、事業上有用な情報であり、有用性がある。
(ウ) 原告プログラムのライブラリファイルは、原告の顧客以外の第三者が一般的にアクセスすることができる情報ではなく、公然と知られたものではない。第三者に提供する際には、上記のとおり、顧客に秘密保持義務を課している。よって、非公知性がある。
イ 不競法2条1項5号又は8号の不正競争
(ア) 営業秘密取得行為が介在
クライム社は、原告プログラムの利用許諾を得て、これを使用して本件クライム社製品を作成した。クライム社の従業員5名は、平成24年3月頃にクライム社から被告会社に転職した際、本件クライム社製品のソースコード及び原告プログラムのライブラリファイルをコピーして保存し持ち出した。このような従業員の行為は、営業秘密である原告プログラムのライブラリファイルの不正取得に当たる。
(イ) 悪意又は重過失
法人の主観的態様が要件となる場合、その判断は、当然に代表者の主観のみに着目するのではなく、問題となった行為に実際に関与した者の主観に着目して判断すべきである。
被告会社において、平成24年当時のmammodite の開発責任者は、クライム社からの転職者の1名であるH氏であるところ、同氏は、他の集団転職者と共に、クライム社を退職する際に原告プログラムのライブラリファイルをパソコンに保存して持ち出していた。
よって、H氏の主観を基準とすると、被告会社は、上記営業秘密取得行為の介在について故意又は重過失があったといえる。
(ウ) 使用
上記のとおり、平成24年2月頃、クライム社の従業員5名が退職し、うち4名が被告会社に転職したが、被告会社は、その後、短期間でシステム開発を行い、本件クライム社製品と同種の医療用画像診断システムである mammodite の正規品、つまり、別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1の製品等の販売を開始した。このような経過に照らせば、上記転職者4名が、本件クライム社製品に係る情報をその開発に使用したと考えられる。そして、上記のとおり、mammodite の正規品には、原告プログラム固有の情報(乱数表、IDパスワード等)が多数検出されていることにも照らせば、上記転職者から被告会社が原告プログラムのライブラリファイルの提供を受け、mammodite の正規品、仮にそうでなかったとしても、そのテストツールたる別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載2の製品等の開発にあたって使用したといえる。
(エ) 以上から、被告会社について、不競法2条1項5号又は8号所定の不正競争が成立する。
ウ 不競法2条1項10号の不正競争
上記(2)の開発経緯を前提に、被告会社は別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1の製品等、仮にそうでなかったとしても、同目録記載2の製品等を顧客に販売したから、被告会社には、不競法2条1項10号所定の不正競争が成立する。
エ なお、被告会社は、原告プログラムはアストロ社のプログラムを流用したものであるから、原告プログラムのライブラリファイルは原告の営業秘密とはいえない旨主張するが、原告プログラムとアストロ社の上記プログラムとは同一ではないから、上記主張は失当である。
【被告らの主張】
否認ないし争う。
ア 原告の代表者は、平成16年4月1日に原告を設立し、同年3月15日までは、アストロ社の取締役を務めていた。同社は、当時、ライブラリである高速DICOM通信アプリ開発ツール「ASCOMM V2」及び高速画像処理開発ツール「ImagePulse V1」を販売していたところ、原告代表者は、これらを流用して原告プログラムを作成したものと考えられる。そうすると、原告プログラムは、原告が正当に保有する営業秘密ではないから、原告の営業秘密侵害を理由と主張は成り立たない。
イ 営業秘密該当性
原告プログラムの情報の社内の管理状況に関する証拠は、原告代表者の陳述書のみである。また、被告Aは、クライム社在籍中に受領したと原告が主張する使用許諾契約書(甲13)を受領した記億はなく、クライム社が受領した書面(甲15)には秘密保持義務の定めはない。
よって、原告プログラムは、秘密管理性及び非公知性の要件を満たさない。
ウ 不競法2条1項5号又は8号、10号の不正競争が成立しないこと
(ア) 「不正に取得」された情報ではないこと
クライム社では、開発課の従業員に対してノートパソコンが貸与されておらず、同社の製品の納入先に赴いてメンテンナンス等の作業をする際、私物のパソコンに同社製品のプログラムのソースコード(原告プログラムのライブラリファイルを含む。)をコピーして持ち出すことが常態化していた。そして、クライム社を退職した者は、クライム社の代表者から退職後のサポート目的で保持し続けるよう依頼を受け、私物パソコンに入った本件クライム社製品のプログラムのソースコード一式を保持していた。
よって、クライム社の退職者が原告プログラムのライブラリファイルを私物パソコンにコピーして持ち出す行為は、「窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段」を用いられたものではない。
(イ) 被告会社に「悪意又は重過失」はないこと
原告は、H氏がクライム社を退職する際に私物パソコンに原告プログラムのライブラリファイルをコピーしたと主張するが、H氏がコピーした事実はなく、H氏は mammodite の開発にも関与していない。
また、そもそも被告会社の故意又は重過失は、その代表者の主観面をもって決すべきであるところ、この点について、原告は具体的な主張立証をするものではない。
よって、被告会社に「悪意又は重過失」があったとの原告の主張は失当である。
(ウ) 被告会社は「使用」していないこと
上記のとおり、mammodite の正規品には、原告プログラムは含まれていないから、被告会社が原告プログラムを使用した事実はない。
(エ) 仮に、テストツールの一部に本件クライム社製品のソースコードが使用されていたとしても、それは人為的なミスによって使用されたものであり、被告会社が意図したものではなく、原告プログラムのライブラリファイルを用いて利益を得る目的はなかったから、被告会社に「不正の利益を得る目的」があったとはいえない。
(オ) 以上から、被告会社に不競法2条1項5号又は8号の不正競争は成立せず、同項10号所定の不正競争が成立する余地はない。
(2) 争点2-2(不正競争(不競法2条1項18号)の成否)について
【原告の主張】
原告は、原告プログラムを利用して開発された実行可能なプログラムにおいて、原告プログラムを正常に機能させるためには、当該開発プログラムが医療従事者等のエンドユーザによって実行される際に、原告が正規の開発者に対して発行したユーザIDと製品使用パスワードによる認証を必要とする仕組みを採用している。被告会社は、正規の開発者であるクライム社に発行されたユーザIDと製品使用パスワードを自らの開発プログラムに埋め込むことによって、上記の認証を通過させ、別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1の製品等、仮にそうでなかったとしても、同目録記載2の製品等を販売した。
よって、被告会社には、不競法2条1項18号の不正競争が成立する。
【被告会社の主張】
被告会社は、原告プログラムを含む製品を顧客に販売していない。
まず、mammodite の正規品は、原告プログラムを含むものではない以上、同製品の中に、「原告プログラムの実行時の認証を通過させてその実行を可能とさせるプログラム」も含まれていない。また、テストツールについても、クライム社に対して発行されたユーザID及びパスワードを自ら埋め込むようなことは行っていない。よって、被告会社に同号の不正競争は成立しない。
3 争点3(差止め及び廃棄の必要性並びに対象の特定)について
【原告の主張】
(1) 上記のとおり、被告は、原告プログラムを複製し又はこれが不正に取得されたことを知りながら使用するなどして被告プログラムを作成し、別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1の製品等、仮にそうでなかったとしても、同目録記載2の製品等を製造販売等したものである。
よって、原告プログラムの使用ほか、上記製品等の製造販売等の差止め及び廃棄、それら製品等を構成するプログラム(別紙「被告プログラム目録(原告特定)」記載のプログラム)の消去のいずれの必要性も認められる。
(2) 別紙「被告プログラム目録(原告特定)」は、原告プログラムの著作権侵害を示す証拠として入手したデータから、被告の侵害製品を構成するプログラムとして検出したもので、バージョンが異なるものを名称によって統合し、整理したものである。被告らが、関係のないファイルが紛れ込んだにとどまる旨主張する「ChgDcmToImg.exe」を含めて、侵害製品を構成することも、消去の必要性も否定すべき理由はない。
また、別紙「被告プログラム目録(原告特定)」は、別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1及び2の各システムを構成するプログラムという表現で十分に対象を特定、限定しているものである。被告らの主張は、「システム」の用語を広く解し過ぎており、相当ではない。
【被告会社の主張】
(1) 差止め等の必要性について否認し、争う。
上記のとおり、被告会社は原告プログラムを複製等していない。また、遅くともクライム社が別件訴訟を提起した令和2年2月19日以降に、テストツールが使用されたこともなく、将来的に使用される可能性もない。
(2) 別紙「被告プログラム目録(原告特定)」記載のプログラムのうち、同1は、そもそもテストツールのプログラムではなく、本件クライム社製品に含まれる別のファイルが紛れ込んでいたものに過ぎない。同2ないし8は、いずれもテストツールのプログラムではあるが、同2、4、5及び6の各名称のプログラムのうちの一部並びに同7はテストツールにおいても不要なプログラムである。また、原告がD病院及びGクリニックから入手したとするデータは、入手経路に疑義があり、これに基づく差止め等の対象認定・特定はされるべきではない。
加えて、別紙「被告プログラム目録(原告特定)」は、各プログラムを名称のみで特定し、容量及び更新日時での限定をしておらず、同一名称のプログラムが、別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載2の「システム」に含まれているとして、過大な請求として解されるおそれがあるため、容量及び更新日時も要素としての特定がされるべきである。
4 争点4(被告Aの共同不法行為の成否)について
【原告の主張】
被告Aは、クライム社の従業員として、プログラム製品の開発の責任者である開発課課長として業務に従事していたが、平成21年10月31日に同社を退職して被告会社に転職し、同年11月1日に取締役に就任した後(平成27年7月6日以降は、被告会社の代表取締役)、被告会社において、原告プログラムを使用したmammodite の製造及び販売に関与している。そうすると、被告Aには、原告に対する加害について故意又は過失があるといえ、被告会社の上記不法行為(著作権侵害又は不正競争)について共同不法行為が成立する。
【被告Aの主張】
否認し、争う。
5 争点5(会社法429条に基づく損害賠償責任の成否)について
【原告の主張】
被告Aは、被告会社の取締役として、被告会社をして違法な行為を行わせないよう監督する職務上の義務を負っていた。そうすると、被告Aは、被告会社が事業活動として各種のシステム開発を行うに当たり、他者の知的財産権を侵害しないよう自ら監視し、又は侵害しないことを確保する体制を構築する義務を著しく怠る職務上の重大な過失によって、漫然と、被告会社をして、原告プログラムに係る原告の著作権又は営業秘密を侵害させ、それによって原告に損害を生じさせた。
よって、被告Aは、会社法429条1項に基づき、原告に対して当該損害を賠償する責任を負う。
【被告Aの主張】
否認し、争う。
6 争点6(被告らの一般不法行為の成否)について
【原告の主張】
知的財産権法は不法行為法の特別法であるところ、知的財産権侵害が成立しない場合であっても、知的財産権法が規律の対象とする知的財産の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情が認められるときには、一般不法行為の成立が肯定されるところ、知的財産等の利用行為が、①恣意的に特定の営業主体の営業のみを妨害しようという害意を伴う利用行為である場合や、②製品化契約の締結を求めて持ち込まれたデザイン等の作品につき同契約の締結を拒絶しておきながら自らこれを製品化するといったような先行行為・先行事情がある場合には、知的財産権法上の利用利益とは異なる法的利益と観念される営業上の利益を侵害するものといえるから、自由競争の範囲を逸脱するものとして、一般不法行為が成立する。
本件において、被告らは、原告のビジネスの概要のみならず、原告プログラムのライセンスに係る条件の内容や使用料の詳細等を認識した上で、あえて、正規にライセンスを取得することなく無断で原告プログラムを利用したのであるから、このような被告らの行為については、著作権法又は不競法違反の成否にかかわらず、一般不法行為が成立する。
【被告らの主張】
否認し、争う。
著作権法6条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為は、同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないと解するのが相当であるところ、本件において、上記特段の事情はないから、被告らに一般不法行為が成立しない。なお、被告会社は、原告のライセンスの体系や価格が被告会社の希望する条件に合わなかったことから、mammodite の開発には原告プログラムのライブラリを採用せず、DCMTKを採用することとしたのであり、mammodite の正規品には原告のプログラムは一切使用されていない。
原告は、害意が存する場合や先行行為・先行事情が存する場合に一般不法行為が成立すると主張するが、原告独自の見解にすぎない。
7 争点7(原告の損害額)について
【原告の主張】
(1) mammodite の正規品に係る損害
ア 逸失利益
(ア) 開発時の損害
被告会社が、原告から利用許諾を受けて、プログラム開発のために原告プログラムを利用する場合、PDプログラムにつき50万4000円(消費税込み(当時))、ICプログラムにつき21万円(消費税込み(当時))のライセンス料の支払を要する(甲4)。
よって、被告会社がmammodite のプログラムを開発した際の原告プログラムの複製・使用による損害額は合計71万4000円である。
(イ) 開発後の損害
被告会社は、平成24年9月以降、mammodite を販売しており、その販売数は年間少なくとも100台で、これが令和3年12月まで継続された。
そして、被告会社が、原告から利用許諾を受けて原告プログラム(計2つのプログラムファイル)を複製又は使用する場合、少なくとも、1プログラム当たり、PDプログラムにつき3万2000円(消費税別)、ICプログラムにつき2万円(消費税別)、合計5万2000円(消費税別)のライセンス料の支払を要する(甲4)が、本件では、少なくとも、PDプログラムとして13種類、IDプログラムとして12種類の内容の異なるプログラムファイルの複製が判明しているところ、1台あたりにこれら各プログラムが複製されたもので、それぞれごとに上記ライセンス料相当の損害が発生するといえる。
これらを踏まえると、被告会社が原告プログラムの複製・使用及び譲渡を行ったことで原告が被った損害は6億6108万4000円となる。
イ 弁護士費用
本件訴訟の内容と性質に照らせば、被告らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、上記アの合計額6億6179万8000円の2割に相当する1億3235万9600円を下らない。
ウ 以上のとおり、mammodite の正規品たる別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1の製品等に係る被告らの行為によって、令和3年12月31日までに原告が被った損害額は合計7億9415万7600円であるところ、原告は、被告らに対し、上記損害の一部として1億円を、連帯して支払うよう請求する。
(2) 被告がテストツールと称する別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載2の製品等に係る損害
ア 逸失利益
(ア) 開発時の損害
上記と同様、当該損害額は71万4000円を下らない。
(イ) 開発後の損害
被告会社は、少なくとも3つの医療機関(Bクリニック、D病院、Gクリニック)に対して納入した製品に原告プログラムを複製・使用していた。これらの医療機関において、①サーバーPCに存在する20個のプログラム中にPDプログラムが複製され、17個のプログラム中にICプログラムが複製されており、②クライアントPCに存在する9個のプログラム中にPDプログラムが複製され、7個のプログラム中にICが複製されていた(すなわち、テストツールに複製されたPDプログラムは合計29個、ICプログラムは24個である)。
原告プログラムのライセンス料は、上記のとおり、1プログラム当たり、PDプログラムにつき3万2000円(消費税別)、ICプログラムにつき2万円(消費税別)、合計5万2000円(消費税別)であるから、1医療機関当たりの損害額は、140万8000円を下回ることはない。
そして、被告会社は、平成24年9月以降、年間100台のペースでmammodite を販売しており、被告のシステムが使用するパソコンの製造者による保証期間は一般的に最長5年であること、テストツールを要するようなトラブルの発生率が5%であることを踏まえて計算すると、平成12年から令和7年までにかけて、テストツールたる別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載2の製品等は、少なくとも255の医療機関に導入されたものといえる。
そうすると、上記導入による原告の損害額は、3億5904万円(=140万8000円×255)を下らない。
(ウ) 検証用サーバー
被告会社内に存在する検証用サーバーに保管されたPDプログラム及びICプログラム一式分の損害額は140万8000円である。
イ 弁護士費用
上記アの損害額の2割に相当する額は、被告らの不法行為と相当因果関係のある損害である。
ウ 以上より、テストツールたる別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載2の製品等に係る被告らの行為によって、原告が被った損害額は4億3339万4400円であるところ、原告は、被告らに対し、上記損害の一部として1億円を連帯して支払うよう請求する。
なお、被告らの主張を踏まえて、算定し直したとしても、開発環境での損害は3ライセンス相当分の204万円であるほか、配布用ライセンスに係る損害は、テストツールの本来の用途に従った使用、誤っての使用、検証環境セットアップのための使用をあわせたものとして、PDプログラム1122本分とICプログラム928本分の計5446万4000円で、損害額の合計は5650万4000円となる。
【被告らの主張】
すべて否認し、争う。
ランタイムライセンス料は、1パソコン 当たりの金額として計算すべきであって、1プログラム当たりの金額として、プログラム数を乗じるような算定をすべきではない。
また、mammodite の正規品について、テストツールを使用した方がよいレベルの不具合が生じることは極めてまれであり、医療機関に納入されたのは合計12施設(合計パソコン数は12)であり、実際に使用されたと考えられるのは、多くても合計10施設(合計パソコン数は10)である。そして、原告の主張と被告会社内の調査結果を照らし合わせれば、上記10台のパソコンについて、テストツールに切り替えられた状態では、10台全てにPDプログラムが使用され、そのうち9台にICプログラムが使用されたということになる。
PDプログラムのランタイムライセンス料は3万2000円(消費税別)、ICプログラムのランタイムライセンス料は2万円(消費税別)であるから、上記使用に係る合計額は、50万円(消費税別=10×3万2000円+9×2万円)となる。これに加えて、検証サーバーにもテストツールが保管されていることから、その1台分として、PDプログラム及びICプログラムの合計5万2000円を加算すると、ランタイムライセンス料の合計額は、55万2000円(消費税別)となる。
また、開発に当たってパッケージ製品を購入することになっているところ、パッケージ製品の金額は、PDプログラムが48万円、ICプログラムが20万円(いずれも消費税別)である。
以上から、原告の損害額は、多くても、パッケージ製品及びランタイムライセンス料の合計に相当する123万2000円である。
8 争点8(消滅時効の成否)について
【被告らの主張】
クライム社は、令和2年2月19日に別件訴訟を提起し、mammodite のプログラムにおいてクライム社のプログラムのソースコードが使用されているとの主張をし、これに対し、被告らは、同年9月23日付準備書面において、クライム社が侵害対象として指摘するプログラムは、mammodite の正規品ではなく、テストツールに係るプログラムであると主張した。これに対し、クライム社は、同年10月頃、原告に対し、被告会社が原告プログラムを盗用してmammodite を開発販売していることが疑われる旨伝えたところ、原告は、mammodite の分析をすると申し出て、クライム社から、令和3年6月18日に、侵害対象として問題となっていたプログラムのデータの提供を受けたのであるから、遅くともこの頃、当該データがテストツールであることを知り、「損害及び加害者」を知ったといえる。
そして、テストツールはクライム社が別件訴訟を提起した令和2年2月以降は使用されていないため、テストツールに係る損害賠償請求権は全て令和3年6月18日以前に発生したものであるところ、令和6年6月18日の経過によって消滅時効が成立している。仮に、令和2年2月以降にテストツールが使用されたとしても、その損害賠償請求権は、令和6年6月18日以降に順次消滅時効が完成し、原告がテストツールに関する損害賠償請求権についての訴えを追加した令和7年4月14日時点で3年を超過していた部分について消滅時効が完成した。
【原告の主張】
否認し、争う。
上記データの提供をもって、原告が「損害及び加害者」を知ったとはいえない。
また、原告は、本件訴訟の早期の段階から、被告会社が原告プログラムを使用している対象を正規品と呼称しようが、テストツールと呼称しようが原告の権利侵害に相違ないと主張していたのであるから、何ら権利行使の懈怠はなく、時効完成前に、時効の完成猶予の措置が講じられたものといえる。
第4 判断
1 争点1(著作権侵害の成否)について
(1) 原告プログラムの著作物性及び著作権者
ア プログラムは、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(著作権法2条1項10号の2)であり、所定のプログラム言語、規約及び解法に制約されつつ、コンピューターに対する指令をどのように表現するか、その指令の表現をどのように組み合せ、どのような表現順序とするかなどについて、著作権法により保護されるべき作成者の個性が表れることになる。
したがって、プログラムに著作物性があるというためには、指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性、すなわち、表現上の創作性が表れていることを要するといわなければならない(知財高裁平成21年(ネ)第10024号同24年1月25日判決・判例時報2163号88頁参照)。
イ 原告プログラムのうち、PDプログラムは、医療用システムの標準規格であるDICOM規格に準拠したシステム開発をサポートするための機能を有する総合的な開発キットプログラムであり、そのプログラム構成としては、ライブラリを主たる内容としつつ、ヘッダーファイル、ライブラリファイル利用のためのインターフェース等のプログラムも付加することで全体が構成されている。一方、原告プログラムのうち、ICプログラムは、DICOM規格に準拠した医療画像処理ソフトウェア開発用ライブラリで、PDプログラムを前提とするオプション製品であり、医療画像データの読込み、表示、加工等の機能を備えている。
一般に、ライブラリは、汎用的に利用可能な関数やクラスをまとめたもので、開発者が記述したソースコードをコンパイルしてオブジェクトファイル(機械語)に変換し、これをまとめることでライブラリファイルとして生成される。原告プログラムのライブラリも、ソースコードで記述された関数等をコンパイルしたオブジェクトファイルからなるもので、機械語で記述されている。
開発キットである原告プログラムを用いて新たなプログラムを制作する者は、自ら記述したソースコードをコンパイルしてオブジェクトファイルとし、これと原告プログラムのライブラリをリンクすることで、実行プログラムを生成するもので、原告プログラムのライブラリを組み込むことによって、効果的、効率的なプログラム制作を可能とするものといえる。(甲4、6、9、14、31、32、乙51〔枝番を含む。以下同じ〕、弁論の全趣旨)
本件で、原告は、原告プログラムのライブラリについて、創作性を主張立証するものである。
ウ 原告プログラムのライブラリについては、これが機械語に変換される前のソースコードの全体が開示されているものではないものの、そのプログラムの性質上求められる機能の種類やその多様性、それらに伴って要求される演算処理の内容等に照らせば、PDプログラム及びICプログラムのいずれのライブラリも、相当の行数にわたる長大なソースコードをもって記述されたものが機械語に変換されたものと認められる。このことのみから直ちにプログラムとしての創作性を肯定するものではないが、相当のプログラム表現上の選択の幅の中で、特定のプログラム表現を原告が選択したことをうかがわせる事情として指摘した上で、原告が原告プログラムのライブラリに係るコンパイル前のソースコードを開示して主張立証する部分を具体的に見ても、①プログラムの動作記録を行うLOGとエラーが生じた場合に対応する処理とを関連付ける記述部分、②マルチスレッドプログラミングの記述部分、③画像データの保存と受信の形式に係る記述部分、④メモリ使用量を少なくするデータ受信方法に関する記述部分があり(甲6~9)、いずれも創作性を肯定することができる。
すなわち、①は、DICOM規格に反した画像データの処理方法に関する記述であるが、原告は、開発キットプログラムである原告プログラムの利便性の向上を目的として、88個(86種)のエラーメッセージ(PDプログラムにつき79個(77種)、ICプログラムにつき9個(9種))を4つのエラー重大性レベルにカテゴリ化するとともに、LOGとエラーメッセージとの関連付けについて、相当の選択の幅が想定される中で、特定の選択をし、これをプログラム表現として記述したのであるから、原告の個性が表れているといえる。また、②は、原告プログラムが、複数の演算処理を同時に実行するマルチスレッドプログラミングの手法でのシステム開発で用いられることを想定したもので、これに対応するためのプログラミング記述には相当の選択の幅が存在するところ、原告はその選択の幅の中から、特定の記述を選択したといえるから、原告の個性が表れているといえる。さらに、③については、DICOM規格のもとでは、データの保存に関する事項とネットワーク通信に関する事項は、別概念に属するものとされているため、プログラム上もデータ保存に係る表現様式とネットワーク通信に係る表現様式は異なるのが一般的であるところを、原告プログラムでは、その利用者の利便性の観点から、両様式を統一することを前提にプログラムの記述をしているところ、やはり選択の幅がある中から特定の記述をしたものといえるから、その記述には原告の個性が表れている。④については、上記原告プログラムの内容に照らせば、プログラムで処理をする画像データは大容量となり、そのような大容量のデータの受信によってプログラムの処理速度が遅くなるとの問題が生じることは容易に想定できるところ、原告は、この問題を踏まえて、DICOM規格の画像データを受信処理する方法(順序や手順等)について、選択の幅がある中から、特定の選択をし、プログラムとして記述したものといえるから、その記述には原告の個性が表れているといえる。
したがって、原告プログラムのライブラリの記述は、原告の個性が表れた創作的な表現であることから、原告プログラムは著作物性を有するもので、その著作者である原告が著作権を有するものと認められる。
ウ 被告らは、原告プログラムがアストロ社のプログラムを流用したものであって、原告プログラムに著作物性があるとしても、原告は著作者とはいえず、著作権を有しない旨を主張する。しかし、被告らがその根拠として挙げる事情は、原告代表者がアストロ社の元役員で、アストロ社を退職後間もない時期に、同社の製品と用途を同じくする原告プログラムの販売を開始したもので、両製品間ではマニュアルの記載も類似していること、原告がアストロ社との間でプログラム著作権をめぐる紛争を抱えていたことというものではある(乙49~51)が、それら事情は、具体的なプログラム上の表現に関するものではなく、機能面も含めて外形的な事情にとどまるものと言わざるを得ず、原告プログラムが原告以外の者によって創作されたことを具体的に立証するものではない。よって、被告らの上記主張は採用できない。
(2) 原告プログラムの複製の有無
ア 複製の判断枠組み
プログラムの著作物の複製の有無は、既存のプログラムの具体的表現中の創作性を有する部分について、これに依拠し、この内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製したといえることが必要であるから、各プログラムのソースコードを対比して検討することが一般ではある。しかし、上記のとおり、原告プログラムは、その創作性が肯定されるライブラリが機械語で記述されているもので、これを使用して医療用システムを開発しようとする者は、コンパイル前のソースコードの開示を受けるわけではなく、既に機械語となっているライブラリを主たる内容とする原告プログラムを自らの開発環境に置いた上で、自身が記述したソースコードをオブジェクトファイルに変換したものと原告プログラムのライブラリをリンクさせて実行プログラムを生成し、医療用システムとして完成させる、つまり、原告プログラムのライブラリを当該医療用システムに組み込むことで、効果的、効率的な開発を可能とするものである。
このような原告プログラムの内容及び利用態様を前提に、原告も、本件においては、被告会社が、機械語で記述されたライブラリを主たる内容とする原告プログラムを自らの開発環境に複製した上で、mammodite の開発に使用し、その製品内に上記ライブラリを組み込むことで mammodite の正規品である別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1の製品等を製造販売等したと主張するものである。このような原告プログラムの特質上、ソースコードの対比をもって複製の判断をすることは想定しようがない一方、被告会社が、原告プログラムそのものを自らの開発環境に複製したり、そのライブラリを製品内に組み込んで複製したりしていたことが立証されるのであれば、原告が著作権を有するプログラム著作物である旨説示済みの原告プログラムの複製そのものというべきである(ただし、そのような複製が立証されたとして、それがどの製品等であるかは、別途の争点となる。この点は、後記(3)で検討する。)。
イ 認定事実
前記前提事実に加え、証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア) クライム社従業員の転職及び mammodite の開発等
本件クライム社製品は、医療用システムの開発キットである原告プログラムを使用して、クライム社が開発した製品名を「mammary」とするマンモグラフィー画像診断システムである。そのため、本件クライム社製品は、原告プログラムのライブラリをその一部として組み込んでいるもので、クライム社が独自に記述したソースコードをコンパイルして機械語となったオブジェクトファイルとリンクされ、それらが一体となって本件クライム社製品を構成し、マンモグラフィー画像診断システムとして必要な機能を実装するものであった。
クライム社においては、本件クライム社製品の開発、販売開始当初から、顧客のもとを訪れて本件クライム社製品のメンテナンスを行うに当たっては、当該担当者の私物パソコンを持参してその業務を行うことが常態化していた。そのため、本件クライム社製品を担当する従業員は、このような業務上の必要性から、私物パソコンに、本件クライム社製品のプログラムを保存しており、これに伴って、原告プログラムも私物パソコンに保存していた。
クライム社の従業員であったN氏は、平成21年7月にクライム社を退職し、平成24年3月頃に被告会社に入社した。N氏は、クライム社在籍時には、本件クライム社製品も担当していたもので、クライム社の退職後である平成22年2月12日においても、同社代表者から、本件クライム社製品の不具合に関する技術的なサポートの相談を受けていた。(乙53)
H氏を含むクライム社の従業員4名は、平成24年2月末にクライム社を退職し、同年3月1日に被告会社に入社したが、このうち2名は、クライム社在籍中に、本件クライム社製品に係る業務のため、私物パソコンに本件クライム社製品のプログラムを保存しており、これに伴って原告プログラムも保存していた。
被告会社では、これらクライム社からの転職と時期を同じくする平成24年3月にメディカル事業部を立ち上げ、被告会社へ転職した者達は、いずれも同事業部に配属された。このうちH氏は、同年4月には、被告会社のメディカル事業部担当の取締役に就任した。
被告会社は、平成24年9月には、メディカル事業部が担当するmammodite について、厚生労働省から「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に基づく認証を受け、その頃にmammodite の販売を開始した。(乙52)
(イ) Bクリニックに被告会社が残したプログラムの分析等
Bクリニックでは、マンモグラフィー画像診断システムとして、被告会社の販売する mammodite の導入を考えて被告会社との間で調整を進め、平成30年5月21日には、被告会社がBクリニック内でその導入作業として、複数台のパソコンの持込み及び設定を行い、被告会社提供に係るマンモグラフィー画像診断システムを利用することが可能な環境が構築された。しかし、その後、Bクリニックと被告会社は、仕様変更の可否をめぐるやりとりを通じて、関係性が険悪となっていき、同年8月頃には、Bクリニックへのmammodite 導入は白紙になるとともに、被告会社は、いったん構築した上記複数台のパソコンを回収することもできないまま、Bクリニックに立入りすることができなくなった。(甲10、乙14~16)
Bクリニックでは、マンモグラフィー画像診断システムとして、新たに本件クライム社製品の導入を決めたところ、クライム社は、同年9月、Bクリニックを訪れて、その導入作業を行ったが、その際に、被告会社が残したままとなっていたマンモグラフィー画像診断システムに係る複数台のパソコンを回収し、そこにインストールされていたプログラムを採取することとなった。
この採取に係るプログラムは、その後に原告がクライム社から最初に提供を受けた「XronoUtil.dll」及び「MkThumbnail.exe」との名称のプログラムをはじめ、約10種のプログラムにおいて、原告プログラムの乱数表、原告がクライム社への利用許諾の際に発行したID及びパスワード、原告プログラムの開発段階においてライブラリに使用したソースコードファイルの一部のファイル名と一致する22個の文字列、原告プログラムが特定の挙動をした際に表示される全86種のLOGメッセージ(PDプログラムにつき77種、ICプログラムにつき9種)と一致する文字列、原告の商号を表す文字列、プログラムの国際標準登録機関における原告のIDを示す数字列を、それぞれ機械語として含むものであったほか、原告プログラムに含まれる18の関数(PDプログラム15、ICプログラム3)のオブジェクトコードと一致するオブジェクトコードも含まれていた。(甲8、17、18、32)
ウ 検討
上記のとおり、被告会社が平成30年5月にBクリニックへの mammodite導入のために持ち込み、結果として、残置することとなったパソコンに保存されていたプログラムには、原告プログラムの乱数表、原告プログラムのライブラリに係る機械語変換前のソースコードファイルの一部のファイル名と一致する22個の文字列、原告プログラムが特定の挙動をした際に表示されるLOGメッセージ86種と一致する文字列、原告の商号を表す文字列など、原告プログラムとの一致点が多岐にわたっており、偶然では説明がつかない内容といえる。しかも、被告会社は、平成24年9月頃の mammodite の販売に先立って、クライム社からの転職者を複数雇用しているが、クライム社はmammodite と競合する先行製品である本件クライム社製品を、原告プログラムを用いて開発したもので、それら転職者の私物パソコンには、本件クライム社製品のプログラムに伴って原告プログラムも保存されていたところ、被告会社は、原告プログラムを容易に利用できる環境にあったものといえる。このような事情に照らせば、被告会社では、原告プログラムのライブラリをその一部とするマンモグラフィー画像診断用システムを長期間保有し、利用していたもので、その制作過程でも原告プログラムが複製、使用されたと認めるのが相当であり、この認定を妨げるに足りる証拠はない。
したがって、被告会社は、原告が著作権を有するプログラム著作物である原告プログラムを複製し、その著作権を侵害したものといえる(以下では、被告が保有し、原告プログラムをその一部とするマンモグラフィー画像診断用システムのことを「本件侵害品」ということとする。)。
なお、被告会社は、著作物である原告プログラムにつき、その創作性の根拠となっているライブラリを含めて複製したものであり、これをもって著作権侵害の立証としては十分であるため、原告プログラムとの個々の一致点について創作性を論じる必要はない。
(3) 本件侵害品は mammodite の正規品か
ア 原告は、本件侵害品こそ mammodite の正規品、つまり、別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1の製品である旨主張するのに対し、被告はこれを否定し、mammodite の動作不良があった場合等に、同じ用途の別ソフトウェアに置き換えて動作検証等を行うためのテストツールにとどまる旨主張する。また、原告は、仮に被告会社が本件侵害品とは別の製品をmammodite として保有、販売しているとしても、被告会社が自らの侵害行為を察知されたと気づいた後のことであり、それまでは本件侵害品を mammodite として販売していた旨主張するものでもある。
この点、Bクリニックにおいて、mammodite 導入直後のパソコンに本件侵害品が残置されていたことなどからすると、これが mammodite の正規品であると原告が疑うのももっともな部分がある。
しかし、証拠(乙5、17、22~24、27~33、37~42)によれば、被告会社では、C病院、D病院、Eクリニック、F病院ほか3医療機関において、mammoidte の正規品を納入しているが、それら正規品のプログラムは、本件侵害品とは異なり、原告プログラムとの上記のような一致点を見出すことはできず、むしろ、原告プログラムとは別の医療用システム開発プログラムであるDCMTK(乙8)を示す文字列も確認されている。そうすると、これら医療機関で稼働しているマンモグラフィー画像診断用システムは、原告プログラムのライブラリをその一部とする本件侵害品ではなく、DCMKTを用いて別に開発された製品であると言わざるを得ない(以下、このマンモグラフィー画像診断用システムのことを「本件別製品」という。)。
しかも、上記証拠によれば、上記7医療機関における本件別製品の納入時期は、順に、平成28年3月13日、平成29年3月23日(ただし、同月27日に切替えツールの実行により本件侵害品に入れ替えられ、その後令和元年12月27日までに本件別製品に戻されたもの。)、平成30年4月5日、平成31年3月24日、残りの3医療機関は平成30年7月5日、同年8月6日、同年11月25日で、いずれもBクリニックで導入作業が行われ、その残置パソコンをクライム社が回収するという経過のあった平成30年5月ないし同年9月と時期を同じくし、これよりも以前のものも複数含まれているところ、これら事実関係は、本件別製品が、従前からmammodite の正規品として販売されていたことを示すものといえる。
そして、証拠(乙24~26)によれば、被告会社では、IPアドレス末尾を50とするサーバー(以下「50サーバー」という。)と、IPアドレス末尾を52とするサーバー(以下「52サーバー」という。)の2つのサーバーを保有していた(乙25)が、上記各医療機関では、いずれも mammodite導入にあたって、被告会社が医療機関に持ち込んだパソコンから、50サーバーにアクセスし、同サーバーに保存されているデータをダウンロード、実行する手順がとられていた(乙24、29~33、37~42)。これに対し、Bクリニックでの導入作業では、被告会社の持ち込んだパソコンから、50サーバーではなく、52サーバーにアクセスし、データをダウンロード、実行する手順がとられ、その結果として、本件侵害品が導入されていたものである(甲19、乙24)。これらの事情は、被告会社においては、従来から、50サーバーに本件別製品を、52サーバーに本件侵害品を保存、保有していたもので、mammodite の正規品を納入する際は、50サーバーにアクセスして、本件別製品に係るデータをダウンロード、実行することとしていた、52サーバーにはテストツールや開発中の製品などを保存していたという被告らの主張と整合的といえる。
本件においては、Bクリニックで、52サーバーに保存されていた本件侵害品に係るデータがダウンロード、実行された経緯には不分明の部分があることは否定できないものの、以上の諸事情に加え、一般論として、プログラムで構成された正規品の不具合の際に、動作検証等を行うために、同じ用途、目的の機能を備えたテストツールを保有しておく必要性自体は了解可能であることも踏まえると、被告会社が mammodite の正規品として販売していたのは、本件別製品であると認められる一方、本件侵害品がmammodite の正規品であることを認めるに足りる立証がされているとはいえず、証拠上の認定としては、正規品とは別のテストツールとして被告会社が保有し、使用していたものと認められる。
イ これに対し、原告は、Bクリニックのみならず、同じく mammodite を導入しているD病院及びGクリニックのパソコン内のデータにおいても、原告プログラムとの一致点が検出されたのであるから、原告プログラムのライブラリをその一部とする本件侵害品こそが mammodite の正規品として販売されていたものである旨主張する。
この点、被告らも、それら医療機関に、本件侵害品のデータが存在していたこと自体を否定するものではない(乙65)が、mammodite を導入している複数の医療機関で本件侵害品のデータが存在したとして、これがテストツールであることと矛盾するものではなく、上記アで説示のような多数の納入先医療機関での諸事情を踏まえた判断を左右するものではない(ただし、本件侵害品がどの程度の頻度、範囲で利用されていたかを検討する上での1事情とは考えられる。)。
他方、原告は、それらデータの入手経緯について、D病院につき、クライム社代表者がD病院の対象パソコンから取得したものの提供を受けた、Gクリニックにつき、自らがGクリニックを別用務で訪れ、パソコンを用いた作業の際に、採取したとするものであるが、それらを根拠づける証拠は原告代表者の陳述書のみで(甲37、43)、裏付けを欠き、各医療機関がその提供を認めているわけでもない(乙54、57)ところ、原告がそれらデータの内容や解析結果とするところ(甲32、37、43、44、49など)をもって、本件侵害品がそれら医療機関に存在していたという被告らが認めている事実以上の具体的な事実を認めることはできず、そのような事実の存在を前提に、本件侵害品の被告会社での位置づけなどを論じることもできない。
ウ また、原告は、上記アの各医療機関で稼働しているマンモグラフィー画像診断システムが本件別製品であるとしても、当初は本件侵害品を正規品として導入していたところを、自らの侵害を察知されたと考えた被告会社が、事後的に、本件別製品と入れ替えたものである旨も主張する。
しかし、これらの全医療機関でそのような入替えが行われたことを積極的に示す証拠があるわけではない。この点、D病院においては、mammodite の導入直後の平成29年3月27日に、プログラムの切替えツールが実行され、本件侵害品に入れ替えられた上で、遅くとも令和元年12月27日のアップデートまでに本件別製品に入れ替えられたことが認められる(乙27、28、42)が、このような経過も、本件侵害品が mammodite の正規品であることを示すものではなく、むしろ、被告会社においては、かねてから、本件別製品と本件侵害品とを並行して保有し、切替えツールによる入替えを行うことがあったことを示すもので、被告らの主張に整合的といえる(ただし、本件侵害品がどの程度の頻度、範囲で利用されていたかを検討する上での1事情とは考えられる。)。これに対し、原告は、D病院に存在したプログラムに係る被告らの解析結果(乙27)には、切替えツールの実行時期などについて疑義がある旨の証拠も提出する(甲41)が、上記証拠(乙27)の信用性を決定的に否定するまでのものとはいえない(乙42)上、上記アの多数の医療機関に係る証拠評価全体を揺るがすものとはいえない。
他方で、仮に、原告が主張するように、本件侵害品こそが mammodite の正規品であったとすれば、これを導入した医療機関のパソコンには、Bクリニックのように、52サーバーに保存されていたデータの実行履歴が残ることになると考えられるが、実際には、前記のとおり、導入時の実行履歴は、いずれも50サーバーに保存されたデータに関するものであった。この点、本件侵害品に係るデータが50サーバーにも保存されていたという前提に立てば、原告の主張とも一応の整合性が保たれるものではあるが、あくまで抽象的な可能性、想定の域を出るものではなく、50サーバーと52サーバーに、本件別製品と本件侵害品に係るデータをそれぞれ分けて保存し、目的に応じて使い分けていたとする被告らの主張により整合的な履歴といわざるを得ない。
エ 以上のイ及びウの検討に照らせば、上記アの認定、判断を否定し、本件侵害品が mammodite の正規品であるとの立証がされているとはいえず、他の証拠を踏まえても、この点に関する原告の主張は採用できない。
(4) 本件別製品は原告プログラムを複製したものか
ところで、原告の主張は、mammodite の正規品が原告プログラムを複製し、その著作権を侵害するというものであるところ、本件別製品が mammodite の正規品であるとの判断をする以上、これが原告プログラムを複製するものであるかについて、別途判断する必要がある。
しかし、上記(3)アで説示のとおり、本件別製品は、本件侵害品とは異なり、原告プログラムとの一致点があるとは認められず、むしろ、原告プログラムとは別の医療用システム開発プログラムであるDCMKTを用いて開発された製品であると認められるところ、原告プログラムのライブラリをその一部とするなどして、複製したものとは認められない。
よって、本件別製品たる mammodite の正規品は、原告プログラムを複製したものとはいえない。
2 争点2(被告会社の不正競争の成否)について
(1) 判断を要する争点の範囲
原告は、被告会社に対する差止等請求及び損害賠償請求の法的根拠につき、著作権侵害と不競法違反を選択的とするもの(損害賠償請求については、不法行為も加えての選択的)であるところ、著作権侵害に係る前記1の判断のもと、本件侵害品たるテストツールに係る差止め等の請求について後記3のとおりに認容されるべきもので、また、損害賠償請求についても後記7のとおりに一部認容されるべきで、仮に不競法違反が認められたとしても、その損害算定額が著作権侵害における損害算定額を超えるものではないといえるから、本件侵害品たるテストツールとの関係で、被告会社の不競法違反及び不法行為の成否について、別途判断することはしない。
他方、本件別製品たる mammodite の正規品については、前記1で説示のとおり、著作権侵害が認められず、著作権に基づく差止め等の請求及び損害賠償請求のいずれも棄却されるべきものであるところ、不競法違反及び不法行為の成否について、別途判断する必要があることになる。
(2) 不競法2条1項8号等の不正競争の成否
原告は、原告プログラムのライブラリファイルが原告の営業秘密に該当することを前提に、mammodite の正規品は、被告会社が同営業秘密を使用して開発したものである旨主張する。
しかし、前記1(4)で説示のとおり、本件別製品たる mammodite の正規品は、本件侵害品とは異なり、原告プログラムとの一致点があるとは認められず、むしろ、原告プログラムとは別の医療用システム開発プログラムであるDCMKTを用いて開発された製品である。そのため、原告プログラムのライブラリファイルが原告の営業秘密に該当するとしても、本件別製品たるmammodite の正規品が、当該営業秘密を使用して開発されたものとは認められない。
したがって、営業秘密該当性について判断するまでもなく、被告会社が、原告の営業秘密を使用して mammodite の正規品を開発したとは認められず、これを前提とする mammodite の正規品、すなわち、別紙被告製品等目録(原告特定)記載1の製品等に係る差止め等の請求及び損害賠償請求は理由がない。
なお、原告は、被告会社による原告の営業秘密の不正取得も主張するが、その主張が認められたとしても、上記のとおり、その「使用」が認められないmammodite の正規品に係る差止め等の請求及び損害賠償請求を法的に根拠づけるものとはならないから、判断を要しない。
(3) 不競法2条1項18号の不正競争の成否
原告は、原告との関係で正規の開発者であるクライム社に発行したユーザIDとパスワードにつき、被告会社がmammodite の正規品に埋め込むことによって、パスワード認証を通過できるようにし、不競法2条1項18号に該当する行為を行った旨主張する。
しかし、原告の主張は、mammodite の正規品が本件侵害品であることを前提とするものであるが、その主張が採用できないことは、前記説示のとおりである。mammodite の正規品は、原告プログラムとの一致点を見出すことのできない本件別製品であるとの前提に立つ以上、被告会社がパスワードなどをその製品内に埋め込んだことを認める根拠はなく、その主張は採用できない。
3 争点3(差止め及び廃棄の必要性並びに対象の特定)について
前記1及び2での判断を前提に、原告の差止め等の請求につき、その認容範囲等を検討する。
(1) まず、被告会社による原告プログラムの無断複製、使用があったものであるところ、その使用の差止めを求める原告の請求を認容する(主文第1項、請求第1項)。
なお、原告プログラムは、その性質、内容等に照らし、使用が複製と不可分の関係にあるところ、複製権に基づきその使用を差し止めることができると解するものである(被告らもこの点を特に争点とするものではない。)
(2) 次に、原告が、別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1及び同2の製品等の製造販売等の差止め及び廃棄を求める請求(請求第3項)については、同1の製品等、すなわち、本件別製品たるmammodite の正規品に係る差止め及び廃棄請求の法的根拠とする著作権侵害と不競法違反がいずれも認められないからいずれも棄却する一方、同2の製品等、すなわち、本件侵害品たるテストツールに係る差止め及び廃棄請求については、著作権に基づくものとして、認容する(主文第3項)。
ただし、その対象については、形式的な修正に加え、原告プログラムを構成しつつ、本件侵害品を構成することが証拠(甲18、55)上認定できる範囲(つまり、前記1(3)イで説示のとおり、D病院及びGクリニックで確認されたと原告が主張するプログラムは含まれない。)として、別紙「被告製品目録(裁判所特定)」のとおりに特定するものである。
なお、被告会社は、本件侵害品たるテストツールについては現に使用しておらず将来使用する予定もないので、その差止め等の必要性はない旨主張するが、被告会社は、本件侵害品を、テストツールとして長年利用し続けてきたものである上、マンモグラフィー画像診断用システムとしての用途、目的を果たすだけの機能を備えるものといえる以上、原告が請求するとおりに、その製造販売等の差止め及び廃棄の必要性が肯定されるものである。
(3) 原告は、上記(2)の差止め及び廃棄の請求とあわせて、その製品を構成する各プログラムの消去も請求する(請求第2項、別紙「被告プログラム目録(原告特定)」)ものであるところ、著作権法112条2項の措置として、その必要性も認められるため、上記(2)の認容対象を構成するプログラムの限りにおいて、これを認容する(主文第2項)。
ただし、その対象は、同一名称の別プログラムを含むものではないことを明確にすべく、別紙「被告プログラム目録(裁判所特定)」のとおりに特定するのが相当である。
(4) ところで、被告らは、原告が差止め等の請求の対象として、別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載2の製品等を追加することは、著しく訴訟手続を遅滞させるため、訴えの変更を許すべきではない旨申し立てる(民事訴訟法143条4項)。この点、本件訴訟において、原告が差止め等の請求の対象としてこれを追加したのが、本件提訴から3年以上経過した後の令和7年4月14日付け「第11準備書面(兼 訴えの変更(追加)申立書)」によるものであることは確かである。
しかし、原告は、あくまでも mammodite の正規品こそが本件侵害品であるとの立場に立って、別紙「被告製品等目録(原告特定)」記載1の製品等の差止め等を求めていたもので、相応の根拠があったものでもあるところ、これが認められないとする裁判所からの心証開示を受けて、やむを得ず、予備的な請求として、テストツールが本件侵害品であるとの前提で訴えの追加的変更をしたものであるところ、了解可能な訴訟経過であり、特段原告に責められるべき点はない。また、この追加がされた後、対象特定のあり方をめぐって、双方当事者及び裁判所間で一定の議論等はあったものの、侵害論そのものは、それまでの審理がそのまま活かされたもので、これによって、著しく訴訟手続を遅滞させるものであったとは認められない。
以上より、当裁判所は、訴えの変更を許さない旨の決定をすることなく、上記訴えの変更を認めて審理を進めた上で、本判決をするものである。
4 争点4(被告Aの共同不法行為の成否)について
原告は、被告会社の取締役にして、平成27年7月6日からは代表取締者である被告A個人も、被告会社と共同で、本件侵害品たるテストツールに原告プログラムを複製し、使用したのであるから、被告Aには被告会社の著作権侵害又は不競法違反について共同不法行為が成立すると主張する。
しかし、テストツールの制作過程における被告A個人の関わりの内容、程度等は何ら具体的に主張立証されているものではなく、会社としての著作権侵害行為があった場合に、その取締役ないし代表取締役個人につき、当然に共同不法行為が成立するものでもない。以上は、被告会社に不競法違反が成立するとした場合でも同様である。
よって、原告の上記主張は採用できない。
5 争点5(被告Aの会社法429条に基づく損害賠償責任の成否)について
原告は、被告会社の著作権侵害又は不競法違反について、代表取締役である被告Aの任務懈怠があったので、被告Aは会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負う旨主張する。
しかし、前記4と同様に、被告Aの任務懈怠や重過失との評価を根拠づける事実などについての具体的な主張立証はされていないし、会社による著作権侵害等があった場合に、その取締役ないし代表取締役につき、当然に会社法429条1項の責任を負うものでもない。
よって、原告の上記主張は採用できない。
6 争点6(被告らの一般不法行為の成否)について
(1) 被告会社関係
前記2(1)で説示したところにより、本件別製品たる mammodite の正規品との関係についてのみ、不法行為の成否を判断するに、既に繰り返し説示しているとおり、本件別製品たる mammodite の正規品は、原告プログラムを複製、使用したものとはいえないところ、原告プログラムのライセンス契約を締結していないことを基礎に不法行為の成立を論じる原告の主張は、その前提において採用できないといえる。
(2) 被告A関係
ア まず、本件別製品たる mammodite の正規品との関係では、上記(1)同様の理由により、被告Aについても、不法行為が成立するとは認められない。
イ 本件侵害品たるテストツールとの関係でも、やはり被告A個人の具体的な関わりの内容、程度等は具体的に主張立証されていないから、原告主張に係る不法行為が成立するとはいえない。
7 争点7(原告の損害額)について
前記説示のとおり、被告会社は、原告プログラムを自らの開発環境に複製し、これを使用して、原告プログラムのライブラリをその一部とする本件侵害品たるテストツールを制作するとともに、そのテストツールを、mammodite の正規品に動作不良等があった場合の動作検証等で業務上利用してきたものである。そして、mammodite の正規品の販売は、平成24年9月頃には開始されたものであるが、テストツールの必要性は、その性質からして、正規品の販売開始当初から存在していたといえる上、原告プログラムを保有していたクライム社から被告会社への複数の転職者の存在も前提とすれば、正規品の販売開始当初から、上記テストツールも制作済みであったと認められる。
したがって、被告会社による原告プログラムの著作権侵害に係る損害額を算定するにあたっては、被告会社によるテストツールの利用が、平成24年9月頃から、クライム社が別件訴訟を提起し、被告会社が本件侵害品たるテストツールの利用を一律でやめることとしたとする令和2年2月頃(これ以降も利用が継続していることを認めるに足りる証拠はない。)までの長期間にわたっていることを前提として検討することとなる。
(1) テストツール制作時の損害
医療用システムの開発業者が、原告から利用許諾を受けてプログラム開発のために原告プログラムを利用する場合、開発プログラムパッケージの購入費用として、PDプログラムのライセンス料につき48万円(消費税別)、ICプログラムのライセンス料につき20万円(消費税別)が必要となる(甲4)ところ、被告会社の本件侵害品たるテストツール制作に係る原告プログラムの複製によって原告が被った損害額は、平成24年当時の消費税率及び原告の主張を踏まえて71万4000円と認める。
原告は、開発環境として3ライセンス分の損害が発生している旨主張するが、具体的根拠を欠くものであって、採用することができない。
(2) テストツール利用時の複製による損害
被告会社は、平成24年9月頃以降、mammodite の正規品の製造販売と併せて、本件侵害品たるテストツールを、その用途に応じた必要時に、正規品納入先の医療機関のパソコンに複製し、事業上利用し続けてきたものであり、これが、クライム社が被告らに対する別件訴訟を提起した令和2年2月頃まで継続していたものといえる。
このような複製によって原告が被った損害額については、単位数量あたりのライセンス料相当額に、その単位に応じた複製の数量を乗じることで算定することができるという限りにおいては、双方当事者間で見解の相違はないものの、①単位の採り方も含めた単位数量あたりのライセンス料相当額の点とともに、②本件侵害品たるテストツールがどの程度の数の医療機関で複製、利用されていたかについて、双方の主張には大きな隔たりがあるため、以下、検討する。
ア まず、原告における原告プログラムのランタイムライセンス料は、パソコン1台を単位として、PDプログラムにつき3万2000円(消費税別)、ICプログラムにつき2万円(消費税別)とされている(甲4)。他方で、証拠(乙65)によれば、本件侵害品たるテストツールが医療機関で複製される場合、PDプログラム及びICプログラムの双方を含むことが多いものの、オプション製品であるICプログラムを含んでいない場合もあったと認められるほか、医療機関の規模等に応じて、原告プログラムが複製されるパソコンが複数台に及ぶ場合があった可能性も否定できない。テストツールという性質もあり、平成24年にまで遡ってその詳細を明らかにすることは困難であるが、損害算定上、後記イの医療機関数を乗じるにあたり、被告会社の本件における侵害態様や著作権法114条5項も踏まえ、1医療機関あたりのライセンス料相当額を10万円とするのが相当である。
これに対し、原告は、1医療機関あたりのライセンス料相当額を140万8000円とすべきである旨主張するが、これは、原告プログラムのランタイムライセンス料相当の損害について、本件侵害品を構成する個々のプログラムごとに別個に発生するとして、それらを全て足し合わせて計算したものであり、被告会社の侵害態様を踏まえても過剰な金額となっているといわざるを得ず、採用できない。
イ 次に、本件侵害品たるテストツールが複製された医療機関の数を検討するが、テストツールの性質に加え、被告会社が平成24年以降の長期間にわたって利用してきたこともあり、医療機関数を厳密に認定することは困難である。
しかし、本件における被告会社の侵害態様に加え、その侵害が外部からは通常うかがいしれない場で行われてきたことに照らしても、医療機関数の厳密な認定が困難であることをもって、その負担を原告に一方的に帰することは、当事者間の衡平を害するものといえる。
このような観点も踏まえて検討するに、被告会社による本件侵害品たるテストツールの利用期間は、平成24年9月頃から令和2年2月頃までの8年近くに及ぶ長期間にわたるものであったほか、被告会社が販売するmammodite の顧客たる医療機関は、全国的な広がりを持ち、相当の数にのぼるものといえる(乙27、28、32、38、65、弁論の全趣旨)。また、テストツールの必要性は、特に mammodite 販売開始当初の方が相対的に高かったであろうことはうかがわれるものの、これを長期間維持管理して利用していた以上、その負担等に見合うだけの頻度での需要が継続的にあったと考えられる。この点、平成30年前後で、証拠上判明しているだけでも、BクリニックとD病院において本件侵害品たるテストツールが複製されているところ、この点も、相応の頻度での複製、利用が継続していたことを示唆しているし、本件別製品と本件侵害品との入替えを容易に実行することのできる切替えツールの存在(乙27、28、42)も、これに符合するものである。しかも、前記1の認定・説示に照らせば、上記のBクリニック及びD病院では、mammodite の導入当初から、一定まとまった期間にわたって、本件侵害品を利用可能な環境が継続していたものといえるところ、テストツールとは言いながらも、テストツールとしての用途を超えて、マンモグラフィー画像診断用システムの本番環境として利用される場合もあったと認めざるを得ない(被告らの主張には、このようなテストツールの本番環境での利用につき、設定作業時の誤りによるものである旨も含まれているが、仮に、被告会社が意図してのことではなく、設定作業時の誤りによるものであったとしても、そのようなことが生じ得る管理等の状況にあったことに照らせば、過失による不法行為責任を免れるものではない。)。
以上をはじめとする本件の諸事情を踏まえ、原告の被った損害の算定上、本件侵害品たるテストツールが複製された医療機関の数を80とするのが相当である。そして、損害算定の基礎とすることで争いのない被告会社の検証サーバー(52サーバー)への複製分を加えた81を上記アの金額である10万円に乗じ、原告の損害額は810万円と算定される。
これに対し、被告らは、社内での調査(乙65)によっても、本件侵害品たるテストツールの複製ないし利用の件数は多くとも10ないし12件程度である旨主張するが、mammodite の正規品の販売が開始された直後である平成24年及び平成25年の利用実績がほとんどないというテストツールとしての不自然さに加え、上記で説示した諸事情に照らし、過小な申告といわざるを得ず、当事者間の衡平の観点も踏まえ、採用することはできない。
(3) 弁護士費用
被告会社の本件著作権侵害(不法行為)と相当因果関係のある弁護士費用は、上記(1)(2)の認容額、本件訴訟の難易度及び差止等請求が認容されていることなどの事情を総合考慮して、120万円と認めるのが相当である。
(4) 小括
以上によれば、原告の被った損害額は1001万4000円となる。
8 争点8(消滅時効の成否)について
被告会社は、本件侵害品たるテストツールに係る原告の被告会社に対する損害賠償請求権について、原告は、クライム社がBクリニックから採取したプログラムの提供を受けた令和3年6月18日時点において「損害及び加害者を知った」といえる一方、原告が上記損害賠償請求権について、訴えの追加的変更で請求するに至ったのは、令和7年4月14日のことであるところ、原告の上記損害賠償請求権は全て令和3年6月18日以前に発生したものであるから、令和6年6月18日の経過をもって時効消滅した旨主張する。
しかし、原告は、令和4年3月2日の本件訴訟提起時点から、被告会社が自社のマンモグラフィー画像診断システムに原告プログラムを複製し、著作権を侵害したことで、その著作権者である原告が損害を被ったことによる不法行為に基づく損害賠償請求権につき、被告会社に裁判上の請求をしていたもので、これによって、本件で認められるべき旨説示した原告の被告会社に対する損害賠償請求権の消滅時効に係る完成猶予の措置がとられたものといえる。当該侵害品が、mammodite の正規品であるか、テストツールと称すべきものであるかは、差止め等の請求の対象特定等の文脈であればともかく、本件の不法行為に基づく損害賠償請求権そのものの同一性を左右する事情とはいえない。
他方で、被告らの主張を前提にしても、原告が「損害及び加害者」を知ったのは、令和3年6月18日となるから、本件訴訟の提起をもって時効の完成猶予の措置がとられた令和4年3月2日までに、3年の消滅時効は完成していなかったことになる。
よって、原告の被告会社に対する不法行為に基づく損害賠償請求権が時効消滅した旨の被告会社の主張は採用できない。
第5 結論
よって、原告の請求は主文の限度で理由があるから、その限度で認容し、その余を棄却することとし、主文のとおり判決する。なお、主文第2項及び第3項(2)イについては、仮執行宣言は相当でないから付さないこととするものである。
大阪地方裁判所第21民事部
(裁判長裁判官 松川充康)
裁判官阿波野右起及び同島田美喜子は、転補のため署名押印できない。裁判長裁判官 松川充康
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